内 容
アジア太平洋戦争から冷戦、昭和の終わり、湾岸・イラク戦争、ポスト3・11まで、戦争をめぐる言葉がすくい上げてきたもの、底に沈めてきたものを、詩・小説・批評を中心に精緻に読解。経験や記憶に刻まれた〈傷跡〉としての表現の重層性から、〈戦後〉概念を再審にかける。
目 次
序 論 〈戦後〉の再審のために
1 ゆらぐ〈戦後〉
2 冷戦体制の崩壊と戦後民主主義批判
3 永すぎた戦後と〈戦後〉の危機
4 傷/傷跡としての〈戦後表現〉
第Ⅰ部 戦中にうたう戦争/戦後に書く戦争
第1章 戦争詩歌における前線と銃後
——『支那事変歌集』その他
1 〈前線/銃後〉パラダイム —— 帝国日本の戦争とその性格
2 日露戦争における前線と銃後 —— 櫻井忠温『肉弾』と田山花袋『田舎教師』
3 記憶装置としての詩 —— 日中戦争から〈大東亜戦争〉へ
4 3つの『支那事変歌集』
5 『支那事変歌集』を読む
第2章 〈抒情〉と戦争
—— 戦争詩の主体における公と私
1 戦争記録文学の叙事と抒情
2 少国民と戦争抒情
3 銃後詩人における国民化システム —— 尾崎喜八の場合
4 声の環流 ——「大詔奉戴」と隣組
5 〈公〉と〈私〉をつなぐ銃後詩人たち
6 韻律のファシズムと抒情
第3章 三好達治と戦争
1 「おんたまを故山に迎ふ」をどう読むか
2 自然としての死
3 三好の戦争詩批判とその矛盾
4 天皇の声を受肉すること、臣民の声を代行すること
第4章 ある詩人の戦中戦後
—— 佐藤一英の位置
1 詩と詩論の関係
2 佐藤一英の詩論
3 韻律学と戦争詠そして佐藤一英の戦後
第5章 パラレル・ワールドとしての復員小説
—— 八木義徳『母子鎮魂』ほか
1 経験の歴史化/経験の物語化
2 〈移動〉と戦争
3 鎮魂三部作まで
4 鎮魂三部作の意味
5 語りのパラレリズム(1)——『帰来数日』
6 語りのパラレリズム(2)——『母子鎮魂』
第6章 朝鮮戦争・ヴェトナム戦争の時代
—— 冷戦と経済成長
1 不確定な〈戦後〉—— 経済成長期における戦争文学
2 いまだ終わらざる戦争 ——〈第三の新人〉たちと野間宏
3 歴史の〈重ね書き〉と〈書きかえ〉
—— 井上光晴・大江健三郎・高橋和巳そして三島由紀夫
4 記録と文学 —— 井伏鱒二『黒い雨』と大岡昇平『レイテ戦記』ほか
第Ⅱ部 戦時と戦後の連続/不連続
第1章 北園克衛の郷土詩と戦争
第2章 転向を語ること
—— 権力と告白
1 転向か非転向か
2 相互権力と転向
3 『転向者の手記』と小林杜人
4 小林杜人/小野陽一の語り
5 全体的転向 ——〈転位〉としての転向
6 様々な転向者たちの語り
7 〈宗教は阿片〉—— 宗教批判は克服されたか
8 浄土真宗と教誨師
9 転向の原理的再考へ
第3章 戦後の変態
—— 阿部定と熊沢天皇
1 『猟奇女犯罪史』の中の阿部定
2 阿部定と同時代精神分析言説
3 戦後空間の中の阿部定
4 阿部定から熊沢天皇へ
第4章 〈国文学〉者の自己点検
1 20世紀の終わりに起きていたこと
2 芳賀矢一の国学/国文学
3 文芸学登場以降の国文学
4 戦争責任と戦後責任の連続性
5 戦中戦後の切断=連続
第5章 戦中戦後の跨ぎ方
——〈国文学〉教育=研究の場合
はじめに
1 榊原美文と文学教育
2 1930年代の国文学界 —— 近藤忠義を中心に
3 榊原美文の文学思想
4 戦中から戦後への跨ぎ方
第Ⅲ部 外地の始まらない戦後
第1章 場所の詩人、金子光晴
第2章 柵の中で
—— 日系人強制収容所の中の
1 〈日本語文学〉という領域
2 〈アメリカ人になること〉と〈日本人であること〉
3 〈忠誠心調査〉と日系移民たち
4 柵の中の書記空間
第3章 旧満洲留用者たちの戦後
—— 雑誌『ツルオカ』とその周辺
1 徳田要請問題と木下順二『蛙昇天』
2 炭鉱都市・鶴崗
3 雑誌『ツルオカ』
4 『ツルオカ』掲載の文学作品
第Ⅳ部 戦後文学の思想
第1章 戦中戦後を架橋するゲシュタルト
—— 花田清輝『復興期の精神』
1 論理としてのレトリック
2 戦後への架橋としての〈変形〉
3 楕円のゲシュタルトと〈転形期〉
第2章 Herz und Mund und Tat und Terrorismus(心と口と行い、そしてテロリズム)
—— 大江健三郎『セヴンティーン』
1 2人の〈美智子〉の時代
2 『セヴンティーン』のアイロニー
3 テロリストの心と口と行い
4 テロルの未決算
第3章 歴史の消費
—— 高橋和巳『散華』『堕落』における戦中戦後の〈重ね書き〉
1 1960年代と高橋和巳
2 『堕落』と『散華』の同時代的文脈
3 被害者史観とミソジニー
第4章 街頭の詩想
—— 寺山修司と〈1968〉
はじめに
1 落書きが消えていく
2 〈開かれた書物〉としての街路
3 地理主義という思考
4 街頭から故郷へ/故郷から街頭へ
第5章 妻の崩壊
—— 傷跡としての江藤淳『成熟と喪失』
1 妻のあとを追う夫たち
2 アメリカと〈私〉性
3 〈母〉の崩壊 —— 一つのシナリオ
4 〈妻〉の崩壊
第Ⅴ部 戦後詩の臨界
第1章 初期サークル運動の可能性
1 サークル運動の中の軋み
2 序列化の問題 —— サークルと労組そして党
3 サークル運動における自由と不自由
4 読む人は書く人になることができる
第2章 高度消費社会と詩の現在
1 〈新人類〉の時代
2 現代詩の1980-90年代
3 技術の復権 —— 荒川洋治の位置
4 〈女性詩〉の時代
第3章 クソ詩の戦争
—— 藤井貞和の詩=論
1 言霊的なるもの
2 音韻がすりへって
3 〈窶し〉の極限
4 〈窶し〉から〈クソ詩〉へ
第4章 過ぎ去っていく過去
—— 湾岸戦争詩論争まで
1 問いの前の問い —— 忘却の世紀としての21世紀
2 湾岸戦争詩論争前史
3 メディア・ウォーの中の詩
4 湾岸戦争詩論争とは何だったのか
第Ⅵ部 戦争から遠く離れて
第1章 プログラムされた物語
—— 村上春樹『羊をめぐる冒険』
1 『羊をめぐる冒険』を一篇として読むこと
2 教養小説的範型を裏切る
3 プログラムされた物語
第2章 ポストバブルの〈アブジェクト〉
—— 吉本ばなな『キッチン』から桐野夏生『OUT』へ
1 バブルの時代の夢みるキッチン
2 コンビニの光と闇
3 ポストバブルの〈崩壊〉感覚
4 〈無気味なもの〉の原理
5 ポストバブルの〈アブジェクト〉
第3章 幸いなるかな忘れゆくもの
—— 危機としての戦後60年
1 忘却という病
2 忘れていく私たちの危機を語る言葉
3 忘却を写す、忘却を戒める
第4章 転形期としての1989年と元号問題
1 香港2019・6
2 ベルリン1989・11
3 東京1989・1
4 元号問題への序奏 —— いまだ始まらない〈平成〉と〈令和〉
第5章 生者と生きる
1 よみがえる〈演説〉—— SEALDsの衝撃
2 オバマ・広島スピーチをどう聞くか
3 〈ポスト3・11〉の死者論言説(1)—— 小説における
4 〈ポスト3・11〉の死者論言説(2)——- 批評における
注
〈戦後後〉を見とどける —— あとがきに代えて
初出一覧
図版出典一覧
索 引
書 評
『国文学研究』(第201集、2024年11月、評者:加藤邦彦氏)
『昭和文学研究』(第88集、2024年3月、評者:佐藤泉氏)
『日本近代文学』(第109集、2023年11月、評者:川口隆行氏)
『名古屋大学国語国文学』(第116号、2023年11月、評者:藤田祐史氏)
早稲田大学総合人文科学研究センターウェブサイト(自著紹介、2023年8月公開)
『週刊読書人』(2023年7月28日号、第3499号、特集「2023年上半期の収穫から」、評者:成田龍一氏)
『図書新聞』(2023年6月10日号、第3594号、評者:水溜真由美氏)
関連書
『戦後ヒロシマの記録と記憶』(上下巻) 若尾祐司・小倉桂子 編