内 容
文明の進歩によって誰もが豊かになれる —— これがスミスの抱いたヴィジョンであり、経済学の約束であった。それは果たして実現されたのか。本書は、穀物と民衆、利益と秩序、投機と組織、帝国と現代、という4つの視点から『国富論』を読み直し、その明暗のコントラストのなかに、市場原理にもとづく現代社会の困難を浮かび上がらせる。
目 次
凡 例
序
(1)国民の豊かさ —— 物量主義と平均主義
(2)微妙なレトリック ——「にもかかわらず」か「それゆれに」か
(3)『国富論』へのアプローチ
第1章 穀物と民衆
第1節 都市と農村における貧困問題
(1)貧困の可能性 —— 農工間の労働生産力格差
(2)市場における支配力と交渉力
(3)分業による専門知と経験知
(4)虚偽の国民的意識と貧困の消滅
第2節 穀物市場の効率性と食糧の安定供給
(1)財貨の審級と必需品
(2)穀物市場における自由競争と制約
(3)飢餓の杞憂
(4)飢餓の可能性 —— ベンガルのばあい
第3節 国際穀物市場とポーランド問題
(1)穀物供給国ポーランド
(2)奇貨としてのポーランド分割とアイルランド併合提案
(3)ヴォルテールの寛容思想と政治的錯誤
(4)政治財としての穀物とルソーの自給自足経済構想
(5)穀物法批判と穀物の自由貿易地域構想
第4節 文明化とパターナリズム
(1)商業の自由論にはさまる異物感
(2)買占禁止法とその批判の論理
(3)民衆の偏見と暴力とからの保護
(4)民衆にたいする家父長的な眼差し
(5)統治からの排除と機会の実質的不平等
第2章 利益と秩序
第1節 「利益」の社会的・知識論的意味
(1)人間の本源的な弱さと交換の非対等性
(2)商業的社会と文明社会 —— 自由、独立、平等の制約
(3)プライヴェート・インタレストとパブリック・インタレスト
(4)私的利害関心と真の私的利益との乖離、代理人問題
第2節 資本の安全と「見えない手」
(1)見えない手
(2)資本所有者の目による監視と観察者の錯覚
(3)「1ダースのディレンマ」と人格としての肉体
(4)卸売業の投資効率性
第3節 貯蓄と身分的上昇
(1)境遇改善志向とその制度的条件
(2)貯蓄と境遇改善
(3)社会的上昇志向と富貴への道
(4)道徳感情の腐敗と社会秩序の危機 ——『道徳感情論』第6版問題
(5)競争と主体的な徳の形成
第4節 調和的な自然的秩序と自然的自由のシステム
(1)自然的自由のシステム —— もっとも洗練された脅迫装置
(2)自然の秩序 —— 自然の叡智、人間の叡智、偶然性
(3)自然価格と価値
(4)自然の秩序の部分性と外国貿易
(5)経済発展の停止状態
第3章 投機と組織
第1節 定常的な経済と投機的精神 ——「総合報酬」の均等化
(1)自然の秩序の不完全性と地域経済の安定性
(2)労働市場の硬直性と賃金の不均等
(3)労働市場の阻害的制度 —— 徒弟法と定住法
(4)総合報酬の均等化と投機的精神
第2節 投資と投機
(1)投機的精神の経済的機能と社会的基礎
(2)開拓的投資と投機
(3)商品投機と投機の条件
第3節 ダイダロスの翼 —— 紙券信用と投機
(1)投機的資金の調達と融通手形
(2)モラル・ハザードと逆選択
(3)紙券信用の危険性と信用の本源的不確実性
(4)銀行業の経営の準則と法的規制
第4節 組織と競争と力
(1)「代理人社会」における個人と組織
(2)企業の組織形態と経営能力
(3)帝国の統治と商事会社の統治資格
(4)ジョイント・ストック・カンパニの適合業種論
(5)組織の規則と多数者の支配
(6)「見えない死」の恐怖 —— 教会と常備軍
第4章 帝国と現代
第1節 空間としての現在 —— 文明と野蛮
(1)武器と軍隊の文明化作用
(2)カニバリズムと推測的歴史
(3)四段階論と地帯構造的な世界認識
(4)「タタールの野蛮」とオスマン帝国の脅威
第2節 歴史としての現在 —— 歴史の逆行と順行
(1)歴史における自然の順序とその逆転
(2)ローマ帝国の崩壊と時代区分
(3)領主制の弛緩過程と経済発展の農業的基礎
(4)封建的統治の秩序と無秩序
(5)歴史の作為と無作為
(6)歴史のダイナミズムの消失
第3節 帝国の衰亡と不滅への志向
(1)ブリテン帝国 —— 幻想か現実か
(2)植民地化の論理 —— 大地と人材
(3)帝国のディレンマ
(4)帝国の永続化の試み
跋にかえて
あとがき
注
事項索引
人名索引
関連書
『イギリス思想家書簡集 アダム・スミス』 篠原 久・只腰親和・野原慎司 訳
『アダム・スミス 法学講義 1762~1763』 水田 洋・篠原 久・只腰親和・前田俊文 訳
『アダム・スミス 修辞学・文学講義』 アダム・スミス 著/アダム・スミスの会 監修/水田 洋・松原慶子 訳
『アダム・スミス 哲学論文集』 アダム・スミス 著/アダム・スミスの会 監修/水田 洋 他訳
『経済の原理 —— 第1・第2編』 J.ステュアート 著/小林 昇 監訳/竹本 洋ほか訳