内 容
「西/東」を超えて ——。最古・最大の「西洋古典」とされるホメロス。だが、創造と受容のいずれも西洋の枠組みには収まっていなかった。実際に西方に伝わったものとその行方を明確にする一方、オリエントの神話・宗教からビザンツの年代記やオスマンの歴史書まで探査し、巨大な実像を初めて捉えた画期的労作。
目 次
まえがき
凡 例
序 章 ホメロスは西洋の古典か
—— 古代から現代までの受容をめぐって
はじめに
1 古代・中世のギリシア世界とホメロス
2 古代・中世の西欧世界とホメロス
3 近・現代の西欧世界とホメロス
むすび
第Ⅰ部 ホメロス詩の知られざる源泉
—— オリエントと民話
第1章 オリエント神話とホメロス
——洪水伝承をめぐって
はじめに
1 『ギルガメシュ叙事詩』と洪水伝承
2 ホメロスの叙事詩と洪水伝承
3 ウェルギリウスの叙事詩と洪水伝承
第2章 オリエント宗教とホメロス
—— 運命の秤をめぐって
はじめに ——『イリアス』における2つの運命の計量
1 秤の場面の謎
2 古代オリエント宗教、ユダヤ教、イスラム教における運命の秤
むすび —— ホメロスにもどって
第3章 民話から叙事詩へ
—— 英雄の選択をめぐって
はじめに
1 英雄の選択
2 メレアグロスの物語
3 ポイニクスの自伝的物語
4 アキレウスの選択
むすび
第Ⅱ部 ホメロス詩のヴィジョン
第4章 ホメロスの時代と叙事詩のヴィジョン
——『イリアス』をめぐって
はじめに —— ホメロスと歴史
1 ホメロスの時代と叙事詩
2 『イリアス』の社会的ヴィジョン
むすび
第5章 帰国物語の社会的ヴィジョン
——『オデュッセイア』をめぐって
はじめに —— ポリスとオイコス
1 オイコスの危機
2 求婚者たちの目的
3 求婚の第一段階 —— テレマコスの成人以前
4 求婚の第二段階 —— テレマコス暗殺の計画
5 バシレウスの地位
6 求婚の第三段階 —— 弓競技の意味
7 求婚者殺戮 —— 三段階の英雄再認
むすび —— オイコスとポリスの関係
第6章 『オデュッセイア』における戦争と平和
—— 叙事詩の結末部をめぐって
はじめに ——『オデュッセイア』は平和への転換を語る作品か?
1 デモドコスの歌における戦争と平和
2 『イリアス』における平和と戦争
3 『オデュッセイア』における求婚者との争い
4 結末における不完全な仲裁(第二十四歌)
5 戦争の抑止と戦闘的英雄への回帰
第Ⅲ部 ホメロス詩のテクスト形成
第7章 ホメロスと文字使用
はじめに
1 口誦詩としてのホメロスの詩と文字使用
2 文献としてのホメロス詩の起源
むすび
第8章 ホメロスと口誦伝統
はじめに
1 口誦詩とは何か
2 口頭詩作と文字使用
3 ホメロス詩の文字化とその影響
第9章 ホメロス詩のカノン選定
はじめに —— 西洋古典とカノン
1 ギリシア古典のカノンの成立 —— ヘレニズム時代における認定
2 悲劇詩人のカノン
3 叙事詩人のカノン
4 叙事詩人のカノン形成 —— 問題点
5 前6世紀のアテナイとホメロス詩の選定
6 伝記から見たホメロス詩の選定
むすび —— ホメロスとヘシオドスの歌競べの意味
第Ⅳ部 ホメロスの変容と溶暗
第10章 ホメロスからウェルギリウスへ
—— 自由の転換
はじめに
1 神話におけるギリシア人の自由
2 ローマ人の自由
第11章 『イリアス』と『アエネイス』における英雄と死
—— 運命をめぐって
はじめに
1 『イリアス』における英雄と死の恐怖
2 『アエネイス』における英雄の死
3 『イリアス』における死の恐怖の意味
4 『アエネイス』における死の恐怖と運命
第12章 『アエネイス』の結末と戦争の罪責
はじめに ——『平家物語』における勝者の「ゆるし」への渇望
1 『アエネイス』における英雄の罪責意識 —— ディードの死をめぐって
2 戦争における罪責意識 —— イタリアでの戦い
3 叙事詩の結末における罪責とゆるし
第13章 ダンテにおけるウェルギリウス
—— 中世におけるホメロスの溶暗
はじめに —— ホメロス、ウェルギリウス、ダンテ
1 『神曲』におけるダンテとウェルギリウス
2 『神曲』におけるウェルギリウスの限界
3 リンボのウェルギリウスと『神曲』の意図
第14章 ビザンツ文化におけるホメロスとトロイア戦争
—— スラヴとオスマンにいたるその影響
はじめに
1 古代末期と西欧中世における疑似トロイア戦記文学
2 ビザンツの世界史年代記におけるトロイア戦争
3 スラヴ世界とオスマン帝国での伝承変容
むすび
終 章 ホメロスの逆襲
はじめに —— 本章までの要旨
1 ホメロスの復権
2 アキレウスの盾
あとがき
注
参考文献
略号表
図版一覧
索 引
書 評
『ペディラヴィウム』(第77号、2022年12月、評者:川島重成氏)
『週刊読書人』(2022年4月15日号、第3436号、評者:河島思朗氏)
関連書
『古代ギリシアの宗教』 ロバート・パーカー 著/栗原麻子 監訳/竹内一博・佐藤 昇・齋藤貴弘 訳
『モムゼン ローマの歴史』(全4巻) テオドール・モムゼン 著/長谷川博隆 訳