内 容
女性作家は〈女性〉を代表しない ——。〈女性〉へと呼びかけられ、亀裂の感覚を生きながら、彼女たちはいかに語ってきたのか。田村俊子、野上弥生子、宮本百合子、尾崎翠、林芙美子、円地文子、田辺聖子、松浦理英子、水村美苗、多和田葉子など、複数の読み手に曝されたマイノリティ文学として読む。
目 次
凡 例
序 章 〈女性作家〉という枠組み
1 6つの前提
2 亀裂の発生源としてのジェンダー
3 主体性から応答性へ
4 被読性と読者の複数性
5 〈語りにくさ〉の倫理性
第Ⅰ部 応答性と被読性
第1章 〈女〉の自己表象
—— 田村俊子「女作者」
1 自己表象のジェンダー・スタディーズ
2 男性作家の場合
3 女性作家の場合
4 書けない女たち
5 女性の自伝
6 田村俊子という例外
第2章 書く女/書けない女
—— 杉本正生の「小説」
1 〈自己語り〉と「小説」
2 『青鞜』という場
3 杉本正生という書き手
4 『京都日出新聞』の短編群
5 〈告白〉と「小説」
6 読み手としての〈新しい女〉
7 〈告白〉の回避
8 〈語りにくさ〉と読まれること
第3章 読者となること・読者へ書くこと
—— 円地文子『朱を奪うもの』
1 書き手にとっての読者
2 読者となること
3 読者へ書くこと
4 裂かれる主体
第4章 聞き手を求める
—— 水村美苗『私小説 from left to right』
1 声と力
2 文学テクストを書く
3 『私小説 from left to right』
第5章 関係を続ける
—— 松浦理英子『裏ヴァージョン』
1 書き手と読み手の力関係
2 『こゝろ』のパロディ化
3 『放浪記』という〈表ヴァージョン〉
4 『放浪記』のパロディ化
5 関係を欲望する
第Ⅱ部 〈女〉との交渉
第6章 〈女〉を構成する軋み
——『女学雑誌』における「内助」と〈女学生〉
1 カテゴリーとその配置
2 〈賢母〉と〈良妻〉と〈女学生〉
3 〈良妻〉から〈賢母〉、そして「家族」へ
4 女学生批判と「内助」論
5 「内助」論の特殊性
6 理念が生む軋み ——「こわれ指環」と「厭世詩家と女性」
第7章 「師」の効用
—— 野上弥生子の特殊性
1 女性作家と師
2 記憶の中の漱石
3 漱石の「明暗」 評
4 「明暗」評と「明暗」
5 「師」の抽象化
第8章 意味化の欲望
—— 宮本百合子『伸子』
1 伸子という主体
2 「ごちゃ混ぜ」な『伸子』
3 3つの層
4 名付けをめぐる攻防
5 放置された細部
第9章 女性作家とフェミニズム
—— 田辺聖子と女たち
1 多様な新しさ
2 田辺聖子の視線
3 田辺聖子と女たち
第Ⅲ部 主体化のほつれ
第10章 〈婆〉の位置
—— 奥村五百子と愛国婦人会
1 女性の再配置
2 愛国婦人会と日本赤十字社
3 奥村五百子のジェンダー
4 慈善と良妻賢母
5 奥村五百子と『愛国婦人』
6 〈婆〉の再配置
第11章 越境の重層性
—— 牛島春子「祝といふ男」と八木義徳「劉廣福」
1 植民地主義的越境
2 2つの〈外地もの〉
3 満人譚の再生産 —— 八木義徳「劉廣福」
4 典型の回避と回収と —— 牛島春子「祝といふ男」
5 微妙な抵抗
第12章 従軍記と当事者性
—— 林芙美子『戦線』『北岸部隊』
1 従軍記の欲望
2 吉屋信子の従軍記
3 火野葦平『麦と兵隊』と林芙美子の「宿題」
4 記述と想像
5 感傷性と当事者性
第Ⅳ部 言挙げするのとは別のやり方で
第13章 異性愛制度と攪乱的感覚
—— 田村俊子「炮烙の刑」
1 身体的な言葉
2 姦通という物語
3 3つの手紙と異性愛的物語
4 龍子の感覚世界
5 非異性愛的攪乱性
第14章 遊歩する少女たち
—— 尾崎翠とフラヌール
1 歩く少女
2 フラヌール・銀座
3 模倣と自己離脱
4 墜落する歩く女
5 ステッキガール
6 尾崎翠の歩くこと
7 歩行の運動性
第15章 言葉と身体
—— 多和田葉子『聖女伝説』『飛魂』
1 「沈黙」への期待
2 『聖女伝説』の「被害者」
3 媒体となること
4 「抵抗」の「術」
5 「全然違う身体」
6 『飛魂』の弟子たち
7 「理解」と独創
8 方法としての体感
9 言葉の可動性
注
あとがき
初出一覧
索 引
書 評
『昭和文学研究』(第74集、2017年3月、評者:生方智子氏)
『週刊読書人』(第3170号、2016年12月23日、評者:千田有紀氏)
『図書新聞』(第3276号、2016年10月29日、評者:笹尾佳代氏)
『週刊読書人』(第3154号、2016年8月26日、評者:山﨑眞紀子氏)