2023年度書評一覧

「読売新聞」 [2023年5月28日付] から(評者:遠藤乾氏)

消え去る立法者
フランス啓蒙における政治と歴史

消え去る立法者

王寺賢太著『消え去る立法者』が、「読売新聞」(2023年5月28日付)で紹介されました。かつてこんなふうに読まれたことがあっただろうか ——。モンテスキューとルソー、そしてディドロへ。彼らが格闘し、解き明かし、残した問題とは何か。新たな共同体の創設という課題に直面し、法の根拠を問い直す重層的なテクストを読み抜き、「啓蒙」をクリシェから解き放った、気鋭の力作。

“ばらばらな個人から社会はどうできるのか。政治はいつ現れ、国家や政府、法律はどのような歴史のなかで成立するのか。そんな根本的な問いに政治思想史は答えてきた。なかでも、モンテスキューやルソーといった18世紀フランスの啓蒙主義者は、近代がはやくも揺らぐなか、先行するホッブズと格闘しながら、そうした問いに取り組んだ。
本書は、その思索の湖や概念の森に深く分けいる。その際、プラトン以来論争の的であった「立法者」——「正統な政治共同体の(再)創設者」—— のあり方を手がかりに、語りつくされたかに見える古典に斬新な切りこみをいれ、現代に生きるわれわれにその意味を突きつける。……
ルソーがモンテスキューを転倒させ、歴史を過去からの制約としてでなく、潜在的な人民主権が顕在化しうる未来に投射しているのを見てとるとき、いまある政治や社会をいつでも転覆しうる可能性がそこに留保されよう。”(第13面)

王寺賢太 著
税込6,930円/本体6,300円
A5判・上製・532頁
ISBN978-4-8158-1120-4 C3010
在庫有り


「考える人」 [新潮社ウェブマガジン、リレー書評「たいせつな本 —— とっておきの10冊」、2023年5月19日] から

明代とは何か
「危機」の世界史と東アジア

明代とは何か

岡本隆司著『明代とは何か』が、「考える人」(新潮社ウェブマガジン、2023年5月19日)の「たいせつな本 —— とっておきの10冊」で紹介されました。現代中国の原型をかたちづくるとともに、東アジア史の転機ともなった明代。世界的危機の狭間で展開した財政経済や社会集団のありようを、室町期や大航海時代との連動もふまえて彩り豊かに描くとともに、民間から朝廷まで全体を貫く構造を鋭くとらえ、新たな時代像を提示します。

岡本隆司 著
税込4,950円/本体4,500円
A5判・上製・324頁
ISBN978-4-8158-1086-3 C3022
在庫有り


『歴史学研究』 [2023年6月号、第1036号] から(評者:石野一晴氏)

関羽と霊異伝説
清朝期のユーラシア世界と帝国版図

関羽と霊異伝説

太田出著『関羽と霊異伝説』が、『歴史学研究』(2023年6月号、第1036号、歴史学研究会編)で紹介されました。三国志の英雄はなぜ中国を代表する神となったのか。民間信仰の広がりと近世国家による統治の不可分の関係を示すとともに、帝国版図の拡大にはたしたその役割を、ユーラシア諸民族とのせめぎあいや現地の神々との習合も視野に描き出します。古代から今日にいたる関羽信仰の全貌を捉えた力作。

“…… 本書は、本邦の歴史学分野における最も優れた関羽信仰研究と言える。宗教研究が取り上げない檔案史料、とりわけ軍事関係の記録を紐解き清朝の関帝信仰を解明しようとする試みはこれまで存在しなかった。地方志などの史料を網羅的に博捜し、具体的史料を多数提示することに成功しているのは、ひとえに著者の並々ならぬ熱意の賜物にほかならない。それらの史料が平明な現代語訳によって提示されることで、関帝信仰の具体相が読者の前に生き生きと立ち現れてくる。
これらの多様な史料の分析から、中国近世において宗教が大きな影響力を持っていたこと、王朝が宗教を通じて民衆を統治しようとしていたことなど、中国史を理解する上で重要な視点を『三国志』で有名な関羽という題材を通じて再確認する意義は大きい。さらに議論を漢人の世界に止めるのではなく、ユーラシア大陸全体まで広げるスケールの大きさは従来の研究にはまったく見られなかったものである。今後、清朝の国家と宗教をめぐる問題を論ずる上で、避けて通れない研究となることは間違いない。……”(p.70)

太田 出 著
税込5,940円/本体5,400円
A5判・上製・324頁
ISBN978-4-8158-0961-4 C3022
在庫有り


『図書新聞』 [2023年5月27日号、第3592号] から(評者:松田美枝氏)

「ひきこもり」と「ごみ屋敷」
国境と世代をこえて

「ひきこもり」と「ごみ屋敷」

古橋忠晃著『「ひきこもり」と「ごみ屋敷」』が、『図書新聞』(2023年5月27日号、第3592号、武久出版発行)で紹介されました。日本だけではない。若者だけではない。—— 共通性と違いに目を向けることで、初めて見えてくる処方箋。著者自身の国内外での臨床経験と、精神医学の知見を踏まえつつ、当事者と向きあい、社会に問いかける、「ひきこもり」「ごみ屋敷」問題を根本から考え直す洞察の書。

“…… 本書全体を通して、特に印象に残るのは、「ひきこもり」(および「ごみ屋敷」)は、空間的な問題ではなく社会関係の問題であると、一貫して述べられている点である。コロナ禍で自宅にこもっていたとしても、それだけでは「ひきこもり」であることにはならない。家の中が散らかっているという事実だけで、「ごみ屋敷」ということにはならないからである。そうではなく、社会的に望ましいとされるあり方や、それを正しいと考える他者からの圧力を巡って、「主体」が自らを何処にどのように位置付けるのか、ということが問題になっているのである。そのように考えを整理してみると、支援者である読者の日常の臨床や、家族である読者の日々の関わりにおいて、少し心の余裕をもって、本人と関われるのではないだろうか。”(第3面)

古橋忠晃 著
税込3,520円/本体3,200円
四六判・上製・284頁
ISBN978-4-8158-1113-6 C3036
在庫有り


『図書新聞』 [2023年5月27日号、第3592号] から(評者:西平等氏)

国際法を編む
国際連盟の法典化事業と日本

国際法を編む

高橋力也著『国際法を編む』が、『図書新聞』(2023年5月27日号、第3592号、武久出版発行)で紹介されました。大国中心の法創造プロセスに風穴をあけ、初めて幅広い主体に国際法を開いた国際連盟の法典化事業。特に積極的な貢献をみせた日本を軸に、失敗とされたハーグ会議の意義を再評価、国益の追求にとどまらない法律家の実像を活写し、国際法の歴史を外交史的アプローチもふまえて描き直します。

“…… 困難にぶつかって、国際連盟の法典化作業は目立った成果を残すことができないまま終わる。しかし、著者は、しばしば「失敗」と呼ばれてきたそのような作業の中に、国際法の発展を促進する議論の蓄積を見出し、さらには、日本外交官や専門家がそこにおいて果たした積極的な役割を明らかにしようとする。…… 法典化作業における日本の役割を包括的に再検討した本書には、国際連盟と日本の関係を新たな側面から見直すという重要な意義がある。……”(第5面)

高橋力也 著
税込9,900円/本体9,000円
A5判・上製・546頁
ISBN978-4-8158-1111-2 C3032
在庫有り


『法制史研究』 [第72号、2023年3月] から(評者:嘉藤慎作氏)

奴隷貿易をこえて
西アフリカ・インド綿布・世界経済

奴隷貿易をこえて

小林和夫著『奴隷貿易をこえて』が、『法制史研究』(第72号、2023年3月、法制史学会発行)で紹介されました。豊かな消費市場として発展を始めたアフリカが、18・19世紀の世界経済の興隆に果たした役割とは。奴隷貿易史観をこえ、現地の動向からインド綿布への旺盛な需要がもたらしたインパクトを実証、グローバル化の複数の起源を解き明かし、西アフリカの人々の主体的活動に新たな光をなげかけます。

“…… 本書の意義を3つ挙げたい。第一に、グローバル化の多元性についてヨーロッパを介した西アフリカと南アジアとの関係を事例として実証的に描き出したことである。…… 史料を用いた実証に加えて、背景にある連関を丁寧に読み解きつつ、他地域との比較もおこなうことで、実証的なグローバル・ヒストリー研究の1つの形を示したと言えるだろう。
第二に、ヨーロッパと西アフリカとの貿易におけるインド綿布の重要性に鑑みて、大西洋貿易論における問題点を指摘して、新しいモデルを提示した点である。……
本書が日本語で刊行されたことも意義深い。…… 西アフリカ経済史に加え、グローバル・ヒストリーについても先行研究を渉猟して本書を執筆しており、その点で本書は最新の成果を示す研究書でありながら、初学者にとって有用な手引としての役割も果たしうる。…… ”(pp.418-419)

小林和夫 著
税込6,380円/本体5,800円
A5判・上製・326頁
ISBN978-4-8158-1037-5 C3022
在庫有り


『図書新聞』 [2023年5月20日号、第3591号] から(評者:古家弘幸氏)

イギリス思想家書簡集 アダム・スミス

イギリス思想家書簡集アダムスミス

篠原久・只腰親和・野原慎司訳『イギリス思想家書簡集 アダム・スミス』(シリーズ監修者 田中秀夫・坂本達哉)が、『図書新聞』(2023年5月20日号、第3591号、武久出版発行)で紹介されました。親密圏と公共圏のあいだで、知的コミュニケーションの場として決定的位置をしめた手紙。知られざる論点、新たなアイディアが書物とは異なるかたちで問いかけられ表明され、人々を動かしていく。『国富論』など主著には現れない見解からヒュームとの交友まで、精彩に富むスミス書簡の初の全訳。

篠原 久・只腰親和・野原慎司 訳
(シリーズ監修者 田中秀夫・坂本達哉)
税込6,930円/本体6,300円
A5判・上製・502頁
ISBN978-4-8158-1107-5 C3010
在庫有り


『ドイツ研究』 [第57号、2023年3月] から(評者:藤原辰史氏)

政治的暴力の共和国
ワイマル時代における街頭・酒場とナチズム

政治的暴力の共和国

原田昌博著『政治的暴力の共和国』が、『ドイツ研究』(第57号、2023年3月、日本ドイツ学会発行)で紹介されました。苛烈な暴力を許容する社会はいかにして生まれたのか ——。議会制民主主義を謳うワイマル共和国。だが、街頭は世論を左右する新たな公共圏として、ナチスや共産党のプロパガンダの場となり、酒場を拠点とした「暴力のサブカルチャー」が形成されていく。実像を初めて描きだした力作。

“……『政治的暴力の共和国』と題されたこの書物の中で、著者は、政治的暴力に怯えていた人びとではなく、それに魅せられていた人びとに着目せよと読者を誘う。私なりにいささか過剰に読み込むならば、多分本書は、言葉の代わりに放たれる暴力のスペクタクルに、その行為者として、あるいは、受け手として魅せられるかもしれない(あるいは、傍観し続けるかもしれない)「私たち」の心の奥底を掘り起こし、その上で政治とは何かを改めて考えよ、というタフな問いをつきつけている。政治概念そのものを問い直さずにはいられなくなるのが、本書の魅力である。
実際、結論部分で著者は、「民主主義を標榜するワイマル憲法をもつ社会であっても、暴力が忌避されず、むしろ一部の(決して少なからぬ)者に「魅力」すら与えていた」ことを重視し、「暴力をためらわない非言論的・非議会主義的な政党であると知りながら、人びとはナチスに投票したのであり、共産党も含めて暴力を隠すことのない政党が実際に暴力を行使する中で選挙での得票を増加させ、逆に暴力に対して消極的な政党の得票が減少した」事実を直視するように読者を誘っている(297頁)。
政治の野蛮化が進む現代社会において、このスリリングでチャレンジングな研究の成果が、各所の文書館に収められた警察・検察関連資料の精緻な分析をともなって刊行されたことを、私は、ドイツ史を研究する人間だけではなく、政治に関心のある全ての人びとにとってきわめて意義のあることだと考える。……”(p.40)

原田昌博 著
税込6,930円/本体6,300円
A5判・上製・432頁
ISBN978-4-8158-1039-9 C3022
在庫有り


『地図情報』 [第43巻第1号、2023年5月] から(評者:川村博忠氏)

絵図の史学
「国土」・海洋認識と近世社会

絵図の史学

杉本史子著『絵図の史学』が、『地図情報』(第43巻第1号、2023年5月、地図情報センター発行)で紹介されました。近世期、高度に成熟した表現を獲得した国絵図、鳥瞰図などの絵図の役割を、色彩・材料などのモノや、制作者や人々の想像力から新たに捉え、近代地図への発展史観が見落とした全体像を提示、海図など海洋の視点も導入して、近代移行期の社会空間をめぐる理解を書き換える、絵図研究の決定版。

“…… 本書は近世から近代移行期まで、わが国での地図作成の流れを政治と社会との関連でとらえているが、とりわけ近代移行期の海洋認識による国土理解の新展開を詳しく解説している。本書では最後にまとめて掲載する脚注の詳細さが並はずれている。…… 歴史地理学の研究を試みようとするものにとっては、手元に備えておくべき必携の書である。”(p.34)

杉本史子 著
税込5,940円/本体5,400円
A5判・上製・440頁
ISBN978-4-8158-1062-7 C3021
在庫有り


『日本歴史』 [2023年5月号、第900号] から(評者:落合功氏)

塩と帝国
近代日本の市場・専売・植民地

塩と帝国

前田廉孝著『塩と帝国』が、『日本歴史』(2023年5月号、第900号、日本歴史学会編)で紹介されました。帝国日本の経済と生命を支えた一次産品、塩の生産・流通・消費の動態をトータルに解明、植民地塩の内地への浸透プロセスを専売や瀬戸内塩業も視野にとらえて、忘れられた塩の経済圏の全体像を示すとともに、戦後へとつながる食料、資源の対外依存構造のルーツを描き出します。

“…… 従来の近代塩業史研究は国内塩業だけで議論されることが多かった。この点、本書では、台湾塩、関東州塩など植民地塩の果たした役割が大きいことを明らかにし、それは、近代の経済構造そのものであることを示している。
この点で、近代経済史を考えるとき、植民地経済の問題を国内経済と相対的にとらえてきたが、本書では経済圏として一体的に理解しようとしたことに本書の積極的な評価となるだろう。……”(p.141)

前田廉孝 著
税込8,800円/本体8,000円
A5判・上製・484頁
ISBN978-4-8158-1055-9 C3033
在庫有り


『歴史学研究』 [2023年5月号、第1035号] から(評者:長田浩彰氏)

政治的暴力の共和国
ワイマル時代における街頭・酒場とナチズム

政治的暴力の共和国

原田昌博著『政治的暴力の共和国』が、『歴史学研究』(2023年5月号、第1035号、歴史学研究会編)で紹介されました。苛烈な暴力を許容する社会はいかにして生まれたのか ——。議会制民主主義を謳うワイマル共和国。だが、街頭は世論を左右する新たな公共圏として、ナチスや共産党のプロパガンダの場となり、酒場を拠点とした「暴力のサブカルチャー」が形成されていく。実像を初めて描きだした力作。

原田昌博 著
税込6,930円/本体6,300円
A5判・上製・432頁
ISBN978-4-8158-1039-9 C3022
在庫有り


『アートコレクターズ』 [2023年5月号、著者インタビュー] から

共和国の美術
フランス美術史編纂と保守/学芸員の時代

共和国の美術

『共和国の美術』(藤原貞朗著)の著者インタビューが、『アートコレクターズ』(2023年5月号、生活の友社発行)に掲載されました。王なき世俗国家で人々は芸術に何を求めたのか。戦争に向かう危機の時代に、中世宗教美術や王朝芸術から、かつての前衛までを包摂するナショナルな歴史像が、刷新された美術館を舞台に創られていく。その過程を、担い手たる学芸員=「保守する人」とともに描き、芸術の歴史性を問い直します。

“—— 現在でも影響力を持つ当時の活動がなぜ研究の俎上に載らないのでしょうか。
第二次大戦後に自由主義陣営となる上で、保守的なフランス美術史が黒歴史だったからです。事実当時の学芸員の中にはナチスの芸術政策を支持した人も少数ながらいますし、保守的な美術史観の構造もかなり似通っていました。そのため、自由フランスが真のフランスだと自称するためには、当時の美術史観を直ちに捨て去る必要があったのです。
しかし、当時作られた美術史やルーブル美術館の展示方法などは基本的に継承されています。結果として保守的な政治思想が忘却され形だけが残っている歪な状態が現在です。研究でもこの分野は真空地帯になっており、文字通り何もなかったかのように見做されていますが、そのような状況こそが最も恐ろしいのではないでしょうか。
確かに、美術家においても批評家においてもこの時期のフランスには際立った天才がいませんでした。この時期の美術家個人の研究は盛んですが、より大きな全体意思を相手にすると、研究のハードルはかなり上がります。だからこそ、本書では作家や批評家の思想を追うのではなく、様々な人物の具体的な行動を歴史の主要なファクターにすることで、自ずと浮かび上がってくる時代の空気を捉えようとしました。……”(p.137)

藤原貞朗 著
税込6,930円/本体6,300円
A5判・上製・454頁
ISBN978-4-8158-1110-5 C3071
在庫有り


『大原社会問題研究所雑誌』 [第775号、2023年5月号] から(評者:ジャネット・ハンター氏)

日本綿業史
徳川期から日中開戦まで

日本綿業史

阿部武司著『日本綿業史』が、『大原社会問題研究所雑誌』(第775号、2023年5月号、法政大学大原社会問題研究所発行)で紹介されました。明治の産業革命をリードし瞬く間に世界市場を制覇した日本綿紡績・織物業の競争力の源泉とは。近代的大紡績企業と、近世から続く農村織物産地や流通を担う問屋・商社などの連携による成長過程を初めて解明、衰退に向かう戦後も視野に、巨大産業の興隆を圧倒的な密度とスケールで描く決定版。

“明治初期から1930年代後半にかけての日本の綿業について、阿部武司教授ほど包括的な歴史を書ける学者はいないと思われるが、本書はその期待を裏切らない。本書は、長年にわたる先行研究と著作、関連文献の総合的な知識、そして熟考に基づき、1930年代に日本の伝統的な綿業が世界一の輸出国にまで発展した経緯について理解を深めようとするすべての読者にとって「必読書」となることだろう。本書は、このテーマに対して革新的なアプローチをとっている。特に、これまでの研究の多くが、日本の近代的な大規模紡績会社の成長と、より伝統的な織物産地の成長のどちらかに焦点を当てる傾向があったのに対し、この分析では、両方の考察を組み合わせることにより、綿織物の製造と販売に関わる生産と企業の全範囲を探求することができるようになっている。その結果、日本経営史のみならず、世界経済における日本綿業の意義や、日本の工業化の全体的な過程について、新たな洞察を得ることができる。また、労働集約的な工業化の重要性や、日本の発展における近代産業と「在来」産業の両企業の意義など、現在進行中の議論に新たな視点から関与することができるのである。……”(p.73)

阿部武司 著
税込7,920円/本体7,200円
A5判・上製・692頁
ISBN978-4-8158-1059-7 C3033
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『日伊文化研究』 [第61号、2023年3月] から(評者:飯田巳貴氏)

近世東地中海の形成
マムルーク朝・オスマン帝国とヴェネツィア人

近世東地中海の形成

堀井優著『近世東地中海の形成』が、『日伊文化研究』(第61号、2023年3月、日伊協会発行)で紹介されました。古くから東西交易の要衝として栄えた「レヴァント」。中世から近世への転換のなか、イスラーム国家とヨーロッパ商人の「共生」を支えてきた秩序の行方は? オスマン条約体制や海港都市アレクサンドリアのありようから、異文化接触の実像を明らかにするとともに、東アジアに及ぶ「治外法権」の淵源をも示した力作。

“…… 本書の特徴はおよそ4つに大別できよう。第一に、従来専らカピチュレーション(商業特権、治外法権)の問題として扱われてきたオスマン帝国君主から友好関係にある西欧諸国に与えられた条約が、オスマン条約体制のなかで整理し直されている事である。…… 第二に、「オスマン条約体制」すなわちアフドナーメの多様な規定と関連する原理原則、法令、慣習、制度、運用の仕組みが解説され、続いて「規範構造」すなわち条約文書に記された規定そのものと、個別具体的な規定に内在する原理原則の実態とその変遷が、アフドナーメ本文にアラビア語・イタリア語史料の分析も加えて検討されている事である。……第三に、条約の規範が現実に呼応して継続又は変容する過程が具体的に検討された事である。…… 最後に特記すべきは、主要一次史料がアラビア語、オスマン語、イタリア語(ヴェネツィア方言)等多言語にわたる事である。…… 一人の研究者が国家や地域ごとに異なる一次史料や文書史料の体系を熟知し多言語の史料を読みこなす事は容易ではない。管見の限り、この点でも堀井氏は国内外の研究者のなかで傑出している。本書は地中海および周辺地域の歴史、さらに地中海世界に限らず国際条約体制の歴史に関心を持つ者にとっても必読の書である。”(p.89)

堀井 優 著
税込5,940円/本体5,400円
A5判・上製・240頁
ISBN978-4-8158-1053-5 C3022
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「朝日新聞」 [2023年4月22日付] から(評者:椹木野衣氏)

共和国の美術
フランス美術史編纂と保守/学芸員の時代

共和国の美術

藤原貞朗著『共和国の美術』が、「朝日新聞」(2023年4月22日付)で紹介されました。王なき世俗国家で人々は芸術に何を求めたのか。戦争に向かう危機の時代に、中世宗教美術や王朝芸術から、かつての前衛までを包摂するナショナルな歴史像が、刷新された美術館を舞台に創られていく。その過程を、担い手たる学芸員=「保守する人」とともに描き、芸術の歴史性を問い直します。

藤原貞朗 著
税込6,930円/本体6,300円
A5判・上製・454頁
ISBN978-4-8158-1110-5 C3071
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「朝日新聞」 [2023年4月22日付] から(評者:三牧聖子氏)

消え去る立法者
フランス啓蒙における政治と歴史

消え去る立法者

王寺賢太著『消え去る立法者』が、「朝日新聞」(2023年4月22日付)で紹介されました。かつてこんなふうに読まれたことがあっただろうか ——。モンテスキューとルソー、そしてディドロへ。彼らが格闘し、解き明かし、残した問題とは何か。新たな共同体の創設という課題に直面し、法の根拠を問い直す重層的なテクストを読み抜き、「啓蒙」をクリシェから解き放った、気鋭の力作。

王寺賢太 著
税込6,930円/本体6,300円
A5判・上製・532頁
ISBN978-4-8158-1120-4 C3010
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『史学雑誌』 [2023年3月号、第132編第3号] から(評者:大黒俊二氏)

〈叫び〉の中世
キリスト教世界における救い・罪・霊性

〈叫び〉の中世

後藤里菜著『〈叫び〉の中世』が、『史学雑誌』(2023年3月号、第132編第3号、史学会発行)で紹介されました。中世ヨーロッパは叫び声に満ちていた ——。修道士や「敬虔な女性たち」の内心の叫びから、異界探訪譚が語る罪人の悲鳴、さらには少年十字軍や鞭打ち苦行運動に伴う熱狂まで、キリスト教世界に響き渡る多様な〈声〉に耳を傾け、霊性史・感情史の新生面を切り拓く気鋭の力作。

“『〈叫び〉の中世』というタイトルは多くの読者の意表を突き戸惑わせるだろう ——〈叫び〉のような衝動的でほとんど原始的ともいえる声にそもそも歴史はあるのか、仮にあるとして西洋中世に固有の〈叫び〉を見出しうるのか、と。当然予想されるこの種の疑問に対して著者は、西洋中世の〈叫び〉を〈霊性〉の変化の中で観察することによって一つの答えを出そうとしている。本書においては〈霊性〉が〈叫び〉とともにもう一つのキーワードである。…… 〈霊性〉そのものは西洋中世研究においては聖人崇敬、修道制、神秘主義などの研究をとおして古典的なテーマといってよいが、それを〈叫び〉の観点から捉え直したところに本書のユニークさがある。本書において〈叫び〉と〈霊性〉は重なり合いまた対立するものとして提示されており、そのありさまを11世紀から15世紀にかけて追うことで『〈叫び〉の中世』が具体的な姿を現してくる。……”(pp.88-89)

後藤里菜 著
税込5,940円/本体5,400円
A5判・上製・364頁
ISBN978-4-8158-1040-5 C3022
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「読売新聞」 [2023年4月16日付] から(評者:小泉悠氏)

ニュースピークからサイバースピークへ
ソ連における科学・政治・言語

ニュースピークからサイバースピークへ

スラーヴァ・ゲローヴィチ著『ニュースピークからサイバースピークへ』(大黒岳彦訳/金山浩司校閲・解説)が、「読売新聞」(2023年4月16日付)で紹介されました。統制的国家において、科学はいかにふるまうのか? 空疎なイデオロギー話法を乗り越える、厳密で普遍的な科学言語として期待されたサイバネティックス。この「自由の道具」が、数学・生物学・生理学・言語学などソ連科学界を席巻した末に、社会の科学的管理をめざして体制化していく道程をヴィヴィッドに描きだします。それは彼方の世界か、あるいは我らの鏡か?

“…… 科学史という一見地味なテーマでありながら、このアクロバティックな展開には興奮させられた。…… 翻訳も読みやすい文体であり、本書を専門書としてだけでなく、読み物としても優れたものとしている。”(第12面)

スラーヴァ・ゲローヴィチ 著
大黒岳彦 訳/金山浩司 校閲・解説
税込6,930円/本体6,300円
A5判・上製・358頁
ISBN978-4-8158-1115-0 C3022
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「毎日新聞」 [2023年4月15日付] から(評者:岩間陽子氏)

オスマン帝国の世界秩序と外交

オスマン帝国の世界秩序と外交

鈴木董著『オスマン帝国の世界秩序と外交』が、「毎日新聞」(2023年4月15日付)で紹介されました。イスラム的世界帝国の理念・現実・変容 ——。ナショナルな主権国家とは異なる秩序観に基づき、多様な人々を包摂した大帝国。そのダイナミックな「国際」関係や対外交渉行動を描くとともに、近代の西欧国際体系との関係を、外交使節や公館、革命や大戦への対応などから論じた、碩学の労作。原初から終焉までの600年余を文明史的視角から一望します。

鈴木 董 著
税込5,940円/本体5,400円
A5判・上製・324頁
ISBN978-4-8158-1117-4 C3022
在庫有り


『週刊読書人』 [2023年4月14日号、第3485号] から(評者:本内直樹氏)

失業を埋めもどす
ドイツ社会都市・社会国家の模索

失業を埋めもどす

森宜人著『失業を埋めもどす』が、『週刊読書人』(2023年4月14日号、第3485号、読書人発行)で紹介されました。失業はいかにして発見され、社会政策の中心課題になったのか。繰り返し大量失業に悩まされたドイツにおいて、都市が国家に先駆けてセーフティネット構築をはかる姿を初めて解明、慈善団体や国家との対抗/連携の過程も鮮やかに捉えて、労働をめぐるモダニティの大転換を、現代も視野に描き出します。

“…… 周知のように、ドイツは19世紀末、世界で初の社会保険を導入した国である。イギリスもこれに倣い1911年に国民保険法(失業保険・健康保険)を制定した。しかし国家レベルの失業保険の点ではドイツはイギリスより十数年導入が遅れた。ところが著者はドイツの歴史的経験を辿る本書の中で、国家に先んじた失業者救済の「都市の先駆性」を強調する。
ドイツは1927年に国家の失業保険を導入したが、直後の世界恐慌で「破綻」した。これによる大量失業者の存在がナチスの台頭の一因を形成し、それまでの施策は失敗の烙印を押されてきた。ところが著者はこの通説に都市史の観点から新たな事実を発見し、これまでの議論に再検討を迫っている。その意味で、本書は従来の社会政策史研究の成果を吸収しつつも、都市史の側から新たな問題提起を試みた意欲作といえよう。……”(第7面)

森 宜人 著
税込7,480円/本体6,800円
A5判・上製・396頁
ISBN978-4-8158-1103-7 C3022
在庫有り


『中央公論』 [2023年5月号、「新刊この一冊」] から(評者:栗原悠氏)

変革する文体
もう一つの明治文学史

変革する文体

木村洋著『変革する文体』が、『中央公論』(2023年5月号、中央公論新社発行)の「新刊この一冊」で紹介されました。新たな文体は新たな社会をつくる ——。小説中心主義を脱し、政論・史論から翻訳・哲学まで、徳富蘇峰を起点にして近代の「文」の歩みを辿りなおし、新興の洋文脈と在来の和文脈・漢文脈の交錯から、それまでにない人間・社会像や討議空間が形づくられる道程をつぶさに描いた意欲作。

“…… 蘇峰を切り口とした一連の議論は、文学が現実社会を動かす政治や事業から隔絶されたところで人生観や個人の内面への思考を静かに深めていったとする史観を問い直し、さらに政治と文学とを画然と描き分け、前者に力点を置いて後者を顧みない歴史記述のありよう自体に再考を迫るものだ。それはさながら新しい星座を一から作りあげていくような、きわめてアクチュアルな試行と言えるだろう。
そしておそらくはそうしたドラスティックな認識の変更なしには、たとえばそれぞれ反自然主義の旗手と黎明期の自然主義の代表作家と目され、あまつさえ当人同士も批判し合っていた鏡花と国木田独歩を結びつける線が浮かび上がってくることもなかったに違いない。あるいは両者は蘇峰が持ち込んだユゴーへの熱を介して自らの小説に「深い思索」を描き込もうとした点で共振していたのだ。
本書を読み終えた時、読者はこれまでの文学史観によっては気づくことができなかったいくつもの論点が見えてくるだろう。” (p.195)

木村 洋 著
税込6,930円/本体6,300円
A5判・上製・358頁
ISBN978-4-8158-1108-2 C3095
在庫有り


『週刊社会保障』 [2023年2月27日号、第3208号] から(評者:川久保寛氏)

失業を埋めもどす
ドイツ社会都市・社会国家の模索

失業を埋めもどす

森宜人著『失業を埋めもどす』が、『週刊社会保障』(2023年2月27日号、第3208号、法研発行)で紹介されました。失業はいかにして発見され、社会政策の中心課題になったのか。繰り返し大量失業に悩まされたドイツにおいて、都市が国家に先駆けてセーフティネット構築をはかる姿を初めて解明、慈善団体や国家との対抗/連携の過程も鮮やかに捉えて、労働をめぐるモダニティの大転換を、現代も視野に描き出します。

“…… 失業や給付を切り口に、私たちを取り巻く制度・社会を考えさせる良書である。政策が正しさではなく「力」で決まるとしても、ドイツの議論と苦闘は、私たちに多くの示唆を与えてくれる。……
これまで、事前に拠出を必要とする社会保険と、拠出を必要としない扶助は、基本構造が異なることを前提に多くの議論が交わされてきたが、本書を読むと、失業をめぐる保険と扶助には当てはまらない部分が多いことに気づかされる。詳細な制度史および議論の研究から、私たちが学ぶべきことはまだある。
最後に、本書タイトルにある「埋めもどす」は絶妙な表現である。緻密な分析を通じて「埋めもどす」を見い出した筆者の論理を読み取っていただきたい。”(p.33)

森 宜人 著
税込7,480円/本体6,800円
A5判・上製・396頁
ISBN978-4-8158-1103-7 C3022
在庫有り


「朝日新聞」 [2023年4月8日付] から(評者:藤田結子氏)

アメリカの人種主義
カテゴリー/アイデンティティの形成と転換

アメリカの人種主義

竹沢泰子著『アメリカの人種主義』が、「朝日新聞」(2023年4月8日付)で紹介されました。差別を生み出し続けたステレオタイプ、制度、学知などによる黒人、アメリカ先住民、アジア系移民の人種化の実態を鋭くとらえるとともに、排除に抗うアイデンティティ形成のジレンマもはじめて一貫して提示、アートを手がかりに、固定化された対立をほどく、第一人者による渾身の成果。

竹沢泰子 著
税込4,950円/本体4,500円
A5判・上製・516頁
ISBN978-4-8158-1118-1 C3022
在庫有り


「東京新聞・中日新聞」 [2023年4月9日付] から(評者:矢部武氏)

アメリカの人種主義
カテゴリー/アイデンティティの形成と転換

アメリカの人種主義

竹沢泰子著『アメリカの人種主義』が、「東京新聞・中日新聞」(2023年4月9日付)で紹介されました。差別を生み出し続けたステレオタイプ、制度、学知などによる黒人、アメリカ先住民、アジア系移民の人種化の実態を鋭くとらえるとともに、排除に抗うアイデンティティ形成のジレンマもはじめて一貫して提示、アートを手がかりに、固定化された対立をほどく、第一人者による渾身の成果。

竹沢泰子 著
税込4,950円/本体4,500円
A5判・上製・516頁
ISBN978-4-8158-1118-1 C3022
在庫有り


『図書新聞』 [2023年4月15日号、第3587号] から(評者:稲賀繁美氏)

共和国の美術
フランス美術史編纂と保守/学芸員の時代

共和国の美術

藤原貞朗著『共和国の美術』が、『図書新聞』(2023年4月15日号、第3587号、武久出版発行)で紹介されました。王なき世俗国家で人々は芸術に何を求めたのか。戦争に向かう危機の時代に、中世宗教美術や王朝芸術から、かつての前衛までを包摂するナショナルな歴史像が、刷新された美術館を舞台に創られていく。その過程を、担い手たる学芸員=「保守する人」とともに描き、芸術の歴史性を問い直します。

“…… 畏怖すべきは、従来の内外の研究で盲点として見過ごされてきた事績に思わぬ照明を当て、美術行政の地形図に鮮明な輪郭と陰影を刻む着眼の才だろう。縦軸は conservateurs つまり直訳すれば「保守役職者」たる美術館員の世代交代と遍歴、横軸は彼らが現場組織責任者となった各種展覧会、その入れ物たる美術館運営の建付けや(問題山積の)ルーヴルを含む展示会場変更の時事問題。いわばコロンブスの卵だが、この経緯を繊細執拗に究める著者の慧眼は侮れない。……
本書の鮮烈にして、時に辛辣かつ皮肉も憚らぬ「症例」腑分け手裁きの妙技には、読者各位の目で直接触れて頂くのが相応しかろう。(日本の大学受験定番の)既成の事実の集積としての暗記物の「歴史」ではなく、(帯の言葉を借りるならば)「自由を謳う王なき世俗国家で人々は芸術に何を求めたのか」、その生成の現場、過去への遡及による時代錯誤を胚胎した「歴史編纂」の錯綜する実相が、功罪ともども頁毎に立ち現れる。その戦慄を読者は本書を通じて、「史上初体験」することになるからだ。
本書は母国側での近年の博士論文の遺漏や解釈の浅慮にも逐一批判を加えつつ、犀利かつ大胆な議論を周到な筋立てで進めてゆく。実証的な裏付けを梃子に、軽薄な常識の空白を埋め、通説を塗り替える芸術社会学の手腕において、ピエール・ブルデューの『芸術の規則』をも凌駕する。……”(第8面)

藤原貞朗 著
税込6,930円/本体6,300円
A5判・上製・454頁
ISBN978-4-8158-1110-5 C3071
在庫有り


『史林』 [第105巻第6号、2022年11月] から(評者:彭皓氏)

明代とは何か
「危機」の世界史と東アジア

明代とは何か

岡本隆司著『明代とは何か』が、『史林』(第105巻第6号、2022年11月、史学研究会発行)で紹介されました。現代中国の原型をかたちづくるとともに、東アジア史の転機ともなった明代。世界的危機の狭間で展開した財政経済や社会集団のありようを、室町期や大航海時代との連動もふまえて彩り豊かに描くとともに、民間から朝廷まで全体を貫く構造を鋭くとらえ、新たな時代像を提示します。

“…… 著者は明代における民間社会の複雑な大転換の主脈、つまり銀をめぐる交易ブームを巨視的にとらえつつ、明の政治体制に対しても、表層的政治争いにとどまらず、その構造の深部に踏み込み、硬直した政治面と激動した経済・社会面が乖離しているという明代の歴史像を巧みに描き出した。……”(pp.93)

岡本隆司 著
税込4,950円/本体4,500円
A5判・上製・324頁
ISBN978-4-8158-1086-3 C3022
在庫有り


『史林』 [第105巻第6号、2022年11月] から(評者:塩出浩之氏)

共帝国のフロンティアをもとめて
日本人の環太平洋移動と入植者植民地主義

帝国のフロンティアをもとめて

東栄一郎著『帝国のフロンティアをもとめて』(飯島真里子・今野裕子・佐原彩子・佃陽子訳)が、『史林』(第105巻第6号、2022年11月、史学研究会発行)で紹介されました。環太平洋の各地へと展開した日本人移植民の知られざる相互関係を、入植者植民地主義の概念を用いて一貫して把握。移民排斥を受けた日系アメリカ人によって帝国内外へ移転された人流、知識、技術、イデオロギーの衝撃を初めて捉え、見過ごされたグローバルな帝国の連鎖を浮かび上がらせます。

“…… 移民史研究の文脈からみた本書の大きな達成は、外国への日本人移民と植民地への日本人移民とが密接につながっていたことをアメリカの側から論証した点にある。…… 移民先である外国(アメリカ)から植民地や別の外国(中南米諸国)への再移民という人流の存在を通じて、外国への移民と植民地への移民が切り離せない現象だったことをさらに明確に示したのである。評者自身も「移民」と「植民」の連続性や比較可能性を指摘してきた研究者として、本書の主張には共感するところが大きい。
中でも重要なのは、本書が日本人による再移民の大きな要因をアメリカの人種主義や排日政策に見出し、再移民は日本の国家主権による保護を受けられる植民地や、人種的楽園と目されたブラジルへ向かったと指摘した点である。…… 本書が示すのは、アメリカに入国できずに中南米諸国や植民地を選んだ人々と異なり、いったんアメリカに入国した日本人の中にも再移民によって新たな経済的機会を求める人々がいたという事実である。……”(pp.107-108)

東 栄一郎 著
飯島真里子・今野裕子・佐原彩子・佃 陽子 訳
税込5,940円/本体5,400円
A5判・上製・430頁
ISBN978-4-8158-1092-4 C3021
在庫有り


「毎日新聞」 [2023年4月1日付、書評欄] から(評者:本村凌二氏)

殉教の日本
近世ヨーロッパにおける宣教のレトリック

殉教の日本

小俣ラポー日登美著『殉教の日本』が、「毎日新聞」(2023年4月1日号)書評欄で紹介されました。キリスト教文化にとって、日本は〈暴虐と聖性の国〉だった。グローバルな宣教のなかで、驚くべきイメージはどのように成立・普及したのか。長崎二十六殉教者の列福やその聖遺物の行方、さらには多様な殉教伝・磔図像・残酷劇などを跡づけ、東西をつなぐ新たな「双方向の歴史」を実践します。

“…… 近世における殉教の記述は日本に限られるわけではない。北米・中南米をはじめ布教活動がなされた地でも報告されているという。ところが、日本の殉教のみが、文書・図像・演劇などを通して広く伝えられ、ついには「大きな物語」として成立したという。そうであれば、布教政策や禁令活動の通史ではなく、教会関係者の記録を「逆なでに」読み、「起こったこと」が歴史化された文脈を解き明かすことが本書の焦点となる。……
…… 多様な殉教伝・磔刑図像・残酷劇を通じて、きわめて独特な日本像が創出された。そのプロセスを解明しつつ、キリスト教史における宣教のレトリックを問い直す作業は、東西の歴史をつなぐ試みとして、ことさら注目されてよいだろう。”(第11面)

小俣ラポー日登美 著
税込9,680円/本体8,800円
A5判・上製・600頁
ISBN978-4-8158-1119-8 C3022
在庫有り


「日本経済新聞」 [2023年4月1日付、読書欄] から(評者:斎藤環氏)

「ひきこもり」と「ごみ屋敷」
国境と世代をこえて

「ひきこもり」と「ごみ屋敷」

古橋忠晃著『「ひきこもり」と「ごみ屋敷」』が、「日本経済新聞」(2023年4月1日号)読書欄で紹介されました。日本だけではない。若者だけではない。—— 共通性と違いに目を向けることで、初めて見えてくる処方箋。著者自身の国内外での臨床経験と、精神医学の知見を踏まえつつ、当事者と向きあい、社会に問いかける、「ひきこもり」「ごみ屋敷」問題を根本から考え直す洞察の書。

“…… フランスにおけるひきこもりの認識や当事者への訪問記録は、きわめて貴重なものである。現在も海外のひきこもり情報は、『世界のひきこもり』(ぼそっと池井多著、寿郎社)など少数の例外を除いてはきわめて限られており、日本のひきこもり当事者との違いについての記述などは非常に興味深い。
著者によれば、フランスのひきこもりは自律的で、自ら進んでひきこもっているように見える人が多いとのこと。自律的に社会から逸脱するという点で、ひきこもりと「ごみ屋敷」が共通するという視点には意表を突かれた。ごみ屋敷の住人はディオゲネス症候群と診断されるが、ここから哲学者ディオゲネスの自給自足概念を経て、「私」が「私の外部」と接続した状態としての「自律」に至る考察はきわめて刺激的である。……”(第34面)

古橋忠晃 著
税込3,520円/本体3,200円
四六判・上製・284頁
ISBN978-4-8158-1113-6 C3036
在庫有り


「日本経済新聞」 [2023年4月1日付、読書欄「半歩遅れの読書術」] から(評者:三浦篤氏)

桃源の水脈
東アジア詩画の比較文化史

桃源の水脈

芳賀徹著『桃源の水脈』が、「日本経済新聞」(2023年4月1日号)読書欄の「半歩遅れの読書術」で紹介されました。なぜ懐かしさを感じるのか ——。ユートピアでもなくアルカディアでもなく、東アジアの人びとの根源的な夢想と願望に根ざして作り上げられた、平和の小世界。古代中国に発し、詩的トポスとして幾多の詩文や絵画を生み出してきた「桃源郷」の系譜を、現代の日本に掬いとるライフワーク。

“…… 根源的な郷愁や懐かしさがにじむ詩画の魅力を浮き彫りにする熱量と文章が素晴らしい。苛酷な現実、慌ただしい日常の中で忘れがちな、大切なものを思い起こさせてくれる。まさに文学や絵画の功徳はそこにあろう。……
今我々に何より必要なのは、健康で朗らかな生活、互に理解し合う平穏な社会であろう。『桃源の水脈』は、コロナ・ウィルスの蔓延とウクライナ戦争勃発の前に逝かれた芳賀先生が残された道しるべのような気がする。異国の人々と交流し、異分野を結び合わせたその学者人生。私は美術史の側から、広く道を開き、文芸を響き合わせるのだという勇気をもらった。
桃花源の村里への憧れは我々の胸の奥にも潜んでいる。今頃、先生は彼の地で好々爺となり、幼児と戯れていらっしゃるに違いない。”(第34面)

芳賀 徹 著
税込3,960円/本体3,600円
四六判・上製・380頁
ISBN978-4-8158-0946-1 C3090
在庫有り


『図書新聞』 [2023年4月8日号、第3586号] から(評者:森周子氏)

失業を埋めもどす
ドイツ社会都市・社会国家の模索

失業を埋めもどす

森宜人著『失業を埋めもどす』が、『図書新聞』(2023年4月8日号、第3586号、武久出版発行)で紹介されました。失業はいかにして発見され、社会政策の中心課題になったのか。繰り返し大量失業に悩まされたドイツにおいて、都市が国家に先駆けてセーフティネット構築をはかる姿を初めて解明、慈善団体や国家との対抗/連携の過程も鮮やかに捉えて、労働をめぐるモダニティの大転換を、現代も視野に描き出します。

“…… このようにして発見された失業が、失業対策という制度として社会に「再埋め込み」されていく際のライヒ(国家)の役割については、先行研究が数多く存在するが、本書は、都市の役割に着目し、詳細な分析を行っている点に独自性がある。主にハンブルク(一部ベルリン)の事例を用いて、失業の「再埋め込み」の仕方をめぐる都市とライヒのせめぎ合いを活写しており、福祉関連の給付に際して国家とそれ以外の主体の連携がどうあるべきかえを考える上で、有益な示唆を与える。また、都市が「社会的課題」の解決を目指そうとする、いわゆる「社会都市」と呼ばれる側面について、失業という、一見国家がその解決の主体とみなされそうな課題に焦点を当てて論じている。それにより、都市ガバナンスに焦点をあてた都市史研究の新たな側面をも開拓している。……”(第3面)

森 宜人 著
税込7,480円/本体6,800円
A5判・上製・396頁
ISBN978-4-8158-1103-7 C3022
在庫有り


『図書新聞』 [2023年4月8日号、第3586号] から(評者:中山弘明氏)

変革する文体
もう一つの明治文学史

変革する文体

木村洋著『変革する文体』が、『図書新聞』(2023年4月8日号、第3586号、武久出版発行)で紹介されました。新たな文体は新たな社会をつくる ——。小説中心主義を脱し、政論・史論から翻訳・哲学まで、徳富蘇峰を起点にして近代の「文」の歩みを辿りなおし、新興の洋文脈と在来の和文脈・漢文脈の交錯から、それまでにない人間・社会像や討議空間が形づくられる道程をつぶさに描いた意欲作。

“…… 本書の画期的な点は、なによりも「政治と文学」という、我々が二項対立的に認識している事態を根源的に問う戦略にあると言ってよいだろう。
「戦略」と書いたが、本書は極めて明晰かつ野心的な戦略性を持っている。それは「個人的な問題」が公的社会的問題を形成するという事態である。その基軸となるのが徳富蘇峰の言説である。Ⅰ部で蘇峰の言論人としての出発から、彼の新しい欧文直訳体の文体が精査され、その人物論の影響圏が追跡される。蘇峰という「哲学者、詩人、宗教家としての顔」を兼ね備えたハイブリッドな存在を基軸とすることにより、「政治と文学」が実は「地続き」の問題系であったという見取り図が、文体論的にすっきりと解き明かされていくことになる。考えてみれば、蘇峰は常に面妖な存在として君臨する一個の「謎」と言えるだろう。彼は常に戦争とともにあった。平民主義を唱えつつ、「帝国主義」の言説に鞍替えした事実だけでなく、戦時下に「詔書」の起草などにも関わり、『近世日本国民史』という膨大な「事業」を自ら進めた、きわめて政治的な存在である事実は誰もが知るところだ。本書はそのタブーに敢えて挑戦する。従って本書が示す「蘇峰と樋口一葉」「蘇峰と国木田独歩」という、文体的系譜の解明に、恐らく多くの読者は戸惑いを隠せぬはずだ。それは蘇峰が示した、旧来の「慷慨型の政治」に代わる「憐れみ型の政治」というい新しい言説が、「論述主体の内なる発熱」を読者に実感させ、「文学」がこうした「内的志向」の存在、「知識人」の型を生成したという構図である。「精神的開国」と言われた所以である。前著以来、著者が強調する「文学熱」の問題が、本書に至ってより鮮明になり「もう一つの明治文学史」を描き出すことに成功している。Ⅱ部では、俗語の問題、ユーゴー受容、志賀重昴『日本風景論』、田口卯吉『日本開化小史』などが、次々に論じられていく。著者は、文学研究がしばしば陥る「小説中心主義」を排し、「雑多な文の集合体」として広義の「文学」を定位し網羅的に探査する方法をとる。……”(第6面)

木村 洋 著
税込6,930円/本体6,300円
A5判・上製・358頁
ISBN978-4-8158-1108-2 C3095
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『東洋史研究』 [第81巻第4号、2023年3月] から(評者:水羽信男氏)

愛国とボイコット
近代中国の地域的文脈と対日関係

愛国とボイコット

吉澤誠一郎著『愛国とボイコット』が、『東洋史研究』(第81巻第4号、2023年3月、東洋史研究会発行)で紹介されました。中国ナショナリズムの実像 ——。時に暴力をともなう激しい対日ボイコットはなぜ繰り返されたのか。たんなる外交懸案の解決でも自国工業の振興でもない、それぞれの運動が生じた異なる地域事情と利害・思想を詳らかにするとともに、それらが愛国主義へとつながっていくメカニズムを捉えた力作。

吉澤誠一郎 著
税込4,950円/本体4,500円
A5判・上製・314頁
ISBN978-4-8158-1048-1 C3022
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『経営史学』 [第57巻第4号、2023年3月] から(評者:米山高生氏)

ピアノの日本史
楽器産業と消費者の形成

ピアノの日本史

田中智晃著『ピアノの日本史』が、『経営史学』(第57巻第4号、2023年3月、経営史学会発行)で紹介されました。富裕層の専有物であったピアノが人々に親しまれるようになった由来を、明治~現代の歴史からたどり、その普及を可能にした意外な原動力を示します。斜陽産業化の危機を超えるメカニズムをはじめてとらえ、音楽教室とともに世界へと拡がった日本の鍵盤楽器産業の全体像を描ききった意欲作。

田中智晃 著
税込5,940円/本体5,400円
A5判・上製・400頁
ISBN978-4-8158-1029-0 C3021
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『経営史学』 [第57巻第4号、2023年3月] から(評者:四方田雅史氏)

緑の工業化
台湾経済の歴史的起源

緑の工業化

堀内義隆著『緑の工業化』が、『経営史学』(第57巻第4号、2023年3月、経営史学会発行)で紹介されました。植民地下の台湾は、たんに帝国の食糧供給基地にとどまったのではなかった。見過ごされてきた工業化の契機を、豊かな農産品の加工・商品化と、それに伴う機械化・電動化に見出し、小零細企業が叢生する農村からの発展経路を実証、戦後台湾経済の原型をとらえた注目の成果。

“…… 本書は台湾の工業化のこれまで看過されてきた面を鮮やかに描き出し、冒頭で述べたように評者にとって刺激的であった。同書を下敷きにしながら東アジア全体の経済成長・工業化や大日本帝国なるものについて考えるための題材を提供してくれており、それをさらに敷衍させ工業化のグローバル・ヒストリーや比較史にも誘ってくれると評することもできよう。少なくとも工業化には複数の経路があり、その1つが同書で論証している戦前台湾的な「緑の工業化」だと言えるのは確かであろう。”(p.60)

堀内義隆 著
税込6,930円/本体6,300円
A5判・上製・286頁
ISBN978-4-8158-1032-0 C3033
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『芸術新潮』 [2023年4月号] から

共和国の美術
フランス美術史編纂と保守/学芸員の時代

共和国の美術

藤原貞朗著『共和国の美術』が、『芸術新潮』(2023年4月号、新潮社発行)で紹介されました。王なき世俗国家で人々は芸術に何を求めたのか。戦争に向かう危機の時代に、中世宗教美術や王朝芸術から、かつての前衛までを包摂するナショナルな歴史像が、刷新された美術館を舞台に創られていく。その過程を、担い手たる学芸員=「保守する人」とともに描き、芸術の歴史性を問い直します。

“あまりに斬新で当初は嘲笑された印象派が、やがて保守派のアカデミズムに逆転勝利する —— そんな筋書きは、どうやら一面的すぎるようだ。1930年代、第三共和制後期のフランスにおけるある種ナショナリスティックな価値観の形成を、本書は同時代資料から浮かび上がらせる。当時、マネや印象派が19世紀フランス絵画の代表として担ぎ上げられたのは、なんと「古典」や「伝統」という観点から保守的なポイントが付与されたため。この国はレオナルドやベラスケス、レンブラントといった天才がいないかわりに一貫したレアリテの潮流があり、人間性を重視した高水準の芸術を生み続けてきたとされ、フランス絵画の通史も再編された。「19世紀フランス絵画の勝利」と同国美術の「連続性」は、その生成過程が忘却されることで、デフォルトの史観みたいな顔をして、今に至るというわけである。”(p.127)

藤原貞朗 著
税込6,930円/本体6,300円
A5判・上製・454頁
ISBN978-4-8158-1110-5 C3071
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『経済セミナー』 [2023年4・5月号] から(評者:秋朝礼恵氏)

社会をつくった経済学者たち
スウェーデン・モデルの構想から展開へ

社会をつくった経済学者たち

藤田菜々子著『社会をつくった経済学者たち』が、『経済セミナー』(2023年4・5月号、日本評論社発行)で紹介されました。不況・戦争など直面する危機を乗り越え、福祉先進国の礎を築いた経済学者たち。ケンブリッジ学派と双璧をなしたスウェーデン経済学の全体像を、彼らの政治・世論との深いかかわりとともに初めて解明、福祉国家への合意を導いた決定的役割と、現代におけるその変容までを鮮やかに描き出します。

“著者は、経済学者らの理論や思想のみならず、膨大な資料を活用して人物像、人間関係、政治や社会との関係についても分析し、それらを丹念に鮮やかに描きだすことに成功している。本書は、世代の異なる経済学者たちの思想面での対立と政策面での知的遺産の継承を経糸に、同時代に生きた経済学者の交流を緯糸にして緻密に編まれた重厚な織物のようだ。……
本書を読むと、思想や理論や政策はおよそ真空から生まれるものではないことを改めて確認する。他者との対話やときに激しい議論を経て形づくられるのだ。まさに、この手間暇かかるプロセスこそが、政治過程において合意や市民の支持を調達する仕掛けでもある。……
本書はスウェーデン経済学史を詳細に扱った日本で初めての本であるが、政治学的分析が主流の福祉国家研究においてもその意義は大きい。経済学からの通史的研究は、スウェーデン福祉国家やスウェーデン・モデル理解へのミッシング・リンクを埋めるものであり、地域研究にも多大な貢献である。「独自性あるスウェーデン社会の歴史的形成過程に関心をもってきた」(p.413)という著者の圧倒的な研究成果である。ぜひ、手に取っていただきたい。」”(p.121)

藤田菜々子 著
税込6,930円/本体6,300円
A5判・上製・438頁
ISBN978-4-8158-1097-9 C3033
在庫有り


『月刊美術』 [2023年4月号] から

共和国の美術
フランス美術史編纂と保守/学芸員の時代

共和国の美術

藤原貞朗著『共和国の美術』が、『月刊美術』(2023年4月号、サン・アート発行)で紹介されました。王なき世俗国家で人々は芸術に何を求めたのか。戦争に向かう危機の時代に、中世宗教美術や王朝芸術から、かつての前衛までを包摂するナショナルな歴史像が、刷新された美術館を舞台に創られていく。その過程を、担い手たる学芸員=「保守する人」とともに描き、芸術の歴史性を問い直します。

藤原貞朗 著
税込6,930円/本体6,300円
A5判・上製・454頁
ISBN978-4-8158-1110-5 C3071
在庫有り


『アジア経済』 [第64巻第1号、2023年3月] から(評者:村田雄二郎氏)

愛国とボイコット
近代中国の地域的文脈と対日関係

愛国とボイコット

吉澤誠一郎著『愛国とボイコット』が、『アジア経済』(第64巻第1号、2023年3月、ジェトロ・アジア経済研究所発行)で紹介されました。中国ナショナリズムの実像 ——。時に暴力をともなう激しい対日ボイコットはなぜ繰り返されたのか。たんなる外交懸案の解決でも自国工業の振興でもない、それぞれの運動が生じた異なる地域事情と利害・思想を詳らかにするとともに、それらが愛国主義へとつながっていくメカニズムを捉えた力作。

“…… 本書の貢献としてまず挙げるべきは、資料の博捜に加えて、近年の研究成果を丹念に拾い上げ、研究史の総括を丁寧に行っていることである。中国近代史の研究書である以上、日本語や中国語で書かれた多くの先行研究がくまなく参照されるのはいうまでもない。著者は大陸中国の最新の研究動向に触れるだけではなく、台湾や香港で出された成果にも周到な目配りを欠かさない。また、英語圏の研究状況にも精通し、その成果の吸収も怠らない。このことは、充実した巻末の注をみれば、一目瞭然である。今後、中国ナショナリズムや日中関係に関心をもつ後学にとって、本書がまたとない手引書になることは疑いない。
内容の面でいえば、著者独自の着眼点や評価は、本書のそこかしこにさりげなく語られるが、…… ここでは2点に絞って論じたい。
第1は、…… 都市部の大衆的な排日運動の地域性に注目したことである。本書では、各都市の愛国運動の盛り上がりや大衆運動(労働運動を含む)の持続が、全国レベルのボイコットや抗議運動に連動しつつも、それぞれの都市や地域の事情で異なったあらわれ方をし、運動の性格にローカルな色彩を付与していたことを重視する。…… 「ローカル」と「ナショナル」なボイコットの結びつきを個別・具体的に解明したことは、近現代中国におけるナショナリズムの研究を一歩前に進めるものである。
第2に、…… 大衆運動がはらむ正義と暴力の関係という、中国研究でこれまで相対的に軽視されてきた視点をクリアに提示したことである。……”(pp.33-34)

吉澤誠一郎 著
税込4,950円/本体4,500円
A5判・上製・314頁
ISBN978-4-8158-1048-1 C3022
在庫有り


「中日新聞」 [2023年3月4日付夕刊、「ほんの裏ばなし」] から

名古屋大学の歴史 1871~2019(上下巻)

名古屋大学の歴史1871-2019

名古屋大学編『名古屋大学の歴史 1871~2019』(上下巻)の執筆者の一人・吉川卓治先生による紹介文が、「中日新聞」(2023年3月4日付夕刊)の「ほんの裏ばなし」に掲載されました。「名大」に歴史あり ——。どのように生まれ、変化してきたのか。教育・研究・大学生活・キャンパスの変遷を、組織の沿革とともに一望できる通史。

“本書は、名古屋大が2019年に創立80周年を迎えたのに合わせて企画されました。前回大きな大学史を編んだのは、創立50周年(1989年)のとき。私は当時も編纂作業に関わりました。もともとは、次は百年史を目標にしていたのですが、この間に大学を取り巻く環境がものすごく変わったこともあり、このあたりで一度作ろうかという話になったのです。
今回の特徴は、対象読者を学外の一般の人まで広げた内容にしたこと。写真を多数入れたり文章を平易にしたりと、手に取りやすいよう気を配りました。女子マラソンの鈴木亜由子選手や将棋棋士の藤井聡太さんといった、名大ゆかりの著名人も取り上げています。大学組織の記録の要素が強かった五十年史を思うと、隔世の感です。…… 90年代以降、日本の大学には改革の波が押し寄せました。本書には、この30年間で日本の大学教育が経験した変革の全体像や、未来の展望が描き出されているとも言えます。……
1990年代の、教養部の廃止から情報文化学部ができたころを取り上げた章は、個人的に力が入りました。文部省(当時)に蹴られながらもいろいろな案を出していく学内の機運が、ダイナミックで面白い。後の参考となるように、失敗したこともかなり書き残しています。……”(第4面)

名古屋大学 編
税込各2,970円/本体各2,700円
A5判・並製・上284頁+下320頁
ISBN 上:978-4-8158-1063-4 下:978-4-8158-1064-1
C0000
在庫有り


「UTokyo BiblioPlaza」 [2023年3月3日公開、自著紹介] から

原典 イタリア・ルネサンス芸術論【下巻】

原典イタリアルネサンス芸術論下

『原典 イタリア・ルネサンス芸術論 下』(池上俊一監修)の訳者のひとりである日向太郎先生による自著紹介が、「UTokyo BiblioPlaza」(2023年3月3日公開、東京大学)に掲載されました。ヨーロッパ芸術の黄金時代はイメージや言葉をめぐる「論」の時代でもあった。新たな芸術観を切り拓いた重要テクストが今、原典からの翻訳によってよみがえる ——。下巻には、代表的な文学・音楽・演劇論から、コレクション論や図像論、遠近法論や比例論、さらには反芸術論までを収録。

池上俊一 監修
税込9,900円/本体9,000円
A5判・上製・506頁
ISBN978-4-8158-1027-6 C3070
在庫有り


『西洋史学』 [第274号、2022年12月] から(評者:薩摩真介氏)

海のロシア史
ユーラシア帝国の海運と世界経済

海のロシア史

左近幸村著『海のロシア史』が、『西洋史学』(第274号、2022年12月、日本西洋史学会発行)で紹介されました。第一次グローバリゼーションのもと、東アジアの海とヨーロッパの海を結んだ長距離航路と、義勇艦隊が果たした役割とは。政治と経済が混然一体となった海洋戦略により、極東を含む帝国の辺境を統合、国際的経済闘争への参入を試みる姿を捉え、ロシア史をグローバルヒストリーに位置づけます。

“……[本書の]最大の意義は、タイトルが端的に示すように、広大な領土を有する「陸の帝国」のイメージのある近代のロシア帝国を、海運という、これまで十分に検討されてこなかった観点から実証的に検討したことにある。…… 本書は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ロシア政府は実際には海運業育成にも熱心に取り組んでいたことを示すことにより、従来のロシア帝国像の修正を迫っている。また、政府の海運政策の背後には、経済的動機だけではなく、イギリスへの対抗などの政治的意図も強く働いていたことを明らかにしており、その点も本書の高く評価されるべき点である。これにより本書は経済史のみならず、政治史や外交史にも対話の扉を開いているからである。さらに付言するならば、義勇艦隊を含むロシアの商船会社がしばしば兵士や移民、巡礼者などを輸送していたという点は、人の移動の歴史に注目する諸研究との接合の可能性も感じさせる。……”(pp.68-69)

左近幸村 著
税込6,380円/本体5,800円
A5判・上製・354頁
ISBN978-4-8158-1008-5 C3022
在庫有り


『西洋史学』 [第274号、2022年12月] から(評者:根占献一氏)

転生するイコン
ルネサンス末期シエナ絵画と政治・宗教抗争

転生するイコン

松原知生著『転生するイコン』が、『西洋史学』(第274号、2022年12月、日本西洋史学会発行)で紹介されました。古今の時間を自在に行き来し、「像」と「アート」の汽水域にたゆたうシエナ派絵画。イタリア戦争と宗教改革にともなう波乱のなか、「聖母の都市」を守護する古きイコン=聖画像はいかに動員され、新たな使命を獲得したのか。繊細なシエナ美術に秘められたダイナミズムを析出し、イメージ論の新地平を切り拓きます。

“…… 最後に、作者は16世紀半ばのシエナ戦争勃発に続く1555年のシエナ共和国の滅亡の時に立ち返り、最新の学術成果に基づきながら独自の用語を駆使して、時代の相貌明示に努める。イコンの転生における「パリンプセスト」化の手続きからシエナ美術の生命力を語るのだが、その際、画家兼軍事技師ジョルジョ・ディ・ジョヴァンニという魅力的な人物を掘り起こしている。さらにはメディチ統治時代にも叙述の筆を伸ばし、イコンの転生を追究して筆を擱いている。シエナをよく知る者はパリオやサンタ・マリア・スカーラ施療院にも、転生テーマを旨とする本書故に言及を期待するだろう。大丈夫である。期待に応えるに充分である。こうしてシエナの美術文化が壮大にパノラミックに呈示されている。これだけのシエナの歴史風景が展望できたのは、作者が若い頃から聖母都市に親しんてきたためであり、本書はその記念碑となった。……”(p.75)

松原知生 著
税込12,980円/本体11,800円
A5判・上製・652頁
ISBN978-4-8158-1007-8 C3071
在庫有り


『西洋史学』 [第274号、2022年12月] から(評者:長野壮一氏)

言論と経営
戦後フランス社会における「知識人の雑誌」

言論と経営

中村督著『言論と経営』が、『西洋史学』(第274号、2022年12月、日本西洋史学会発行)で紹介されました。メディア企業の生き方とは ——。言論によって民主主義に奉仕すると同時に、私企業として資本主義のなかで動くジャーナリズム。戦後フランスに生まれ、サルトルはじめ知識人を結集する一方、市場で稀有な成功を収めたニューズマガジンの歴史を、変容する社会とともに捉え、その思想と身体を見つめた俊英の力作。

“…… 本書は、狭義にはフランスにおけるジャーナリズム史、知識人史、左翼史の学統に掉さす。同時に、言論誌の政治的ないし経済的自立の条件を検証する本書は、近代社会が内包する民主主義と資本主義におけるジャーナリズムの立場を問うがゆえに、社会科学的な問いに答えることを志向しているという。本書が「言論」と「経営」の語句を表題に掲げる所以である。ただし、本書の潜在的な射程はこれを超えたところにある。…… 著者は、本書において『N.O.』[ル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール]という対象を通じて、フランス現代社会の全体史を描き出そうと試みているのだ。というのも、社会・文化・政治の多方面における行為主体であった『N.O.』をめぐる精神史を辿ることで、必然的に同時代の文学・思想・芸術を論じることができる。……「フランス人よりフランス人をよく知っているイギリス人」とも評されたゼルディンが行ったように、異邦人の目線からフランスの歴史と文化を広く、なおかつ深く観察してみせた本書は、今後も広範な分野に亘る研究史において長く残る業績となろう。……”(pp.97-98)

中村 督 著
税込5,940円/本体5,400円
A5判・上製・442頁
ISBN978-4-8158-1022-1 C3036
在庫有り


『図書新聞』 [2023年3月11日号、第3582号] から(評者:塩野麻子氏)

ツベルクリン騒動
明治日本の医と情報

ツベルクリン騒動

月澤美代子著『ツベルクリン騒動』が、『図書新聞』(2023年3月11日号、第3582号、武久出版発行)で紹介されました。欧米では「フィーバーからスキャンダルへ」と化した、コッホによる「結核新治療薬」。日本社会はそれをどのように受け止めたのか。多様な医療雑誌による「情報」の伝達・普及・切り分けを軸に、近代日本の医学・医療の風土が形成される転換期の実相を描き、今日への示唆に富む労作。

“…… 医学史研究の立場から見た場合、本書の特筆すべき点は「ツベルクリン騒動」をめぐる本書の議論が、臨床実験をめぐる倫理的問題に及んでいることである。「ツベルクリン」は国家の主導で初めて集団的な技術評価が実施された医薬である。その医薬をめぐる技術評価の過程で「研究に使用される身体」(341頁)の処遇をめぐる様々な問題が浮上していた。第7章で紹介されているように、臨床実験に際して「ツベルクリン」投与の対象となった患者が強い拒否感を示し、なかには「泣きながら逃げ廻る」患者もいたことを新聞紙が報じている。これらの報道は、治療効果が確証されておらず、死亡の可能性すらあった新薬を患者に投与することをめぐる倫理的問題を露わにしたともいえる。
また第8章では、内務省の監督下で行われた臨床実験に関する内部文書において「ツベルクリン」投与による「死亡」の数が抹消され、新薬が患者を死に至らしめる可能性がある点が公的記録として残されなかったことを指摘している。これは、本書における重要な論点のひとつである。
殊に結核をめぐる日本の歴史研究においては、医学的権威による「伝説」が未だに先行研究として温存されており、検証が十分に行われていないのが現状である。こうしたなか刊行された本書の意義は非常に大きい。「ツベルクリン騒動」というある事件を通じて描かれた壮大な歴史像は、著者による史資料の丹念な読み込みと地道な検証がもたらしたものである。本書は、著者の研究の集大成であるとともに、日本医学史研究のひとつの到達点として位置づけられるべき大作である。”(第3面)

月澤美代子 著
税込6,930円/本体6,300円
A5判・上製・504頁
ISBN978-4-8158-1101-3 C3021
在庫有り


『社会経済史学』 [第88巻第4号、2023年2月] から(評者:村上衛氏)

塩とインド
市場・商人・イギリス東インド会社

塩とインド

神田さやこ著『塩とインド』が、『社会経済史学』(第88巻第4号、2023年2月、社会経済史学会発行)で紹介されました。植民地統治の影に隠された内部からの巨大な変化とは? 近世の主要財源にして後の抵抗運動の象徴ともなった塩に注目し、消費や環境、金融も視野に、勃興するベンガル地域市場と現地商人が生み出すダイナミズムを示して、近代への転換を摑みだす。インド史を書き換える瞠目の成果。

神田さやこ 著
税込6,380円/本体5,800円
A5判・上製・384頁
ISBN978-4-8158-0859-4 C3022
在庫有り


『社会経済史学』 [第88巻第4号、2023年2月] から(評者:桃木至朗氏)

世界史のなかの東南アジア(上下巻)
歴史を変える交差路

世界史のなかの東南アジア

アンソニー・リード著『世界史のなかの東南アジア』(太田淳・長田紀之監訳、上下巻)が、『社会経済史学』(第88巻第4号、2023年2月、社会経済史学会発行)で紹介されました。世界史を動かし続けた東南アジアを、先史から現代に至る全体史として描くとともに、豊かな多様性を生み出す人びとの姿に迫る決定版。

アンソニー・リード 著
太田 淳・長田紀之 監訳
税込各3,960円/本体各3,600円
A5判・上製・上398頁+下386頁
ISBN 上:978-4-8158-1051-1 下:978-4-8158-1052-8
C3022
在庫有り


『社会経済史学』 [第88巻第4号、2023年2月] から(評者:高見典和氏)

経済学のどこが問題なのか

経済学のどこが問題なのか

ロバート・スキデルスキー著/鍋島直樹訳『経済学のどこが問題なのか』が、『社会経済史学』(第88巻第4号、2023年2月、社会経済史学会発行)で紹介されました。モヤモヤしている人のために ——。「科学」の地位を得るために、経済学は様々な数学やモデルを使ってきた。しかし、それらは本当に有効なのか。現実から離れた想定によって視野を狭めているのではないか。スタンダードな経済学の考え方を再検討し、今後に向けての処方箋を提示する話題作。

ロバート・スキデルスキー 著
鍋島直樹 訳
税込3,960円/本体3,600円
A5判・上製・288頁
ISBN978-4-8158-1088-7 C3033
在庫有り


『大原社会問題研究所雑誌』 [2023年3月号、第773号] から(評者:熊沢透氏)

技能形成の戦後史
工場と学校をむすぶもの

技能形成の戦後史

沢井実著『技能形成の戦後史』が、『大原社会問題研究所雑誌』(2023年3月号、第773号、法政大学大原社会問題研究所発行)で紹介されました。高度成長期の高校進学率上昇が職業教育・職業訓練に与えたインパクトとは? 企業内養成施設、公共職業訓練所、工業高校、各種学校などで起こった劇的な変遷を分析。「役に立つ」「即戦力」を歴史的に問い直し、実践に根ざした教養教育を考えます。

“…… 内容はきわめて濃密で、この領域における新しいスタンダードとして受けとめるに相応しい。これまでも類書は少なくないとはいえ、本書が目配りする対象の領域の充実度と実証の深度は特筆されるべきものであると思う。……
優れた歴史研究にはそれじたいの意義と役割がある。分野固有の関心をもって読む読者はその本によってファクトとパースペクティヴが明確になることをまずは求める。しかし、その歴史研究がもつ今日的な含意も決して軽視されない。先の引用と文意は重複するけれども本書冒頭の言明を引こう。「『即戦力』『役に立つ』ことが自明のものとされる今日と比較して、意外に、高度成長期の工業高校、企業内養成教育、各種学校などは戦前来継承してきた教養教育の役割を尊重し、すぐに『役に立つ』事の問題に自覚的であった」とし、「職業教育と職業訓練における『教養』の役割を考察することは、高度成長期以後の日本社会における職業と教育の歴史的位相を考えること」(p.12)と著者はいう。だから著者の問題関心と主張の意義は戦前と戦後の連続面と断絶面を複層的に把握することでより深く理解できる。読者にはあらためて、前著『日本の技能形成』と併せて本書を通読されることをお奨めしたい所以である。”(p.66、69-70)

沢井 実 著
税込5,940円/本体5,400円
A5判・上製・258頁
ISBN978-4-8158-1038-2 C3033
在庫有り


『企業家研究』 [第21号、2023年2月] から(評者:松本雄一氏)

技能形成の戦後史
工場と学校をむすぶもの

技能形成の戦後史

沢井実著『技能形成の戦後史』が、『企業家研究』(第21号、2023年2月、企業家研究フォーラム発行)で紹介されました。高度成長期の高校進学率上昇が職業教育・職業訓練に与えたインパクトとは? 企業内養成施設、公共職業訓練所、工業高校、各種学校などで起こった劇的な変遷を分析。「役に立つ」「即戦力」を歴史的に問い直し、実践に根ざした教養教育を考えます。

“…… 本書は戦後から現代までの技能教育のあり方について、文献を丁寧に読み込み、データを丹念にまとめた上で、緻密な記述によって明らかにしている。その大きな歴史的意義ともたらされる示唆もさることながら、現代の教養教育や即戦力志向に対する問題提起も行われている。日本の製造業や技能伝承を語るうえで、欠かせない背景知識にあふれた労作である。……”(p.66)

沢井 実 著
税込5,940円/本体5,400円
A5判・上製・258頁
ISBN978-4-8158-1038-2 C3033
在庫有り


『アジア研究』 [第69巻第1号、2023年1月] から(評者:黒杭良美氏)

南シナ海問題の構図
中越紛争から多国間対立へ

南シナ海問題の構図

庄司智孝著『南シナ海問題の構図』が、『アジア研究』(第69巻第1号、2023年1月、アジア政経学会発行)で紹介されました。中国の急速な台頭により国際政治の焦点となった危機の構造を、主要な当事者であるベトナム・フィリピンやASEANの動向をふまえて解明、非対称な大国と向きあう安全保障戦略をとらえ、米中対立の枠組みにはおさまらない紛争の力学を浮かび上がらせて、危機の行方を新たに展望します。

庄司智孝 著
税込5,940円/本体5,400円
A5判・上製・344頁
ISBN978-4-8158-1054-2 C3031
在庫有り


『科学史研究』 [2023年1月号、第Ⅲ期第61巻] から(評者:綾部広則氏)

イノベーション概念の現代史

イノベーション概念の現代史

ブノワ・ゴダン著『イノベーション概念の現代史』(松浦俊輔訳/隠岐さや香解説)が、『科学史研究』(2023年1月号、第Ⅲ期第61巻、日本科学史学会発行)で紹介されました。統現代社会のキーワードとして君臨する「イノベーション」。いかにして考え出され、政策や経営に組み込まれていったのか。また、研究はどのように商業化に巻き込まれたのか。国際機関や省庁・企業の実務家たちに焦点を合わせ、科学・技術の「有用性」を問い直す、私たちの時代の概念史。

“…… 本書を読んであらためて気づかされるのは、イノベーションが、あらゆる要素を飲み込む魔力をもった概念だという点である。ここであらゆる要素を飲み込む魔力をもっているというのは、アクター、概念、政策といったあらゆる要素がイノベーションと関連づけられ、その中に取り込まれることで、それら個々の要素は、イノベーションを構成する要素の一つでしかなくなるということである。「イノベーションをめぐる言説が科学をめぐる言説よりも成功したのは、それが包摂的だったからである」(p.133)という著者の診断も、こうしたイノベーションがもつ特性のなせる業だと解釈できるのではないか。
こう考えれば、定義や概念の曖昧さを理由にイノベーションを単なる「バズワード」(p.44)として考察の対象外とすることはできないだろう。まさにその曖昧さ、解釈の柔軟性が多様な要素を巻き込む力を生み出すとともに、あらゆる要素を方向づける力をもつことになっているのである。とりわけ、イノベーションに対して過剰ともいえるほど肯定的評価が与えられている現状に鑑みれば、こうしたイノベーションの特性を念頭においた上で、そうしたイノベーションが導く方向性が我々にとって本当に望ましいものであるかを批判的に吟味する必要があるといえる。本書は、著者がめざす「オルタナティブな歴史記述」(p.5)というねらいを超えて、そうした視座を切り開く可能性をもった作品であるといえる。”(p.389)

ブノワ・ゴダン 著
松浦俊輔 訳/隠岐さや香 解説
税込3,960円/本体3,600円
四六判・上製・216頁
ISBN978-4-8158-1046-7 C3036
在庫有り

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2023年4~5月

2023年 春の一斉増刷

2023年6月中旬出来予定

科学アカデミーと「有用な科学」(第3刷)

隠岐さや香 著
A5判・上製・528頁
税込8,140円/本体7,400円
ISBN 978-4-8158-0661-3
Cコード 3040

2023年6月中旬出来予定

キュビスム芸術史(第2刷)

松井裕美 著
A5判・上製・692頁
税込7,480円/本体6,800円
ISBN 978-4-8158-0937-9
Cコード 3071

2023年5月25日出来

統計力学の形成(第3刷)

稲葉 肇 著
A5判・上製・378頁
税込6,930円/本体6,300円
ISBN 978-4-8158-1036-8
Cコード 3040

2023年5月24日出来

明代とは何か(第2刷)

岡本隆司 著
A5判・上製・324頁
税込4,950円/本体4,500円
ISBN 978-4-8158-1086-3
Cコード 3022

2023年5月12日出来

消え去る立法者(第2刷)

王寺賢太 著
A5判・上製・532頁
税込6,930円/本体6,300円
ISBN 978-4-8158-1120-4
Cコード 3010

2023年2月2日出来

男同士の絆(第7刷)

イヴ・K・セジウィック 著
上原早苗・亀澤美由紀 訳
A5判・上製・394頁
税込4,180円/本体3,800円
ISBN 978-4-8158-0400-8
Cコード 3098

2023年1月16日出来

男同士の絆(第6刷)

イヴ・K・セジウィック 著
上原早苗・亀澤美由紀 訳
A5判・上製・394頁
税込4,180円/本体3,800円
ISBN 978-4-8158-0400-8
Cコード 3098

2023年1月13日出来

法と力(第2刷)

西 平等 著
A5判・上製・398頁
税込7,040円/本体6,400円
ISBN 978-4-8158-0919-5
Cコード 3032

2022年12月21日出来

哲学者たちの天球(第2刷)

アダム・タカハシ 著
A5判・上製・318頁
税込6,380円/本体5,800円
ISBN 978-4-8158-1100-6
Cコード 3010

2022年11月9日出来

量子力学10講(第3刷)

谷村省吾 著
A5判・並製・200頁
税込2,970円/本体2,700円
ISBN 978-4-8158-1049-8
Cコード 3042

2022年11月1日出来

鯨と捕鯨の文化史(第4刷)

森田勝昭 著
A5判・上製・466頁
税込3,960円/本体3,600円
ISBN 978-4-8158-1102-0
Cコード 3039

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