内 容
スミス倫理学の真の射程とは。近代における倫理のメカニズムと意義を明瞭に説き、政治・経済・社会のよき運用を支える心理学的な人間学を打ち立てた、もうひとつの主著から描き出す。『国富論』とは違った現代への示唆と、経済学にとどまらない社会科学的知への豊かな洞察を浮かび上がらせる。
目 次
凡 例
序 章 アダム・スミスの倫理学
1 倫理学の性質
2 スミス倫理学のテーマ
3 『道徳感情論』の陰のタイトル
第1章 共感と共生
1 存在の矛盾と秩序
2 「道徳的存在」の基礎としての感情と自己利益
3 共感の二面的性質 —— 結合と排除
4 共感と支配
5 認知的共感と文学的想像力
6 道徳の世界へ
第2章 倫理における「媒介」の問題
1 公正、公平、情報に精通した「中立的観察者」
2 コミュニケーションの媒体 —— 言語、貨幣、中立的観察者
3 中立的観察者の二重性とその分岐 —— 道徳の一般規則と良心
4 良心の脆弱性
5 交流と信頼、それを媒介するもの
6 媒介者のいない悲劇、媒介者の跳梁する悲劇
第3章 「傍観」と世界の分節化
1 日常としての傍観
2 「世界」の内部と外部 —— 傍観の境界
3 自然的情念と社会的情念
4 マルチチュードとアウトサイダー
5 社会の身分的秩序と秩序からこぼれる人たち
6 国家と統治体制の安定 —— 国家、中間団体、個人
7 人間らしく、男らしく —— 忍苦、怒り、憎しみ
8 世界の分節化からの脱出
第4章 実践的倫理としての徳
1 生存と正義と善
2 他者の承認と他者からの承認
3 自己承認と倫理的な生
4 敵という名の仲間
5 「称賛に値する徳」の証明不可能性と「卓越しない徳」
第5章 愛と憎悪
1 親和的情念、敵対的情念、利己的情念と情念の中庸
2 愛の階梯 —— 自己愛、家族愛、友情
3 債務としての愛、贈与としての同情
4 祖国愛と「良き国民」の創造
5 隣国民への友情と人類愛
6 敵対的情念の社会性と復讐・開戦の四原則
7 戦争と党派闘争の道徳的意義 ——「自制心」の修養と「死の恐怖心」の克己
8 愛と憎しみの同時切断
第6章 幸福 —— 真偽の向こうに
1 聖なる幸福
2 死者の幸福、死者の不幸
3 真の幸福、その内実と条件
4 偽の幸福
(1)相対的世界における欲望と徳
(2)フェイクの魅力
(3)共感の偏りと差別
(4)目的と手段の転倒
5 完璧な幸福、その幻影の作用
(1)徳の涵養
(2)科学技術の発達と産業文明
(3)統治機構と官僚制
(4)自発的服従と絶対的服従
6 不幸の回避
7 公共善としてのヒエラルキー的秩序
8 繁栄と秩序との危うい均衡
終 章 未来からの倫理
1 意図原則と感情の不規則性
2 リスクと過失
3 倫理の虚構性と虚構の現実性
あとがき
注
索 引
書 評
『経済学史研究』(第65巻第1号、2023年7月、評者:木宮正裕氏)
『イギリス哲学研究』(第44号、2021年3月、評者:島内明文氏)
毎日新聞(2020年12月12日付、読書欄特集「2020 この3冊 上」、評者:伊東光晴氏)
関連書
『イギリス思想家書簡集 アダム・スミス』 篠原 久・只腰親和・野原慎司 訳
『アダム・スミス 修辞学・文学講義』 アダム・スミスの会 監修/水田 洋・松原慶子 訳
『アダム・スミス 哲学論文集』 アダム・スミス 著/アダム・スミスの会 監修/水田 洋ほか訳
『アダム・スミス 法学講義 1762~1763』 アダム・スミスの会 監修/水田 洋・篠原 久・只腰親和・前田俊文 訳