内 容
国家に依存した自然保護の急速な展開は何をもたらしたのか ——。東南アジアをフィールドに、灌漑や森林、漁業資源をめぐって起こる思いがけない「人の支配」への転化や、開発と保護の連鎖する関係をあぶりだし、その解決策を現場の人々のしたたかな戦略や日本の経験に見出す。環境論の新たな地平を拓く著者の到達点。
【本書「まえがき」公開】
【ALL REVIEWS】『図書新聞』書評(2019年11月2日号、第3421号、喜多川進氏評)
目 次
まえがき
序 章 環境国家の到来
1 21世紀の「宣教師」
2 「反転する環境国家」とは何か
3 連鎖する反転
4 反転をくい止める力
第Ⅰ部 環境国家をどう見るか
第1章 「問題」のフレーミング
—— 環境国家の論理基盤
1 マレーシアの森を壊したのは誰か?
2 ヒマラヤの森林にひそむ不確実性
3 フレーミングの基本パターン —— 境界線の綱引き
4 フレーミングと環境国家
第2章 環境を介した人間の支配
—— 環境国家のメカニズム
1 環境国家による色づけ
2 国家による統治領域の拡張
3 「人間支配」のメカニズム
4 支配を媒介する自然環境
第3章 包摂と排除
—— 初期環境国家の形成過程
1 環境国家のはじまり
2 なぜ日本とシャムを較べるのか
3 日本における包摂的な集権化
4 シャムにおける排他的な集権化
5 シャムと日本の比較 —— 変わる国家・社会関係
6 包摂と排除を分けたもの
第Ⅱ部 環境国家とアジアの人々
第4章 維持への力
—— インドネシアの灌漑施設と地域社会
1 維持への強制が呼び込む「反転」
2 熱帯アジアの灌漑事業
3 国家権力の諸側面
4 国家関与の諸次元
5 地域に迎え入れられる権力
第5章 備える力
—— タイにおける共有地と自然災害
1 共有地という備え
2 タイの土地問題
3 津波被災と反転する災害支援
4 国家をかわす
5 先見的国家に備える
第6章 手放す力
—— カンボジアの漁業と利権放棄
1 動き回る資源の囲い込み
2 カンボジアにおける漁業と政治
3 政府はなぜ漁区を手放したのか
4 反転する「地域への権限委譲」
第Ⅲ部 反転をくい止める日本の知
第7章 文明の生態史観
—— 京都学派と「下からの」環境国家論
1 京都学派と「下からの」国家論
2 生態学的脱国家論
3 国家が嫌う人々、国家を嫌う人々 —— スコットのゾミア論
4 東西の脱国家論比較 —— スコットと京都学派の共鳴
5 環境国家論との関係
第8章 公害原論
—— 被害に寄りそう認識論
1 公害原論とは何だったのか
2 環境国家と特権化される知
3 忘却と暗黙知の回復
4 公害原論の教訓
第9章 資源論
—— 縦割りをこえた「総合」論
1 「何もしない」という反転
2 アッカーマンの挑戦
3 縦割りへの挑戦 —— 資源委員会
4 現代環境国家への教訓
終 章 反転をほどく
1 再びラオスの村を考える
2 問題をつくらないために
3 環境ガバナンス論の限界
4 「良い依存関係」へ
5 想定される反論
6 手段と目的をつなぐ依存構造の解明
注
あとがき
参考文献
図表一覧
索 引
書 評
『東南アジア研究』(第61巻第1号、2023年7月、評者:柳澤雅之氏)
『アジア研究』(第66巻第4号、2020年10月、評者:森下明子氏)
『アジア・アフリカ地域研究』(2020年 第20-1号、評者:生方史数氏)
『アジア経済』(第61巻第3号、2020年9月、評者:金沢謙太郎氏)
毎日新聞(2019年12月15日付、読書欄特集「2019 この3冊」、評者:松原隆一郎氏)
『国際開発研究』(第28巻第2号、2019年11月、評者:森晶寿氏)
『図書新聞』(2019年11月2日号、第3421号、評者:喜多川進氏)
関連書
『20世紀環境史』 J.R.マクニール 著/海津正倫・溝口常俊 監訳
『世界史のなかの東南アジア』 アンソニー・リード 著/太田 淳・長田紀之 監訳