内 容
またの名をヨネ・ノグチ —— 。〈沈黙〉 の言葉を英語でつづり日本文化の紹介や諸芸術の融合を試みながら、「戦時メガフォン」として文学史から消された「世界的詩人」の生涯・思想・作品を、初めてトータルに明らかにした知的伝記。東西の文化翻訳への志はなぜ挫折しなければならなかったのか。
目 次
序 章
1 はじめに
2 戦後直後の文学者批判と中世美学研究の否定
3 従来の研究の評価軸
4 研究史・評価史
5 本書の目的と方法
6 本書の構成
第Ⅰ部 出発期
—— 様々な〈東と西〉、混沌からの出現
はじめに
第1章 渡米まで
1 生い立ち
2 欧米著作物の影響
3 伝統文化との関わり
4 明治20年代の芭蕉再評価の潮流
5 渡米直後 —— 日本人コミュニティの中で
第2章 アメリカ西部で培われた詩人の精神
1 〈ミラーの丘〉での生活と芭蕉
2 詩人デビュー
3 第一詩集 Seen and Unseen(1896)と芭蕉からの示唆
4 小雑誌『トワイライト』の編集
5 米国詩の新しい潮流
第3章 The American Diary of a Japanese Girl と、境界者としての原点
1 ニューヨークでの執筆
2 同時代批評と、米国ジャポニスムの隆盛
3 匿名性と女性性
4 米国社会の日本認識に対する不満
5 〈丘〉での生活と日本詩歌のイメージ
6 日本表象への自覚と祖国の再認識
第4章 From the Eastern Sea とロンドン
1 自費出版までの過程
2 From the Eastern Sea(1903)の評価
3 東洋への視点、そして象徴主義からの視点
4 野口の英語表現
5 英国文壇での成功のあと
6 野口の日本帰国と日本社会の反応
7 英米滞在中の日本との交信
8 『帰朝の記』の意図と反応
9 文化翻訳への志
第Ⅰ部まとめ
第Ⅱ部 東西詩学の探究と融合
——〈象徴主義〉という名のパンドラの箱
はじめに
第5章 日本の象徴主義移入期と芭蕉再評価
1 1905年、象徴主義隆盛期の前後
2 〈象徴詩人芭蕉〉の出現 —— 蒲原有明
3 日欧文芸交流への期待と挫折
4 象徴主義の展開
5 野口の問題意識
6 英国詩壇に対する認識 —— イェイツとブリッジズ
第6章 帰国後の英文執筆 1904-1914年
1 海外の新聞雑誌への多彩な執筆
2 日本詩歌の紹介 —— The Pilgrimage(1909)
3 不可解な日本の解明 —— Through the Torii(1914)
4 狂言と能の紹介
第7章 1914年の英国講演とその反響
1 日本詩歌についての英国での講演
2 『日本詩歌論』に対する日本国内の評価
3 日本詩歌の翻訳
4 英国講演のその後
第8章 欧米モダニズム思潮の中での野口
1 イギリスのモダニズム詩の潮流
2 アメリカの〈新しい詩〉の潮流
3 雑誌『エゴイスト』への寄稿
4 アメリカ文学に対する認識
5 雑誌『ダイアル』への寄稿
6 アイルランド文学に対する認識
7 神秘主義、オカルティズム、神智学協会
8 世界的同時性と野口の日本
第9章 ラフカディオ・ハーン評価
1 野口とハーン
2 ハーンとの接点
3 ハーンに関する著作
4 ハーン、ケーベル、野口の共通項
5 日本主義と国内のハーン評価
第10章 大正期詩壇における野口の位置
1 象徴主義から民衆派への系譜
2 1918年の野口 —— 雑誌『現代詩歌』の特集号より
3 大正末期の野口 —— 雑誌『日本詩人』
4 1920年代の野口 —— 雑誌『詩聖』より
5 雑誌『詩と音楽』との関係
6 渾身の日本語詩
第11章 昭和戦前期詩壇における野口の位置
1 雑誌『詩神』に見られる野口評
2 雑誌『詩と詩論』の野口評価
3 雑誌『國本』と野口の志向性
4 戦時下のモダニズム詩人と詩誌『蠟人形』
5 東西文化の媒介者としての挫折
第Ⅱ部まとめ
第Ⅲ部 〈二重国籍〉性をめぐって
—— 境界者としての立場と祖国日本への忠誠
はじめに
第12章 境界に生きる
—— 野口の複雑さ
1 〈二重国籍者〉の悲劇
2 植民地経営に対する認識
3 野口の《世界意識》の行方
第13章 インドへ
—— 国際文化交流と国際政治の狭間で
1 日本とインドの相互関係
2 タゴールへの視線
3 インドとアイルランドに対する理解
4 1935-36年のインド講演旅行
5 タゴールとの論争
6 日本の戦争とインド独立
第14章 ラジオと刊行書籍に見る〈戦争詩〉
1 〈戦争詩〉というジャンル
2 〈戦争詩〉とモダニズム
3 『宣戦布告』の両義性
4 『八紘頌一百篇』の両義性
5 葛藤の近代詩史
第15章 父から子へ
—— 子によって開示された野口の普遍性
1 野口の戦後
2 イサムへの系譜
3 後輩詩人たちの戦後評価 —— 蔵原伸二郞と金子光晴
第Ⅲ部まとめ
終 章
受 賞
書 評
『週刊読書人』(2012年12月21日号、評者:阿部安成氏)