内 容
感覚と藝術、その臨界へ——。「触れる」ことで作品は紡がれ、「接触」によって思想や文化が「写り/移り」を遂げる。彫刻・陶藝などの立体作品から、建築や翻訳の領域まで、異質なるものが触れあう時に何が生まれるのか。「接触造形」の視点から近現代の藝術や文化を探究し、未踏の領野へと踏み出す。
目 次
プロローグ 素足で歩むということ
第Ⅰ部 遠近の彼岸 —— 華厳的パラダイムの可能性
第1章 華厳経と現代美術
—— 相互照射の試み
1 国際的前衛と華厳の範型
2 相互融通の論理、無碍の世界
3 渦巻く生命の宇宙にむけて
第2章 陶藝と彫刻とのあいだ
—— 八木一夫と造形藝術
1 屈託のなかで
2 接触面の探求
3 作品消滅から他界との接触へ
第3章 彫刻から世界の織物へ
—— エル・アナツイと布地
1 極東からアフリカへのまなざし
2 Scrapture の提唱とその根拠
3 廃材金属片の綴れ織り —— 接触造形の可能性
第4章 異界接触論
——「作品」とその外部との界面を探る
1 作業台に座る石たちは、なにを語るか —— 小清水漸と「作品」
2 瀆神の聖画像 —— バルテュスにおける不可触の聖性
3 異界と接触する窓 —— 画中画再考
第5章 時の揺籃、魂のうつろい
1 世界は刻一刻と生まれ、そして死んでゆく
2 「個」の誕生あるいは世界の分割
3 輪廻転生と時代錯誤
4 気象学モデル
5 地学的想像力
第Ⅱ部 記憶の器 ——「うつわ」と「うつろい」
第1章 「うつわ」と「うつし」
1 「道ハ沖ナリ」
2 「うつし」
3 「うつわ」
4 「うつりゆく」
第2章 奈落と渦巻
—— 翻訳の運命について
1 翻訳の等価性と第三項排除
2 ロゴスと「論理」そして「矛盾」
3 「即」「空」そして「無」—— 媒介項と領域横断
4 対立物の変換、対流と変容
5 接触造形論の現場としての哲学翻訳対話
第3章 形の生命とその継承
—— 伊勢神宮の遷宮をめぐって
1 痕跡と断片
2 真実の解明と意味の拒絶
3 継承の儀礼
4 新陳代謝と文化遺産
第4章 胎児における風土性
—— 三木成夫再読
1 発生学的記憶
2 胎児的存在
3 子宮的通態性
第5章 遺伝子情報の繭に包まれた蛹はどんな夢を見るか?
—— 工藤哲巳と「不能哲学」
1 不能哲学の射程
2 過去回顧 近代末期から脱近代へ
3 遺伝子の綾取りはどこに行くのか
第Ⅲ部 触知の復権 —— 肌触りを研ぎ澄ます
第1章 触知的造形の思想(史)的反省にむけて
1 「東洋の覚醒」再び?
2 「手を讃えて」の射程
3 心と物の出会い、手の育むかたち
第2章 物質性よりたちのぼる精神の様相
1 今に生きる運慶
2 エイドスとデザイン
3 触知による思考造形にむけて
第3章 蘇生する化石、跳梁する魂
1 アトリウム
2 霊廟の神域
3 憑依せる物体の来臨と鎮魂
第4章 近代造形と素材の魂
—— 石井鶴三の「木取り」と「形のデッサン」
1 余材と封印
2 生命はどこから宿るのか
3 切断と続飯と —— 接触界面へ
第5章 工藝の将来あるいは「ものづくり」再考
1 脱工業化時代の技術
2 接触界面としての手
3 痕跡器官に宿る伝統
エピローグ 井戸に触れる
あとがき
注
図版出典一覧
索 引
仏文目次
英文目次
書 評
『図書新聞』(3260号、2016年6月25日、評者:南明日香氏)