内 容
江戸時代の漢詩文制作はどのように政治と結びつき、古来の言葉に何が託されたのか。これまで注目されてこなかった幕府儒臣に焦点を当て、漢詩・漢文書簡・建議などの多彩な表現を読み解くとともに、武家の学問論や民間の技芸論をも視野に入れて、近世日本における「文」の行方を問い直す。
目 次
凡 例
序 論 近世日本における漢詩文と経世の関係
1 近世日本漢文学研究の問題点
2 近世日本における経世と儒者
3 18世紀という時代
4 本書の構成
第Ⅰ部 木門の儒臣の詩文と擬古
第1章 室鳩巣の漢文書簡
—— 不遇と諫言をめぐって
はじめに
1 鳩巣の書簡
2 加賀藩主への諫言
3 鳩巣の不遇意識と藩政批判
4 史書・文集に見る唐土の古人
5 朱熹の封事からの影響
おわりに
第2章 室鳩巣の和陶詩と擬古詩
—— 模倣・虚構・寓意
はじめに
1 鳩巣「和陶詩」の制作背景
2 徂徠以前の「擬古」
3 虚構と寓意 ——「擬古五首」其一を例として
4 行役詩と閨怨詩の寓意
5 盛唐詩の位置づけ —— 古への架け橋
おわりに
第3章 室鳩巣の辺塞詩
——「古題」詩の制作と忠臣像の形成
はじめに
1 木門における辺塞詩の題詠
2 盛唐詩の模倣と『唐詩訓解』の利用
3 『文選』所収詩と「古題」詩の寓意
4 詠史詩との関連
5 時事との関連
おわりに
第4章 新井白石・室鳩巣の中秋詩
—— 李白の模倣と主君の死
はじめに
1 中秋の月と李白・屈原
2 正徳三年の中秋の宴
3 鳩巣の五首連作
4 将軍家宣の死
5 白石の次韻詩
おわりに
第Ⅱ部 武家の言語空間と幕府儒臣
第5章 室鳩巣の建議における候文の役割
—— 人材登用政策をめぐって
はじめに
1 儒者が用いた和文の文語体
2 室鳩巣『献可録』と候文
3 荻生徂徠・太宰春台との比較
おわりに
第6章 中村蘭林の詩文論
—— 奥儒者の朱子学修養と読書
はじめに
1 朱熹の読書法の遵守
2 室鳩巣の漢文学習法の継承 ——「古文辞」の重視
3 古文辞学習の汎用性
4 漢文学習法の応用 —— 文献考証と仁斎・徂徠門下批判
5 朱子学の体得
おわりに
第7章 中村蘭林と和歌
—— 学問吟味の提言と平安朝の讃仰
はじめに
1 学問吟味の構想
2 平安朝の讃仰
3 和歌の吟詠
おわりに
第8章 柴野栗山と寛政六年学問吟味
—— 朱子学と漢文作文の奨励
はじめに
1 寛政3~5年の動向と栗山の役割
2 寛政6年2月の学問吟味
3 宝暦期『栗山上書』との対比
4 朝廷の文物へのまなざし
5 上方儒者による作文の重視と室鳩巣の思慕
おわりに
第Ⅲ部 諸芸の流行と経世家
第9章 祇園南海の竹枝詞
—— 明代古文辞説の受容と「民間」の称揚
はじめに
1 竹枝詞と盛唐詩
2 土着の風俗と擬古的作詩の交響
3 俗のなかの雅
おわりに
第10章 樫田北岸の挿花論
—— 袁宏道受容における諸芸と禅
はじめに
1 明末挿花論との関連 ——「瓶史」・「瓶花譜」
2 同時代日本の挿花指南書との関連 ——『千筋の麓』・『挿花稽古百首』
3 茶人批判と禅味のすすめ
4 「社」の形成
おわりに
第11章 山本北山の技芸論
—— 経世家による古文辞説批判
はじめに
1 「小道」の重大性
2 技芸の当代性と教化
3 技術の精緻
4 擬古詩文批判における性霊説の利用
おわりに
第12章 林鶴梁の文論と作文
—— 唐宋古文と「気」による感化
はじめに
1 読者の感化 ——「陳言を去る」ことの目的
2 作文の修練 —— 暗誦と「三多の法」
3 文と生き様の連関
おわりに
結 語 朝野を結ぶ儒者
1 各部のまとめと全体の総括
2 擬古の多様な形
3 近世日本漢詩文における「朝」と「野」
4 今後の課題
註
参考文献
あとがき
初出一覧
索 引
受 賞
書評等
『日本思想史学』(第55号、2023年9月、評者:高山大毅氏)
『図書新聞』(2022年3月12日号、第3534号、評者:川平敏文氏)