内 容
「虫が知らせる」「虫の居所が悪い」といった表現の根底には、日本特有の「虫」観がある。心と身体、想像と現実のはざまに棲み着いた「虫」の多面的な姿を、かつての医学思想、文芸作品、民俗風習などを横断的に読み解くことで明らかにし、日本の心身観を浮彫りにしたユニークな研究。
目 次
はじめに
第Ⅰ部
第1章 言葉を発する「虫」
——「応声虫」という奇病
1 「応声虫」の事例
2 創作文芸に見る「応声虫」
3 医書の「応声虫」論
4 「応声虫」とは何か —— 精神医学的検討
第2章 「虫」の病と「異虫」
1 「虫証」
2 姿を現す「異虫」たち
3 顕微鏡の登場とその波紋
4 顕微鏡による「異虫」の観察
第3章 「諸虫」と「五臓思想」
1 「諸虫」
2 「五臓思想」
3 「離魂病」
4 「五臓」と「虫」
第4章 「虫の居所」
——「腹の虫」と「胸の虫」
1 「腹の虫」と「胸の虫」
2 「癪」——「腹」と「胸」の病
3 「癪の虫」
4 「虫の居所」としての「腹」と「胸」
第5章 「疳の虫」
1 文芸作品の「疳の虫」とその周辺
2 医家による見解
3 「疳」の病症変遷 ——「疳」と「労」
4 「疳」と「労」の「虫」像
第6章 「疳の虫」の民間治療
1 江戸時代の「疳の虫」の治療法
2 「虫封じ」の民俗誌
3 現代の「虫封じ」
4 「虫封じ」の社会における意味
第Ⅱ部
第7章 「虫」病前史
——「鬼」から「虫」へ
1 「霊因」と医の領域
2 「鬼」と「尸」
3 「伝尸」と「伝尸虫」
第8章 「虫」病の誕生
1 室町・戦国期の日記と「虫」所労
2 わが国特有の「虫」病
3 「胸虫」から「積虫」へ
第9章 「虫」観・「虫」像の解体と近代化
1 「脳・神経」学説とその影響
2 「虫」の発生思想とその変容
3 近代医学と「虫」病の解体
第10章 教科書と近代文学に見る「五臓」用語と「脳・神経」表現
1 初等教育用教科書に見る心身観
2 近代文学に見る「脳・神経」と「虫」
3 消え去ることのない「腹の虫」
おわりに
注
あとがき
文献一覧
事項索引
人名索引