内 容
奇跡像、蠟人形、幻視 …… 近代の「芸術」からはこぼれ落ちる、「迷信」に満ちたイメージの力を無視することなく、人々がそこに残した痕跡や文化の記憶が織りなす複雑な地層を、図像・文書の丹念な解読によって辿りなおし、ルネサンスの多元性を蘇らせた「イメージの歴史人類学」の試み。
目 次
凡 例
序 章
第1章 聖なるものの地政学
—— トスカーナ地方における聖母像崇敬の流行と変遷
第1節 都市周辺部の聖母像崇敬
1 チーゴリの聖母
2 セルヴェの聖母
第2節 都市-周辺部の力学
1 インプルネータの聖母
2 プリメラーナの聖母
第3節 都市の聖母像崇敬
1 オルサンミケーレの聖母
2 サンティッシマ・アヌンツィアータの聖母
3 ルバコンテ橋の恩寵の聖母
第2章 像の再活性化/無効化の力学
—— 中世末以降の聖像の死後生と修復
第1節 トスカーナ地方における奇跡像の修復 —— 聖母像を中心に
1 聖なる身体の重ね描きと置き換え —— 様式概念と礼拝価値
2 「芸術様式」の時代における聖像の修復
—— ネーリ・ディ・ビッチの『覚書』に見る修復的処理
第2節 アルプス地方における奇跡像の修復
——「聖クリストフォルス」と「主日のキリスト」を中心に
1 同一図像の重ね描き、反復/並置、アッサンブラージュ
2 図像の横滑り
第3節 像への冒瀆あるいは像の教育学
1 像への検閲と図像の変容 ——「主日のキリスト」を例に
2 教化としての冒瀆 —— イメージの教育学
第3章 痕跡と分身
—— ルネサンス肖像史再考
第1節 ルネサンスの肖像とマスク
1 《ニッコロ・ダ・ウッツァーノ》問題
2 ルネサンスにおける型取り肖像
第2節 イマーゴ ——「祖先の像」と「像による葬儀」
1 古代のイマギネス
2 ルネサンスにおけるイマギネスの残存
第3節 余剰性と反転性 —— 分身としての肖像
1 分身=コロッソスとしての肖像
—— デヴォトゥス/ホモ・サケル/主権の身体
2 過剰と反転 —— 像による神格化/像による懲罰
第4節 エクス・ヴォート —— 死と蘇生の物神
1 奉納像
2 展示のポリティクス
3 「分配される人格」 —— 崇敬と冒瀆のはざまで
4 犠牲と贖罪 —— 死と蘇生の物神
第4章 「肉の目」と「心の目」
——「心の祈禱」の実践と図像
第1節 寄進者の肖像 —— ロレンツォ・ロット作対幅画
1 作品の来歴と同定
2 《キリストの母への暇乞い》とエリザベッタ・ロータの肖像
3 《キリストの降誕》とドメニコ・タッシの肖像
第2節 「新しい敬虔」とイタリアにおける「心の祈禱」
1 北方における「新しい敬虔」と「心の祈禱」
2 イタリアにおける「新しい敬虔」と「心の祈禱」
3 イタリアにおける「心の祈禱」と図像
第3節 サクロ・モンテ ——「場の記憶」と「心の巡礼」
1 サクロ・モンテの起源をめぐる状況
2 サクロ・モンテ初期構想における「トポミメーシス」と「心の巡礼」
3 カイーミの『四旬節説教』にみる「秩序」と「場の記憶」
4 「場」の模倣から「奥義」の演出へ
第5章 予言と幻視
—— ルネサンスの終末論文化における図像の地位
第1節 「田園の聖母」の顕現 —— 幻視と集合的トラウマ
1 「田園の聖母」のシナリオ
2 幻視の伝達回路と図像イメージ
3 集合的トラウマと幻視 ——「執り成し」の図像とその変容
4 無効化される「田園の聖母」 —— カトリックと改革派のはざまで
第2節 「徴候」としての怪物
1 「予言的怪物」のルネサンス
2 解読される怪物たち —— イタリア戦争と予言文化
3 怪物の形態学
第3節 予言文化の終息とその残響
—— サン・マルコ大聖堂とフィオーレのヨアキム
1 サン・マルコ大聖堂のモザイク解釈をめぐる異端審問
2 モザイクをめぐるもうひとつの裁判
3 ヨハネ黙示録の図像の変遷とサン・マルコ大聖堂のモザイク
4 サン・マルコ大聖堂におけるフィオーレのヨアキムの予言の伝統
5 職人集団によるもうひとつの黙示録解釈
6 サン・マルコ大聖堂のモザイクにおけるヨアキム的予言の継承
終 章
あとがき
初出一覧
注
文献目録
図版一覧
人名索引
英文目次
受 賞
書 評
『芸術新潮』(2021年2月号、特集「ブックガイド2021 愛でたい読書」、評者:保坂健二朗氏)
『週刊読書人』(2011年11月25日号、評者:池上英洋氏)