内 容
「音」は映画的ではない?—— 声にためらい、音楽を軽視したとも言われる小津安二郎だが、トーキー以後の作品には、巧みに音が配されている。音楽にとどまらない「音」と映像の連関を丹念に読み解くことで、そこに生み出された驚くべき効果を明らかにし、小津論・映画論の新地平を拓く。
目 次
凡 例
序 章
1 遅れ
2 サイレントの「勉強」
3 小津映画論
4 小津映画研究のこれまで
5 これまでの映画音響研究と本書のスタンス
6 本書の構成
第Ⅰ部 物 音
第1章 引戸の音
——『東京物語』(1953)における例外的な音と物語との連関
1 引戸の音の違い
2 来訪シーン —— 迎えられない者
3 外出シーン —— 送られない者
4 土手のシーン —— とみの死
5 規範と例外
第2章 屁の音
——『お早よう』(1959)の変容する屁の音
1 オナラ遊び
2 「余計なこと」
3 屁の音から言葉へ、そして音楽へ
4 「余計なこと」の肯定
5 小津映画内規範
第Ⅱ部 言 葉
第3章 大阪弁
——『淑女は何を忘れたか』(1937)における方言の使用とその擬似性
1 感染する大阪弁
2 「擬似的な方言」
3 節子のギャング化
4 「真にトーキーを受け入れたことを示す作品」
第4章 画面外の声
——『お茶漬の味』(1952)にみる不可視の話し手の力
1 小津のトーキー論
2 CP の前倒し修正
3 画面外の声
4 CP の修正という編集
第Ⅲ部 音 楽
第5章 オルゴール音楽
——『麦秋』(1951)における〈我が家〉のライトモチーフ
1 物語世界内の音の規範
2 オルゴール音楽
3 平行法の音楽
4 重厚な音色
第6章 ピアノ音楽
——『秋日和』(1960)における「場ふさぎの音楽」
1 画面外の音としてのピアノ音楽
2 服飾学院のシーン
3 茶の間のシーン
4 完全性のもとに繰り返されるピアノ音楽
第Ⅳ部 テンポ・間・リズム
第7章 テンポと間
—— 小津映画の〈遅さ〉について
1 絵画的画面 ——『早春』評
2 繰り返し ——『東京暮色』評
3 「ひどく退くつな「間」」——『東京暮色』の夜の杉山家のシークェンス
4 夫婦の修羅場 ——『お茶漬の味』と『早春』における妻の苛立ちと怒り
5 テンポと間
第8章 映像とリズム
—— 小津映画における〈無人のショット〉
1 画面外の間欠的な物音
2 出来事を予告する物音
3 時と場所を伝える物音
4 規範を形成しない特別な音
5 トーキー化された〈無人のショット〉
終 章
1 規範と例外
2 小津映画の音
3 木魚の音 —— 結びに代えて
註
あとがき
参考文献
図表一覧
索 引
関連書
『アニメ・エコロジー』 トーマス・ラマール 著/上野俊哉 監訳/大﨑晴美 訳