内 容
原爆とホロコーストの交点へ ——。かつて「75年間は草木も生えない」と言われた都市は復興を遂げ、平和記念公園は「穏やかな」聖地と化した。どのようにして? 追悼・記念や観光をめぐる記憶の政治、証言とトラウマ、絡み合う犠牲者言説などに注目し、世界のなかのヒロシマの位置を問い直す挑戦作。
著者紹介
ラン・ツヴァイゲンバーグ
(Ran Zwigenberg)
1976年、イスラエル生まれ。ニューヨーク市立大学にて博士号(歴史学)取得。現在,ペンシルヴェニア州立大学准教授。本書『ヒロシマ』により、米国アジア研究協会のジョン・ホイットニー・ホール著作賞を受賞。
目 次
凡 例
日本語版へのはしがき
序 章
ヒロシマと記念の政治
イスラエル並びに西側陣営におけるホロコーストとヒロシマ
異なる知のかたち
—— 戦争による破断、そしてパラダイムとしての体験とトラウマの登場
第1章 平和の閃光
—— 広島における都市計画・記念・政治 1945~55年
はじめに —— 原爆を説明する
記念 ——「原爆が平和をもたらした」
ヒロシマを売り込む(1)—— 観光産業、資金調達、原爆遺産のはじまり
ヒロシマを売り込む(2)—— 1949年広島平和記念都市建設法
丹下健三と広島平和記念公園の形成
結び —— ヤド・ヴァシェム、ヒロシマ、そして1940年代
第2章 近代の不安
—— 恥と誇りの狭間の生存者たち 1945~60年
はじめに —— 感情の反転と生存者の創出
変遷 —— 感情のレジームと生存者たちの反応
選択 —— 広島の生存者と反核運動
原爆乙女と感情包摂の論理
結び —— 恥と誇りの狭間で
第3章 社会主義者の原爆と平和の原子力
—— 近代性の展示と平和への闘い 1955~62年
はじめに —— 不穏な1950年代
反核運動の台頭と没落
冷戦下の近代性 —— 平和記念公園、「原子力平和利用」、広島復興大博覧会
広島城の奇妙な物語 —— 原爆の影のなかの郷愁と観光産業
結び —— 広島、米国、そして広島史の基軸
第4章 心の傷
—— ロバート・リフトン、PTSD、生存者とトラウマの精神医学的再評価
はじめに —— 精神医学、トラウマ、ヒロシマとその他の生存者
日本の精神医学と原爆
西洋の精神医学と生存者の補償議論
ロバート・リフトンのヒロシマとPTSDの誕生
結び —— 核の恐怖、生存者、そして広島の忘れ去られた役割
第5章 広島・アウシュヴィッツ平和行進
はじめに —— 証言の世紀
世界の虐殺犠牲者の団結 —— 平和行進の出発
広島のアイヒマン —— 日本人の目から見たホロコースト
シンガポール ——「血債」
生存者の国で —— イスラエルでの平和行進
死の形見の交換 —— 平和行進、アウシュヴィッツに到着
結び —— 広島・アウシュヴィッツ委員会の結成と連帯のための動員
第6章 平和の聖地
—— 暴力、観光産業、平和記念公園の聖地化 1963~75年
はじめに —— 神聖なるものの利用
平和の聖堂 —— 原爆ドームの保存
自衛隊のパレード、暴徒と化す学生、暴走族
神聖なるもの —— 原爆資料館のリアリズム論争
結び —— ヤド・ヴァシェムとアウシュヴィッツにおける観光産業・暴力・政治
第7章 赤リンゴの皮をむく
—— 広島・アウシュヴィッツ委員会と広島・アウシュヴィッツ記念館
1973~95年
はじめに —— 追悼のグローバル化
はじまり —— 記念館キャンペーンの開始
広島とアウシュヴィッツにおけるローマ・カトリック教会の普遍主義
国際的な文脈 —— イスラエル、ポーランド、そしてユダヤ人の方向転換
犠牲をめぐる競争とアラブの抗議
アウシュヴィッツ記念館計画の崩壊
結び —— アウシュヴィッツ記念館とヒロシマの記憶の戦争
終 章 もうひとつの
—— ヒロシマ、アウシュヴィッツ、9・11、それらの間の世界
謝 辞
訳者あとがき
注
主要参考文献
図版一覧
索 引
書 評
『日本歴史』(2021年10月号、第881号、評者:頴原澄子氏)
『みすず』(2021年1・2月合併号、読書アンケート特集、評者:川本隆史氏)
『図書新聞』(2020年11月14日号、第3471号、評者:直野章子氏)
関連書
『戦後ヒロシマの記録と記憶』(上下巻) 若尾祐司・小倉桂子 編
『記念碑の語るアメリカ』 ケネス・E・フット 著/和田光弘・森脇由美子・久田由佳子・小澤卓也・内田綾子・森 丈夫 訳