内 容
恋愛と開化はなぜ似るか。—— 吸引する謎、勧誘する人々、そそのかしと思いがけぬ心、催眠術と感化の不思議 ……。理論と実作をつらぬく独自の〈心〉をめぐる探究に、漱石文学の隠された〈鍵〉を見いだし、同時代の知的文脈との対照からその世界性を明証する力作。
目 次
はじめに
第1章 吸引する漱石/先生
1 「先生」と「私」の「恋」
2 漱石と弟子たちの「恋」
3 自滅に至る「感化」
4 謎をかける「先生」
第2章 勧誘する人々
1 赤シャツの勧誘 ——『坊っちゃん』
2 「謎の女」——『虞美人草』
3 白い眼の運動 ——『坑夫』
4 謎と眼付と官能 ——『三四郎』
5 「謎の目」の魔力 —— 鷗外の容喙
6 催眠術の時代
第3章 暗示とは何か
1 吸引する謎 ——『夢十夜』
2 心の「明/暗」 —— フロイトとの接点
3 『文学論』第5編の「気焰」
4 暗示の時代 —— 19世紀末の “suggestion”
5 主語のない暗示 ——『硝子戸の中』
第4章 『心』と『明暗』
1 暗示し合う友達 —— K と「私」
2 暗示者としての静
3 いかにして暗示は発生するか ——『明暗』
4 「因縁」としての暗示
5 『文学論』のエロス
6 「因縁」は「因縁」を生む
第5章 シェイクスピア的そそのかし
1 志賀直哉の不満
2 悪漢、魔女、幽霊のそそのかし
3 「観念の聯想」の手法化
4 思いがけぬ心 ——「人生」
5 狸は人を婆化すか ——「琴のそら音」
第6章 ギュイヨー、ベルクソンを読む
1 「伝染的影響力」の法則
2 「恋情」をめぐる東西文学の相違
3 「意味表示的/暗示的」と「第一f/第二f」
4 「根源的な自己」と催眠術
第7章 若年の翻訳「催眠術」
1 「遣つた後で驚いたんです」
2 原典「催眠術といかさま」を読む
3 原著者ハートの企図
4 訳者漱石の手腕
第8章 「開化ハ suggestion ナリ」
1 「矛盾」を説明する志
2 「男女の愛」と「仏国革命」
3 甲羅のはえた暗示
4 日本の「F」の方向転換
5 「chance」を減らせ
第9章 『文学論』の世界史的意義
1 『文学論』の先駆性
2 ロシア・フォルマリズムとの岐路
3 暗示の戦いと「文学の進化」
4 I・A・リチャーズとの共振
5 トルストイへの褒貶
第10章 実験小説と俳句・連句
1 三重吉「千鳥」と「倫敦塔」
2 連句的小説としての「一夜」
3 寺田寅彦への伝授
4 「心の底」を呼び出す
注
あとがき
初出一覧
作品名索引
人名索引