内 容
守護聖人、疫病除け聖人から、聖女や子ども聖人まで —— なぜ一神教のもとで多数の聖人が求められたのか。殉教者崇敬に端を発し、聖地巡礼や「列聖」制度、宣教の進展とともに花開いた聖人崇敬の歴史を、正教会や東方諸教会、アジア・アメリカ・アフリカを含む世界的拡がりの中で初めて一望、その複雑多岐な役割を浮き彫りにする。
目 次
総 説 聖人崇敬の歴史 …………………… 池上俊一
はじめに
1 聖性とは何か
2 聖人の類型と崇敬の展開
3 聖人崇敬発展のためのメディア
4 奇跡待望と民俗文化
5 必須要素としての移動
おわりに —— 本書の狙い・構成
第一部 起源と展開
A ヨーロッパ
第1章 古代~フランク王国 …………………… 多田 哲
はじめに
1 崇敬の形態
2 ハギオグラフィー
3 聖人の類型
おわりに
第2章 盛期中世~後期中世 …………………… 後藤里菜
はじめに
1 神による聖性の秩序 —— 12世紀前半まで
2 巡礼の最盛期、盛期中世
3 霊性と聖性の狭間で —— 12、13世紀
4 後期中世の聖人崇敬に変化はみられるのか
おわりに
第3章 近世・近代 …………………… 坂野正則
はじめに
1 宗派分裂と聖人崇敬
2 社会的紐帯としての聖人崇敬
3 「聖人」と近代社会
おわりに
第4章 ビザンツ …………………… 草生久嗣
はじめに
1 聖人崇敬の仕組み
2 史料としての聖人伝
3 ビザンツ的聖人崇敬の諸相
おわりに
第5章 ロシア・東欧 …………………… 高橋沙奈美
はじめに
1 ロシアにおける聖人崇敬の研究史
2 ロシアにおける列聖の時代区分とその歴史的背景
3 聖人崇敬の物質性 —— 不朽体の重視
4 近代以降のロシア芸術の中の聖人表象
おわりに
B アメリカ
第6章 中南米 …………………… 八木百合子
はじめに
1 大航海時代の航海者と聖人崇敬
2 植民地時代初期における聖人崇敬の受容
3 中南米の聖人として
4 現代の民衆の生活に息づく聖人たち
おわりに
第7章 アメリカ合衆国 …………………… 小檜山ルイ
はじめに
1 反カトリックの伝統
2 聖パトリックの日
3 アメリカ発の聖人
4 聖カブリーニに見るアメリカの聖人の現在
おわりに
C アジア・アフリカ
第8章 日本 …………………… 川村信三
はじめに
1 日本への聖人伝承の「形」
2 日本における聖人崇敬の特徴
3 キリシタン民衆の聖人崇敬の「場」
おわりに
第9章 フィリピン …………………… 古沢ゆりあ
はじめに
1 フィリピンの歴史とキリスト教
2 フィリピンの聖人崇敬 —— 植民地時代から現代まで
3 フィリピン出身の聖人たち
—— 聖ロレンソ・ルイスと聖ペドロ・カルンソッド
4 マニラの高山右近 —— 追放者から友好のシンボルへ
おわりに
第10章 アフリカ …………………… 飛内悠子
はじめに
1 北アフリカ
2 サハラ以南アフリカ
おわりに
第二部 多様な役割
第1章 聖人崇敬の神学 …………………… 山内志朗
はじめに
1 聖人崇敬の枠組み
2 仲介者としての聖人の力
3 聖人崇敬の神学
4 聖人と福者
おわりに
第2章 聖遺物の奉遷・窃盗 …………………… 北舘佳史
はじめに
1 古代末期と初期中世の奉遷
2 カロリング朝の改革と聖なる盗み
3 奉遷の史料と典礼による記念
4 十字軍と東方からの聖遺物奉遷
おわりに
第3章 聖人名と聖人暦 …………………… 梶原洋一
はじめに
1 聖人名使用の定着
2 あの聖人名か、この聖人名か
3 規範化する聖人名
4 聖人の祝日 —— ツールとしての聖人?
おわりに
第4章 「荒れ野」に向かう修道士たち …………………… 杉崎泰一郎
はじめに
1 ラ・グランド・シャルトルーズ修道院の「荒れ野」
2 クレルヴォーのベルナルドゥスと「荒れ野」
3 クリュニー修道院長ペトルスと「荒れ野」
4 教区聖職者がみた「荒れ野」
—— ウォルター・マップの『宮廷人の閑話』
おわりに
第5章 子どもと聖人 …………………… 池上俊一
はじめに
1 聖ニコラウス崇敬の広がり
2 子どもの守護聖人たち
3 「聖なる猟犬」(聖ギヌフォール)
4 聖嬰児と子ども聖人
5 聖人の子ども時代
6 親愛なる子どもへの聖性の伝達
おわりに
第6章 乙女、妻、そして寡婦 …………………… 三浦麻美
—— 聖女伝におけるモデルの拡がり
はじめに
1 聖女伝への数量的アプローチ
2 11世紀の聖女伝
3 13世紀の聖女伝
おわりに
第7章 天使にして聖人 …………………… 千葉敏之
—— 大天使ミカエル崇敬
はじめに
1 大天使にして聖人
2 三度の顕現と崇敬圏の形成
3 戦士型聖人とランゴバルド王家
4 ガリアでの崇敬と紀元千年の教会改革運動
おわりに
第8章 列聖手続きと教皇の関与 …………………… 藤崎 衛
はじめに
1 教皇による最初の列聖
2 11世紀から12世紀半ばまでの列聖 —— 教会改革の時代
3 12世紀半ば以降の列聖
4 いわゆる「教皇権の絶頂期」における列聖
5 13世紀における列聖 —— 法制化と実践
おわりに
第9章 国家を護る聖人 …………………… 唐澤達之
—— 中世イングランドにおける聖ジョージ崇敬
はじめに
1 13世紀以前のイングランドにおける聖人崇敬と国家形成
2 聖ジョージと王権
3 聖ジョージ・都市・兄弟会
おわりに —— 近世にむけて
第10章 都市と聖人崇敬 …………………… 河原温
—— 中世ブルッヘの場合
はじめに
1 都市と守護聖人
2 ブルッヘの〈聖血〉崇敬とプロセッション
3 聖母マリア崇敬と兄弟会
おわりに
第11章 地方的聖人崇敬 …………………… 小坂井理加
—— ブルターニュの場合
はじめに
1 教会・修道院による聖人伝の作成
2 ブルターニュ公国における聖人崇敬の政治的機能
3 ブルターニュの聖人崇敬と民俗行事
おわりに
第12章 疫病除け聖人の「執り成し」…………………… 石坂尚武
—— セバスティアヌスを中心に
はじめに
1 疫病除け聖人の成立 —— 背景としての苦難
2 セバスティアヌス伝説の成立
3 キリスト教における病気への高い関心
4 神罰としてのペストと聖人の執り成し
5 都市の絵画制作に見る疫病除け聖人の執り成し
おわりに
第13章 聖人崇敬と奉納文化 …………………… 水野千依
はじめに
1 救済の経済学 —— 行為主体としての奉納物
2 奉納物の人格化とその論理
3 エゴ・ドキュメントから集合的記憶へ
おわりに
第14章 多様なるフランシスコ …………………… 神崎忠昭
はじめに
1 小さき者
2 第二のキリスト
3 比類なき人間
4 近代社会とのインターフェイス
5 教皇
おわりに
第15章 顕現する聖母マリア …………………… 宮下規久朗
はじめに
1 聖母とイコン
2 幻視と顕現
3 近代の聖母顕現
4 聖母崇敬とイメージ
おわりに
あとがき
図版一覧
索 引
執筆者一覧