内 容
歴史を彩る「世界の華」——。古来のガラス文化を統合して成立し、近代芸術にも大きな影響を与えたイスラーム・ガラス。その器形や成形・装飾技法から、美術工芸としての展開、さらには日本をはじめ世界各地への伝播まで、多数のカラー図版とともに豊かな物質文化の全体像を映し出す。
目 次
凡 例
はじめに
序 章 イスラーム・ガラスへのアプローチ
はじめに —— ガラスの製造、流通、使用
1 イスラーム・ガラス研究史
2 イスラーム・ガラスの器形と機能
3 ガラスという素材をつくる
4 ガラスを使って製品をつくる(1)—— 成形技法
5 ガラスを使って製品をつくる(2)—— 装飾技法
第Ⅰ部 イスラーム・ガラスの歴史的展開
—— エジプトを中心に
第1章 最初期のイスラーム・ガラス
—— 7~8世紀
1 後期ローマ・ガラスと最初期イスラーム・ガラス
2 フスタート遺跡出土のグリーン・ガラスをめぐって
3 ヴェセル・スタンプに見るガラスの公的利用とローカル製造
4 ラスター・ステイン装飾ガラスの出現
5 まとめ
第2章 イスラーム・ガラスへの展開
—— 9~10世紀
1 エジプトの社会変化とガラス器
2 フスタート遺跡出土ガラス —— ピット16出土品を中心に
3 ラーヤ遺跡出土の型装飾ガラスと器具装飾ガラス
4 ラーヤ遺跡出土の刻線装飾ガラス
5 ラーヤ遺跡出土のラスター・ステイン装飾ガラス
6 まとめ
第3章 地中海世界の中でのエジプトとガラス器
—— 11~12世紀
1 ファーティマ朝によるエジプト征服と物質文化の変容
2 カット装飾技法の諸相
3 カット装飾瓶と杯
4 ゲニザ文書に見るガラス
5 まとめ
第4章 イスラーム・ガラスの二元化
—— 13~14世紀
1 アイユーブ朝とマムルーク朝における中流階級の勃興と物質文化
2 ガラス装飾と色彩
3 フスタート遺跡出土品に見られるエナメル彩・金彩装飾ガラス
4 色彩豊かなガラス製腕輪
5 まとめ
第5章 フスタート以後のエジプトのガラス
—— 15世紀以降
1 チェルケス・マムルーク朝およびオスマン朝のエジプト
2 「ヒスバの書」に見られるガラス器の普及
3 オスマン朝治下のランプ
4 ナポレオンの『エジプト誌』とガラス器
5 まとめにかえて
第Ⅱ部 イスラーム・ガラスの地域的広がり
第6章 イスラーム勃興期のアラビア半島
1 イスラーム以前のアラビア半島と預言者の時代のガラス
2 アラブの拡大とアラビア半島の港湾都市
3 聖なる器、日常の器、交易品
第7章 シリア・パレスティナ地域
1 シリア・パレスティナ地域の歴史的背景
2 第一次ガラス製造関連遺構の発掘
3 シリア・パレスティナ地域出土の初期イスラーム・ガラス
4 異民族侵入期のシリア・パレスティナ地域のガラス器
5 シナイ半島
第8章 イラクとイラン
—— 旧サーサーン朝ペルシャ文化圏
1 イラクとイランの歴史的背景
2 イラク出土のイスラーム・ガラス
3 サーマッラー遺跡出土ガラス
4 イラン出土のイスラーム・ガラス
5 ニーシャープール出土ガラス
第9章 マグリブ、アンダルス
1 マグリブの歴史的背景
2 イフリーキヤ地域のガラス
3 イベリア半島の歴史的背景
4 コルドバのメスキータのモザイク・ガラス
5 マディーナト・ザフラー遺跡出土ガラス
6 アンダルス地域のガラス製造
7 アンダルスの落日とハンマームの光
第10章 中央アジアとトルコ
1 西域・中央アジアの歴史的背景
2 中央アジアのイスラーム・ガラス
3 パイケンド遺跡出土ガラス
4 アナトリア半島の歴史的背景
5 アナトリア半島出土のガラス器
第11章 イスラーム・ガラスの東西交易
1 イスラーム・ガラスの東西交易
2 ヨーロッパ
3 東アフリカ沿岸部およびサハラ地域
4 インド洋から東南アジア
5 中国と日本
おわりに
第Ⅲ部 ガラスから見たイスラームと社会
第12章 医薬・化粧とガラス器
1 クフル顔料とは
2 イスラーム期以前のガラス製クフル容器
3 イスラーム期の逆洋梨形クフル瓶
4 カット装飾クフル小瓶
5 逆洋梨型器形とカット装飾技法の融合に見る文化融合
第13章 香水とガラス器
1 薔薇水とガラス器
2 薔薇水と蒸留技術
3 薔薇水の利用法とガラス器
4 濃青丸底瓶の広がり
5 クムクム瓶の登場
6 香水とガラス器
第14章 ガラス装飾意匠に見るイスラームと異文化
1 マムルーク朝時代のエナメル彩・金彩装飾ガラス
2 エナメル彩・金彩装飾ガラスに見られるイスラーム教徒
3 エナメル彩・金彩装飾ガラスに見られるキリスト教の要素
4 動物、鳥、魚などの具象文
5 モスクを照らすランプ
終 章 時代と地域を超えるイスラーム・ガラス
参考文献
監修者あとがき
図表一覧
索 引
英文要旨
書 評
『オリエント』(2021年第64巻第1号、評者:鎌田由美子氏)
『史学雑誌』(2021年6月号、第130編第6号、評者:神田惟氏)