内 容
古今の時間を自在に行き来し、「像」と「アート」の汽水域にたゆたうシエナ派絵画。イタリア戦争と宗教改革にともなう波乱のなか、「聖母の都市」を守護する古きイコン=聖画像はいかに動員され、新たな使命を獲得したのか。繊細なシエナ美術に秘められたダイナミズムを析出し、イメージ論の新地平を切り拓く。
目 次
口 絵
凡 例
地 図
序 章
1 「像」と「アート」の汽水域へ
2 交錯する抗争 —— 政治・宗教・芸術
3 イコンの転生とその4つの様態
4 本書の構成と方法
第Ⅰ部 時を乱すイコン
—— 古画の再コンテクスト化と古様のモード化
第1章 石の中のイコン
—— 聖画像のための大理石タベルナクルムの制作と受容
はじめに
1 固定と動員 ——《恩寵の聖母》礼拝堂
2 両極性の演出 —— ピッコローミニ礼拝堂
3 グロテスクな凱旋門 —— フォンテジュスタ聖堂主祭壇
おわりに
第2章 尼僧の手仕事?
——「サンタ・マルタの修道女たち」再考
はじめに
1 パラサイト/モンタージュ —— 様式・技法・機能
2 「サンタ・マルタの修道女たち」の批評的運命と作者像
3 マルタとウルスラ —— 図像的特異性と受容者像
おわりに
第3章 白衣の画家
—— ジョヴァンニ・ディ・ロレンツォとカモッリーアの戦い
はじめに
1 戦場のマリア —— 図像的例外性とその時代背景
2 「生ける聖女」の幻視と啓示 —— テクストの中の旗幟
3 自註としての画中画 —— イメージの中の旗幟
4 モンタペルティの戦いとその聖遺物
5 白をめぐる観念連合
おわりに
第Ⅱ部 イコンとヴィジョンのあわいに
—— 初期ベッカフーミによる3つのメタ・イメージ
第4章 聖母の子宮
——《聖三位一体と聖者たち》
はじめに
1 三位一体の幻視と現前
2 幕屋としての聖母
3 雲と受肉
おわりに
第5章 幻視の遠近法
——《シエナの聖女カテリーナの聖痕拝受》
はじめに
1 交差する視線
2 幻視への道行き
3 観者の没入
おわりに
第6章 天のオクルス
——《玉座の聖パウロ》
はじめに
1 「盾形イメージ」あるいは「天の窓」?
2 幻視者の憂鬱
3 「正義ハ天ヨリ見下ロセリ」
おわりに
第Ⅲ部 母なるイコンを体内化する
——「絵画タベルナクルム」考
第7章 帝国と自由
—— ソドマのスペイン人礼拝堂装飾にみる皇帝礼賛と聖母崇拝
はじめに
1 ミクスト・メディアと循環構図
2 双頭の鷲の庇護の下に
3
4 聖母と皇帝
おわりに
第8章 闘争の表象/表象の闘争
—— ソドマによるロザリオ同信会のための二作品をめぐって
はじめに
1 「信仰的修復」による「ロザリオの聖母」への転生
2 流用の動機 —— 古画崇拝とロザリオ信心
(1)第一の仮説 ——「復興」の同期性
(2)第二の仮説 —— 古いメディウムと新しいメディアの共働
(3)第三の仮説 —— 記憶術としてのロザリオ、「
しての古画
3 演劇性と現前化 —— ソドマの絵画タベルナクルム
4 言説的論争と形象的論争 —— 無原罪懐胎説をめぐる紛糾
5 白の隠滅 —— ソドマの行列用旗幟
おわりに
第9章 タブローの中のイメージ
—— 対抗宗教改革期シエナにおける絵画タベルナクルムの展開
はじめに
1 古画とロザリオ —— ドメニコ会の民衆教化におけるイメージの役割
2 《プロヴェンツァーノの聖母》崇拝の影響圏
3 他の托鉢修道会による模倣と流用
(1)フランチェスコ会
(2)アウグスティヌス隠修士会
(3)カルメル会
(4)聖母の下僕会
4 ローマ・バロック彫刻の流入と絵画タベルナクルムの衰退
5 絵画タベルナクルムとしてのカモッリーア前門
おわりに
第Ⅳ部 上書きされるイコンの記憶
—— 共和国滅亡後のシエナ絵画
第10章 都市と絵画の防衛機制
—— ジョルジョ・ディ・ジョヴァンニとシエナ戦争
はじめに
1 カモッリーアの戦いからシエナ戦争へ
2 作品の中の作戦 ——《シエナ市民を励ます聖パウロ》
3 フレームの内と外 —— マジョーネ聖堂の《無原罪懐胎の聖母》
おわりに
第11章 亡国のパトス、喪のトポス
—— 敗戦後のシエナ絵画における都市表象
はじめに
1 アナクロニックな砦たち
2 地上の門と天上の門
3 検閲とその検閲
おわりに
第12章 Apparizione/appropriazione
—— メディチ家支配初期のシエナにおけるフィレンツェ絵画
はじめに
1 イコンとその陰画 —— 2つの祭壇画における聖母像と都市表象
(1)カラスとトスカーナ大公 —— フォンテジュスタ聖堂《ペストの聖母》
(2)分裂する図像と様式 —— ズッキによる祭壇画
2 深淵の中の紋章 —— 既存の壁画装飾への2つの介入
(1)共和制の墓標 —— ペッレグリナイオの拡張工事と追加装飾
(2)記憶の断罪 —— カピターノ・デル・ポポロの間における改修
おわりに
終 章
1 転生の果てに —— 現代のイコンとしてのドラッペッローネ
2 楕円の時空
あとがき
初出一覧
註
参考文献
図版一覧
事項索引
人名索引
英文要旨
英文目次
受 賞
書 評
Bullettino Senese di Storia Patria(2022年号、評者:Enzo Mecacci氏)
『西洋史学』(第274号、2022年12月、評者:根占献一氏)
『みすず』(2022年1・2月合併号、読書アンケート特集、評者:栩木伸明氏)
『図書新聞』(2021年6月19日号、第3500号、評者:遠山公一氏)