内 容
文学はどのようにして「男の仕事」となったのか。—— 明治30年代から大正期にかけて近代文学が自立してゆく過程は、文学という領域が新たな構造のもとにジェンダー化してゆくプロセスでもあった。本書は、ホモソーシャルな読者共同体の成立にいたるこの転換を鮮やかに描き出すとともに、そこにおける漱石テクストの振る舞いを精緻に分析する。
目 次
序 章 隠喩としてのジェンダー
1 文学研究と政治性
2 ジェンダー概念の有効性
3 日本のフェミニズム批評
4 本書の目論見
第Ⅰ部 「文学」と読者共同体
第1章 境界としての女性読者
—— 《読まない読者》から《読めない読者》へ
1 「家庭小説」と通俗と女性
2 『己が罪』前史
3 『己が罪』登場
4 『己が罪』その後
5 その後の「家庭小説」
第2章 「作家」という職業
—— 女性読者の抽象的排除
1 夏目漱石と自然主義
2 『道草』における「金」の問題
3 自然主義における「金」の問題
4 《読めない読者》の排除
5 大正期における「金」の問題
6 大正4年の『道草』評
第3章 書くことと読むことにおけるジェンダー
1 書くことと読むこと
2 『煤煙』における誤読の反復
3 明治40年代における誤読の意味
4 『煤煙』の誤読行為
5 『峠』の誤読行為
6 「読むこと」と「読まれること」のジェンダー化
第Ⅱ部 男と男
—— 語られる「女」・語られない「女」
第4章 『虞美人草』—— 藤尾と悲恋
1 『虞美人草』と新聞小説
2 1つの悲恋物語と2つの非恋物語
3 省筆される悲恋物語
4 藤尾=『青春』の死
5 藤尾=家庭小説の死
6 〈謎〉の不在
第5章 『三四郎』—— 美禰子と〈謎〉
1 〈謎〉としての女
2 〈謎〉を生む装置
3 女の顔
4 美禰子の服
5 語られる〈新しい女〉
第6章 『行人』—— 二郎と一郎
1 二郎と一郎
2 捏造される 「性の争ひ」
3 「長男」「次男」と「子供」であること
4 「性の争ひ」の再現
5 それぞれの「長野家」
6 2人の男と直
第Ⅲ部 ホモソーシャルな読者共同体
第7章 『こゝろ』的三角形の再生産
1 『こゝろ』的三角形の無視
2 三角形
3 内的媒介
4 具体的感情の前景化
5 独創と渾然化
6 党派性の無視と共同体的快楽
第8章 逆転した『こゝろ』的三角形
1 2つの共通点
2 『友情』の三角形
3 参加型模倣
4 形式における水準の渾然化
5 ホモソーシャルな読者共同体
第Ⅳ部 男と女
—— 可能性としての「女」
第9章 『こゝろ』
—— レトリックとしての「恋」
1 ホモソーシャルな物語としての『こゝろ』
2 漱石テクストにおける「恋愛」の構造
3 2つの三角形
4 レトリックとしての「恋」
第10章 『明暗』
——〈嘘〉の物語・三角形の変異体
1 「相対化」という問題
2 『明暗』における〈嘘〉
3 解釈共同体の境界
4 2種類の他者
5 津田とお延
6 お延の可能性
7 『明暗』における漱石的三角形
あとがき
初出一覧
人名・作品名索引