内 容
大王が征服した広大な地域に流布した伝承を、宗教・政治・歴史の分野にわたって、アラブ・ペルシアの多様なテクストにたどり、語りや図像の担い手たちが求めた「真実」に迫る。アレクサンドロスが内包する本質と、古代世界の遺産を受けいれ再解釈していくムスリムの精神史をみごとに浮かび上がらせた力作。
目 次
凡 例
序 章 歴史と虚構の狭間のアレクサンドロス
Ⅰ アレクサンドロスに関する知識の源
—— 古代世界からイスラーム世界へ
第1章 偽カッリステネスのアレクサンドロス物語
1 物語の生成
2 東方への伝播
3 物語の概要
第2章 ギリシア・ローマ古典史料におけるアリストテレスとアレクサンドロス
1 天才と天才の出会い
2 アリストテレスに宛てたインドの不可思議についての書簡
3 アレクサンドロスへの忠言の手紙
第3章 イスラーム以前のイランにおけるアレクサンドロス
1 ペルセポリス焼尽
2 大王の記憶
3 ササン朝ゾロアスター教文献におけるアレクサンドロス
Ⅱ 預言者アレクサンドロス
第1章 「二本角のアレクサンドロス」
1 『クルアーン』第18章「洞窟」82-97節
2 「二本角」の正体
3 アレクサンドロスにまつわるシリア語キリスト教伝説
4 一神教とアレクサンドロス
第2章 イスラーム世界におけるアレクサンドロスの神聖化
1 タバリーの『タフスィール』
2 預言者伝集
3 ディーナワリーの『長史』
4 ニザーミーのアレクサンドロス物語
Ⅲ 哲人王アレクサンドロス
第1章 「君主の鑑」文学におけるアレクサンドロス
1 「君主の鑑」とは
2 アダブ文学と先行文明の影響
3 サーリム・アブ・ル=アラーの「アレクサンドロスに宛てたアリストテレスの
書簡集」
4 『秘中の秘』
第2章 アダブからヒクマへ
1 アリストテレスの忠言
2 アレクサンドロスの金言
3 「インドの裸行者」との問答
4 アレクサンドロスの最期
Ⅳ 歴史叙述の中のアレクサンドロス
第1章 初期のアラブ歴史学
—— ハディースの時代
1 歴史としてのイスラーイーリーヤート —— ワフブ・ブン・ムナッビフ
2 スィーラの歴史観 —— イブン・イスハーク
3 イブン・ヒシャームの『王冠の書』
4 征服史とアレクサンドロス —— イブン・アブド・アル=ハカム
第2章 非アラブの貢献
—— ペルシア、ビザンツの遺産
1 『列王伝』の翻訳 —— イブン・アル=ムカッファア
2 ビザンツ、キリスト教史学の影響
第3章 万国史の登場
—— ハディースからの解放
1 事典的歴史 —— イブン・ハビーブとイブン・クタイバ
2 物語的歴史 —— ディーナワリー
3 博識と原典批評 —— ヤァクービー
4 ハディースへのこだわり —— タバリー
5 時代の知の集成 —— マスウーディー
第4章 権力の地方分散と歴史
—— 東方イスラーム世界を中心に
1 ブワイフ朝下の歴史家
2 サーマーン朝下における近世ペルシア語の台頭
3 ガズナ朝スルタンたちの「アレクサンドロス模倣」
4 セルジューク朝期の歴史書
5 歴史の指標としてのアレクサンドロス
終 章 超越と限界を体現する男
あとがき
註
原典資料
参考文献
付録「偽カッリステネスのアレクサンドロス物語」諸系統
図版出典一覧
索 引
受 賞
書 評
毎日新聞(2009年12月20日付、「2009年『この3冊』」)