内 容
「海賊史観」による世界美術史に向けて——。近代以降の地政学的変動のなかで、絵画はいかなる役割を背負い、どのような運命に翻弄されてきたのか。浮世絵から極東モダニズム、植民地藝術、現代美術まで、「日本美術」「東洋美術」の揺れ動く輪郭を歴史的に見据えつつ、国境を跨ぐイメージと文化の相互作用を、その接触の臨界に立って考察する。
『絵画の黄昏』、『絵画の東方』に続く三部作の最終巻。
目 次
プロローグ 臨界は何処にあるのか
—— 文化触変の地学的想像力と気象学的観測
序 章 翻訳の政治学と全球化への抵抗
—— 美術史の「海賊史観」と「絵画の臨界」
第Ⅰ部 内と外からみた日本美術
第1章 挿絵の想像力
—— 西洋舶来の書籍情報と徳川日本の視覚文化の変貌
第2章 西洋の日本美術像と日本の自画像
第3章 近代美術コレクションの形成
—— 日本美術/東洋美術の収集・展示とその逆説
第4章 「他者としての美術」と「美術の他者」
—— 日本の美術とその臨界
第Ⅱ部 東洋美術の越境 —— インドの岡倉覚三
第1章 岡倉覚三と「インド美術」の覚醒
—— 東洋美術史におけるその遺産と忘却
第2章 『東洋の理想』と二人の女性
—— ジョセフィン・マクラウドとシスター・ニヴェディタ
第3章 シスター・ニヴェディタと岡倉覚三
——『母なるカーリー』『インド生活の経緯』を読む
第4章 タゴール、ノンドラル・ボシュと荒井寛方
—— 岡倉覚三没後の展開
第Ⅲ部 極東モダニズムと東洋回帰
第1章 『白樺』 と同時代の世界的モダニズム
第2章 黒田重太郎と京都モダニズム
第3章 東洋のセザンヌ
——「革命の画家」から「東洋の隠者」へ
第4章 豊子愷の東洋画優位論とモダニズム
第Ⅳ部 植民地朝鮮と「満洲国」をめぐる藝術
第1章 東洋美術のジレンマ
—— 岡倉覚三・柳宗悦・魯迅
第2章 古蹟保存の植民地主義と植民地主義の文化遺産
—— 朝鮮総督府の政策と淺川巧とのあいだ
第3章 「化膿」としての翻訳
—— 土田麦僊・金素雲・梶山季之
第4章 白頭山・承徳・ハルハ河畔
——「満洲国」表象の政治地理学
第Ⅴ部 文化政策と東西対話
第1章 ブエノス・アイレスの雪舟
—— 島崎藤村の国際ペン・クラブ参加
第2章 小松清とヴェトナム
—— 仏印進駐期日本の文化政策とその余波
第3章 矢代幸雄における西洋と東洋
—— 美的対話がめざしたもの
第4章 東西葛藤のなかの詩と彫刻
—— ヨネ・ノグチからイサム・ノグチへ
終 章 歴史のなかの絵画作品の運命
—— 丸木位里・俊夫妻《原爆の図》再考
補論1 歴史教科書の善用と濫用
—— 教科書論争と「視覚的読解能力」
補論2 表象による憎悪を断ち切るために
—— 近年の絵画表象研究への批判的鳥瞰
あとがき
注
図版文献案内
索 引
Is Art History Globalizable?
英文要旨
英文目次
書 評
『週刊読書人』(2014年12月19日号、評者:河本真理氏)