内 容
中国、インド、北方ユーラシア、アフリカなど、イスラーム世界の海・陸の「境域」情報を伝える『大旅行記』は、まさに記録史料の宝庫と呼ぶにふさわしい。なぜ巡礼を超えて未知なる驚異の領域へと踏み込んでいったのか。その足跡と写本を追って世界を旅し、完訳を成し遂げた碩学による新たな到達点。
目 次
凡 例
地 図
はじめに
第Ⅰ部 イブン・バットゥータ研究のために
概 観
第1章 イブン・バットゥータの生涯とその時代
はじめに
1 家系・家族・生い立ち
2 イスラーム世界の境域をめぐる旅
3 旅の目的
4 『大旅行記』成立の事情
5 編纂者のイブン・ジュザイイについて
6 晩年のイブン・バットゥータ
第2章 『大旅行記』の構成と諸写本
はじめに
1 構 成
2 現存する『大旅行記』の諸写本の分類
3 『大旅行記』の諸写本
結びに代えて
第3章 『大旅行記』の研究と真偽性
1 『大旅行記』の研究
2 史書に現れた『大旅行記』とその評価
3 現代の研究者による『大旅行記』の真偽性をめぐる議論
結びに代えて
第4章 紀行文学としてのメッカ巡礼記
はじめに
1 イブン・ジュバイルとイブン・バットゥータの旅
2 マグリブ地方におけるリフラの意味
3 リフラの時代区分
結びに代えて
第Ⅱ部 海の境域への旅
—— イブン・バットゥータの見たインド洋海域世界
概 観
第1章 インド洋海域世界の隆盛と中国船
はじめに
1 ジュンクとザウの語源
2 イブン・バットゥータの中国旅行
第2章 マラッカ海峡の港市国家スムトラ・パサイ王国
はじめに
1 スムトラ・パサイ王国の外港サルハー
2 スムトラ・パサイ王国のイスラーム化
3 マリク・ザーヒルの統治とチェールマン・ペルマール伝承
第3章 イブン・バットゥータのマルディヴ諸島訪問
はじめに
1 マルディヴ諸島の地理的知識
2 イスラーム改宗をめぐる問題
3 女王ハディージャと王位継承問題
第4章 東アフリカ・スワヒリ世界の形成とクルワー王国
はじめに
1 東アフリカ海岸に沿ってクルワー王国への船旅
2 文献史料に現れたサワーヒルとスワヒリ
3 クルワー王国の隆盛とスファーラ金
4 クルワーのスルタンたちによる王権の確立
第5章 アラビア海を結ぶ人の移動と交流
はじめに
1 クルワー王国のスルタンたちのメッカ巡礼
2 ラスール朝のスルタン=マスウードによる二度のキルワ亡命
3 『キルワ年代記』とラスール朝記録史料との比較
結びに代えて
第Ⅲ部 陸の境域への旅
—— ユーラシアとサハラ・スーダーン
概 観
第1章 アナトリア世界のトルコ・イスラーム化
はじめに
1 トゥルキーヤの名称
2 ビザンツ帝国の境域地帯に成立したテュルク系諸侯国
3 アナトリア・アヒーについて
第2章 境域としてのドナウ・デルタとバーバー・サルトゥーク伝承
はじめに
1 境域で活動するスーフィー聖者たち
2 サルトゥークの街、ババ・ダグ
第3章 ブルガール旅行はフィクションか
はじめに
1 キプチャク・ハーン国の北辺の町ブルガール
2 S・ヤニセクの主張によるブルガール情報への疑問
3 〈常闇の地〉に関するアブー・ハーミドの記録との比較
第4章 中央アジアとインドを結ぶヒンドゥー・クシュ越え交通ルート
はじめに
1 ヒンドゥー・クシュを越えてインダス河畔へ達するルート
2 〈アズィーズ〉と呼ばれる移住者たち
3 トゥグルク朝スルタンの権威とアッバース朝カリフの神権性
第5章 サハラ砂漠を越えてのイスラーム・ネットワーク拡大
はじめに
1 スーダーン旅行の動機・目的は何か
2 サハラ越えの長距離キャラバン・ルート
3 マーッリー・タクルール王国の王都はどこか
おわりに
あとがき
註
参考文献
図表一覧
索 引
受 賞
書 評
『史学雑誌』(第128編第1号、2019年1月、評者:大矢純氏)
『歴史と地理』(第711号、2018年2月、評者:山川志保氏)
著者の既刊書
関連書
『マルコ・ポーロ/ルスティケッロ・ダ・ピーサ 世界の記』 高田英樹 訳
『カーシャーニー オルジェイトゥ史』 大塚 修・赤坂恒明・髙木小苗・水上 遼・渡部良子 訳註
『接続された歴史』 S. スブラフマニヤム 著/三田昌彦・太田信宏 訳