内 容
1762-63年にグラスゴー大学で行われたアダム・スミスの法学講義を手稿から再現。司法=正義と統治の歴史を描き出し、自由で公正な社会を展望した壮大な文明史論にして、『道徳感情論』から『国富論』にいたるスミス思想を体系的に把握するためには欠かせない文献。本邦初訳。
聴講ノート “LJ(A)” 初の全訳
近代経済学の基礎を確立し「経済学の父」とも呼ばれるアダム・スミスがグラスゴー大学の道徳哲学教授としておこなった法学についての講義には、2つの聴講ノートが残されています。『道徳感情論』以降「法と統治の一般原理」の解明を目指していたスミスは、法学についての著作を書く意図を抱きながら、ついに実現しなかっただけに、その構想を示す講義のノートは大変貴重なものです。そのうち、1762年12月24日から1763年4月13日までの日付のある長い方はLJ(A)、日付のない短い方はLJ(B)と略称され、これまで研究がなされてきましたが、後者についてはすでに邦訳(高島善哉・水田洋訳、1947年)があり、2005年には新訳(水田洋訳、岩波文庫)も刊行されました。本書は、残る前者の初の全訳となります。
目 次
第1巻
1762年12月24日-1763年1月10日
法学について / 生活行政 / 戦争と平和 / 正義の維持 / 自然権 / 対物権 / 対人権
/ 権利の根拠 / 先占について / 人類史の四段階 / 狩猟民の時代と牧畜民の時代 /
農業の時代と商業の時代 / 盗みの刑罰 / 先占による所有権 / 所有の継続 / 家畜の
成立 / 家屋および土地の所有 / 所有の制限 / 添 付 / 時 効 / 相 続 —— 法定相続
/ 男系親族による相続 / 動産の相続 / 蛮族侵入期 / 封建的統治 / 長子相続制 /
代襲権 / 女性による相続 / 遺言による相続 / ローマの限嗣相続
第2巻
1763年1月17日-2月3日
移 転 / 封建的従士と土地 / 地役権 / 抵 当 / 排他的特権 / 対人権 / 商業と契約
/ 言語による契約 / 契約者の義務 / 準契約 / 怠 慢 / 身柄に対する攻撃 / 偶 殺 /
贖罪奉納 / 補償と復讐 / 不当な拘束 / 評判権 / 資産に対する侵害 / 盗 み / 詐欺・
偽証・偽造 / 対人権の終了
第3巻
1763年2月7日-2月16日
家族の一員 / ローマの繁栄と女性の自由 / 結婚儀礼 / 多妻制 / 多妻制と臣民の自由
/ 四種類の結婚 / 近親婚 / 結婚と相続 / 父 権 / 主人と召使 / 奴 隷 / 貧困国の
奴隷状態 / 封建的統治と奴隷 / 解放農奴による耕作 / 奴隷制の害悪
第4巻
1763年2月21日-3月8日
統治の諸形態 / 権威の進展過程 / 司法の起源と進展 / 狩猟民と牧畜民 / 統治の進
展 / ギリシャの統治形態の進展 / アテナイ国家の形成 / 防衛的国家の運命 / 征服的
国家の運命 / 富裕の進展と防衛問題 / 防衛手段としての傭兵 / ヨーロッパの自由保有
地統治 / 封建的統治の形成 / 封建的統治の構成員 / 国王・領主・従士 / 農奴と町民
/ 商業の導入と封建貴族の衰退 / 専制君主の登場 / イングランドの事例
第5巻
1763年3月9日-3月24日
自由の体系 / イングランドの裁判所 / 大法官の由来 / 陪 審 / ヨーロッパの統治形態
/ ヨーロッパの小共和国 / 臣民の義務と反逆罪 / 市民権 / 外国人の身分的制約 /
主権の限界 / 社会契約説批判 / 忠誠の原理 / 主権者権力の制限
第6巻
1763年3月28日-4月13日
生活行政 / 人類の自然的欲求 / 技術の発達 / 文明社会における分業 / 分業による生
産増加の原因 / 交換性向 / 商品の価格について / 分業と商業の範囲 / 自然価格と市
場価格 / 貨 幣 / 国民の富裕とは何か / 貨幣と富裕 / 鋳貨の輸出禁止 / 貿易差額 /
国内消費と富裕
訳者解説
索 引
書 評
『社会思想史研究』(第37号、2013年、評者:野原慎司氏)
『経済学史研究』(第55巻第1号、2013年7月、評者:渡辺恵一氏)
『イギリス哲学研究』(第36号、2013年、評者:新村聡氏)
関連書
『アダム・スミス 哲学論文集』 アダム・スミス 著/アダム・スミスの会 監修/水田 洋 他訳
『アダム・スミス 修辞学・文学講義』 アダム・スミス 著/アダム・スミスの会 監修/水田 洋・松原慶子 訳
『イギリス思想家書簡集 アダム・スミス』 篠原 久・只腰親和・野原慎司 訳
『新版 経済思想史』 大田一廣・鈴木信雄・高 哲男・八木紀一郎 編