内 容
公と私のあわいに浮かびあがる〈感覚〉という問題系をとらえ、眼差す・触れる・嗅ぐことから歌い踊る身体まで、日本の近代化のなかで変容していく感覚表象を通じて、文学・映画・写真・歌謡・舞踊など様々な芸術ジャンルを、文化的=政冶的文脈に再配置しつつ横断的に読み解く新たな批評の実践。
目 次
序 章
1 日本語を聞くハーン
2 日本語を見るハーン
3 肌に書く —— グリーナウェイと谷崎
4 本書の目的
第Ⅰ部 感覚の近代
第1章 猫の観相学
—— KNOW THYSELF?
1 書く猫あるいは観察する猫
2 観察のディスクール
3 鼻という中心
4 観察される主体
第2章 観察者の空虚
——『彼岸過迄』
1 語りと構成の問題
2 敬太郎の位置
3 都市の表情をよむ
4 観察者の空虚
第3章 十二階の風景
1 永井荷風の浅草
2 十二階からの眺め
3 浅草と萩原朔太郎・室生犀星
4 『幻影の都市』の十二階
5 都市のデーモンの在所 ——〈十二階〉以後へ
第4章 郷愁の視覚
—— 萩原朔太郎と写真
1 〈文明開化〉への郷愁
2 レンズの中の郷愁
3 幽霊化する自己あるいは幻想の不能
第5章 山とシネマと
——〈故郷を失った文学〉とスクリーンの中の異界
1 山人とロマン主義
2 「故郷を失つた文学」と近代登山
3 異人のいない異界 ——『吉野葛』
4 銀幕の上の疑似現実
5 分身物語
6 クローズ・アップ
7 スクリーンの中の顔
第6章 指先の詩学
—— 萩原朔太郎と身体表象
1 指の人、萩原朔太郎
2 断片化と流動化、そしてアポトーシス
3 いたむ手、光る手
第7章 セバスチャンの肌
—— 裸体・三島・谷崎
1 〈やは肌〉あるいは〈燃える肌〉
2 石内都が撮る〈肌〉
3 主体化する被写体 ——『薔薇刑』の三島由紀夫
4 聖セバスチャンの肌
5 『金色の死』と三島由紀夫
6 金色のセバスチャン
7 1981年の聖セバスチャン
第8章 嗅がれるべき言葉へ
—— 嗅覚表象と近代詩その他
1 近代の視覚中心主義と嗅覚
2 明治東京の悪臭
3 世紀末退化論と嗅覚
4 嗅がれるべき言葉へ
第9章 かぐはしきテクスト
—— 近代の身体と嗅覚表象
1 匂いを言語化すること ——『香水』と『さかしま』
2 夏水仙が腐るとき ——『淫売婦』ほか
3 悪臭テクスト ——『牛部屋の臭ひ』
4 体臭の発見 —— 腋臭の人類学
5 匂いのジェンダー化に抗して ——「生血」「離魂」ほか
6 かぐはしきテクストへ
第Ⅱ部 歌う身体
第1章 近代の詩と歌謡と
—— その危険な関係
1 中原中也の詩と「スルヤ」
2 ダダイズムと民謡
3 メルクマール〈1918〉——〈国詩〉選定と民衆詩派
4 〈国民詩人〉と歌謡
第2章 〈国民の声〉としての民謡
1 歌の喪失 —— 柳田国男の民謡論
2 民謡概念の創出 —— 志田義秀「日本民謡概論」その他
3 〈諸国民の声〉—— ヘルダーの民謡概念
4 民謡集の編纂 ——〈国民の声〉としての民謡
5 植民地と民謡 —— 朝鮮民謡その他
6 月の唄
7 発禁された民謡集 ——『諸国童謡大全』の問題
8 演出される民謡 —— 雑誌『民俗芸術』と新民謡
第3章 声と日本近代
—— 唱歌・童謡の美的イデオロギー
1 音楽・学習指導要領における「美的情操」
2 唱歌における声と詩語の問題 ——『尋常小学唱歌』と田村虎蔵ほか
3 自由主義教育思想と〈自然〉
4 童謡を歌う声
第4章 戦時下を踊る身体
—— 唱歌遊戯から『国民舞踊』まで
1 ガリ版刷り遊戯教材から見えてくるもの
2 遊戯教育前史
3 ダンスと体育のあいだ
4 村山知義と少女たちの踊る身体
第5章 少女という場所
—— 踊る少女/歌う少女/書く少女
1 少女という場所
2 芸術自由主義運動の性格
3 高級文化としての家庭踊・童謡・童謡舞踊
4 歌う少女、踊る少女 —— 本居姉妹ほか
5 レコードの中の〈永遠少女〉
6 童心と媚態 ——『女生徒』ほか
7 〈空白〉からの声 —— 豊田正子の綴方
第6章 ラジオフォビアからラジオマニアへ
1 『ラヂオ殺人事件』
2 起源としてのラジオフォビア
3 メディアに囲繞される文学
4 近代詩朗読とプレインネスの思想
5 戦時下の朗読詩放送
第7章 誰がための涙
——〈一億の号泣〉の一日
1 雑音の中のアウラ
2 「一億の号泣」の特異さ
3 高村光太郎の戦争と戦争詩
4 戦中/戦後をまたぐこと
第8章 民謡の近代と戦後
—— 国民主義とメディア
1 『新日本紀行』と『日本列島改造論』
2 「居付地蔵」—— 故郷の伝承と崩壊
3 『新日本紀行』と『プロジェクトX』
4 テレビ番組と民謡
5 「五木の子守唄」とメディア
6 〈喪失の美学〉の向かうところ
7 盆踊の近代
8 家庭踊と童謡舞踊
9 家庭踊と皇室
10 都市文化と民謡 —— 1920年代
11 舞台に乗る民謡 ——「郷土舞踊と民謡」の会、その他
12 〈保存〉と〈流行〉—— 民謡の近代と戦争
注
Nachklang —— 響きのなごり、沈黙の共鳴域へ
初出一覧
図版一覧
索 引
書 評
『論座』(2007年1月号、「2006年 わたしが選んだこの3冊」、評者:長山靖生氏)
JAPANESE BOOK NEWS(第50号、2006年冬)
『日本近代文学』(第75集、2006年11月、評者:中山昭彦氏)
『昭和文学研究』(第53集、2006年9月、評者:澤正宏氏)
『図書新聞』(2006年7月29日号、第2784号、特集「2006年上半期読書アンケート」、評者:安田敏朗氏)
『週刊読書人』(2006年7月28日号、特集「2006年上半期の収穫から 40人へのアンケート」、評者:石原千秋氏、中村三春氏)
東京新聞・中日新聞(2006年4月16日付、評者:高橋世織氏)