内 容
美術史・建築史のマスター・ナラティヴに組み込まれている「ゴシック誕生」。しかし、中世ヨーロッパ建築・彫刻の驚くべき多様さはその直線的な物語から排除されてきた。大聖堂を飾る人像円柱やマイクロアーキテクチャなどの豊かな造形に光を当て、時代様式を超えた新たなゴシック像を提示する。
目 次
序 章 オルタナティヴなゴシック像に向けて
—— 排除から回収へ
1 様式論による「斬首」
2 近代におけるロマネスクとゴシックの「創出」
3 排除されたものの考古学
第Ⅰ部 「ゴシック誕生」の問題系
—— 起源創出のレトリックを問う
第1章 ロマネスクからゴシックへ?
—— 近代的構成物としての様式史
はじめに
1 時代様式という近代的構成物
2 「ロマネスク」概念の創出がもたらしたもの
3 連続する様式間の対立的関係 —— パウル・フランクルの思考
4 起源をめぐる言説
5 様式論と空間的枠組
第2章 ロマネスクでもゴシックでもないもの
—— 様式史の「不純物」
はじめに
1 「過渡期」の建築をめぐる言説
2 「1200年様式」の射程
3 「後期ロマネスク」
第3章 ゴシックとイル=ド=フランス
—— 空虚としての中心
はじめに
1 「ゴシック誕生」とモダニズム
2 パノフスキーによる「モダニスト」としてのシュジェール像
3 イル=ド=フランスと「空白地帯」
4 クリュニー第三聖堂の事例
おわりに
第Ⅱ部 ロマネスクとゴシックのあいだ
—— 人像円柱
第4章 人像円柱というロマネスク的伝統
—— ゴシック彫刻の「起源」という虚構
はじめに
1 人像円柱とは何か —— フォシヨンの定義をめぐって
2 ゴシック彫刻の誕生と人像円柱
3 ロマネスクにおける人像円柱
4 人像円柱と扉口側壁の構造
5 廻廊の人像円柱
6 建築における人像円柱の機能
第5章 石材に斜めから取り組む彫刻技法と人像円柱
——シャルトル大聖堂を中心に
はじめに
1 フェーゲからウィトコウアーまで
2 人像円柱の場合
3 アーキヴォルトの彫像の場合
4 浮彫の地と表面の問題
第6章 サン=タルヌー=ア=ニヴリーヌの12世紀の彫刻
はじめに
1 物語柱頭の図像表現
2 装飾小円柱と人像円柱
おわりに
第Ⅲ部 「古典主義的」ゴシック
第7章 ゴシック建築における円柱と古典主義
はじめに
1 様式論の問題
2 ゴシック建築における円柱と古典の再活性化
おわりに
第8章 コリント式柱頭
—— 反ロマネスクのパラドックス
はじめに
1 排除のレトリック
2 ロマネスク建築におけるコリント式柱頭
3 イル=ド=フランスとその周辺におけるコリント式柱頭
おわりに
第Ⅳ部 周縁と細部の考古学(1)
──マイクロアーキテクチャ
第9章 ゴシックとマイクロアーキテクチャの問題系
はじめに
1 マイクロアーキテクチャにおける建築様式と時差
2 マイクロアーキテクチャにおける「ゴシック」
第10章 キャノピー・モティーフとその展開
はじめに
1 キャノピーの類型学
2 キャノピーの系譜学
3 キャノピーの図像学
おわりに
第Ⅴ部 周縁と細部の考古学(2)
—— シャルトル大聖堂「王の扉口」と装飾小円柱
第11章 装飾小円柱の系譜と12世紀の作例
はじめに
1 モニュメンタルな芸術における先行例
2 多様な芸術領域における先行例
3 12世紀の装飾小円柱のタイプと地理的分布
4 建築における装飾小円柱の配置
5 柱身の装飾された人像円柱
6 装飾小円柱と支柱システム
7 装飾小円柱と人像円柱
第12章 シャルトル大聖堂「王の扉口」の装飾小円柱
はじめに
1 建築的枠組
2 装飾小円柱のシステム
3 扉口側壁の隅切の構造
4 シャルトルの装飾小円柱に見られる不規則性
5 装飾小円柱に加えられた変化と修復
6 装飾小円柱と「王の扉口」および西正面の他の彫刻との関係
7 装飾小円柱を形成する各要素の長さ
8 再構成の試み
9 各円筒形要素の記述
10 装飾モティーフ
11 彫刻技法
おわりに
第13章 ヨーロッパ北部の装飾小円柱
はじめに
1 フランスとベルギー
2 イングランドの装飾小円柱
おわりに
終 章 複数形で長いゴシック
—— ひとつの処方箋として
1 様式史のマスター・ナラティヴからの脱却
2 「ロマネスクでもゴシックでもないもの」への着目
3 長いゴシック
あとがき
初出一覧
註
図版一覧
索 引
書 評
『週刊読書人』(2022年6月17日号、第3444号、評者:谷古宇尚氏)