内 容
19世紀に相次いで産声を上げた、公衆保健と実験医学。イギリスでは、前者は数々の施策を経て国家医学から帝国医学へと至り、後者は感染症の病因探求の中で進化論を組み込みながら独自の展開を遂げた。本書はそれらの全体像と相互の関係を初めて示し、社会と医学の関係を問い直す。
目 次
序 章
1 問題の所在と本書の視座
2 国家医学から帝国医学へ —— 19世紀の保健・衛生政策の概観
第Ⅰ部 テムズ河
—— ロンドンの衛生改善
第1章 変容するロンドンの暮らし
—— 病原菌説前夜の混沌
1 人口の急増と食糧問題・衛生問題
2 農芸化学の誕生と肥料の大量輸入
3 チャドウィックとファー
4 テムズ河の汚染 —— ハサルからフランクランドへ
5 リービヒの発酵および伝染病理論
第2章 屎尿の利用と衛生施策
1 衛生政策に着手する
2 首都下水道委員会
3 ヴィクトリア時代を代表する大工事
4 資産としての屎尿
5 リービヒを担ぎ出したシティ
6 感謝状とその後
7 屎尿灌漑と病原毒素
第Ⅱ部 漂う微生物の本性を追う
第3章 コンタギオンからジャームへ
1 産褥熱から病院熱へ
2 ボーダレス時代
3 リスターの化膿防止法と発酵研究
第4章 病原菌理論の時代
1 バードン-サンダーソンと生体解剖反対運動
2 進化論と病原菌
第5章 ロンドン国際医学大会
1 世界の名士が一堂に
2 微生物学の全面展開
3 真に国際的な会議
4 公衆衛生から国家医学へ
5 ロンドン国際医学大会の意義
第Ⅲ部 スエズ運河
—— 帝国時代の医学
第6章 コレラとスエズ運河
1 1883年のエジプトにおけるコレラ流行の注目点
2 「コレラとコンマ菌に関するコッホの理論を論駁する」
3 スエズ運河をめぐる情勢
4 エジプトにおけるコレラの流行
5 フランスおよびドイツのコレラ調査団
6 ドイツとフランスの動静
第7章 病原菌と帝国
1 イギリスの反撃準備
2 クラインとギビースのコレラ調査
3 報告書の提出とローマ国際衛生会議
4 報告書検討委員会メモ
5 「論駁」の国内評価
6 医学は帝国の道具なり
終 章
1 団結して闘う医師たち —— 細菌学研究所を民間で
2 本書を振り返って
あとがき
注
参考文献
図表一覧
索 引
受 賞
書 評
『史学雑誌』(第126編第8号、2017年8月、評者:高林陽展氏)
『歴史学研究』(第956号、2017年4月、評者:永島剛氏)
『化学史研究』(第44巻第1号、2017年、評者:大野誠氏)
『ヴィクトリア朝文化研究』(第14号、2016年11月、評者:鈴木晃仁氏)
『週刊読書人』(第3170号、2016年12月23日、評者:横山輝雄氏)
『科学史研究』(第55巻279号、2016年10月、評者:矢島道子氏)
『週刊読書人』(第3142号、2016年6月3日付、評者:福田眞人氏)
関連書
『リヴァイアサンと空気ポンプ』 S.シェイピン・S.シャッファー 著/吉本秀之 監訳/柴田和宏・坂本邦暢 訳
『客観性』 ロレイン・ダストン,ピーター・ギャリソン 著/瀬戸口明久・岡澤康浩・坂本邦暢・有賀暢迪 訳