内 容
これを知らずして書物を語るなかれ——。近代以前、東アジアの木版本と並んで世界の書物文化の二大山脈を形づくったのはイスラーム世界の写本であった。聖典クルアーンから歴史書や科学書まで、また華麗な書や絵画から装丁まで、広大な地域の知と文芸を支えた書物の歴史を、デジタル時代の現在からふりかえる待望の書。
執筆者一覧
(執筆順)
小杉 泰 (はじめに、第Ⅰ部第1章、第Ⅲ部第6章)
清水和裕 (第Ⅰ部第2章・第5章)
竹田敏之 (第Ⅰ部第3章、第Ⅱ部第2章)
小杉麻李亜 (第Ⅰ部第4章、第Ⅲ部第5章)
東長 靖 (第Ⅰ部第6章、第Ⅱ部第6章)
後藤裕加子 (第Ⅱ部第1章・第7章)
ヤマンラール水野美奈子 (第Ⅱ部第3章)
山本啓二 (第Ⅱ部第4章)
中町信孝 (第Ⅱ部第5章)
小笠原弘幸 (第Ⅱ部第8章)
林 佳世子 (第Ⅱ部第9章、第Ⅲ部第4章)
真下裕之 (第Ⅱ部第10章)
三浦 徹 (第Ⅲ部第1章)
大稔哲也 (第Ⅲ部第2章)
永田雄三 (第Ⅲ部第3章)
目 次
はじめに 光は東方から
—— 文字と書物の水脈
第Ⅰ部 イスラーム文明と書物文化の隆盛
第1章 イスラームの誕生と聖典クルアーン
1 アラビア半島の地勢と口承文化
2 グローバルな文明史の中のイスラーム
3 仕組みとしての「啓示」と「啓典」
4 書物としてのクルアーンの結集
おわりに —— 書物文化の伏流
第2章 製紙法の伝播とバグダード紙市場の繁栄
1 製紙法の伝播
2 行政文書における紙の導入
3 ワッラークとその社会
第3章 アラビア語正書法の成立
はじめに
1 母音記号考案の経緯
2 アッバース朝期における正書法の展開
3 正書法の成立とラスム論の展開
おわりに
第4章 写本クルアーンの世界
はじめに
1 ウスマーン版の成立と初期写本
2 「神の言葉」を記す技術と二大書体
3 共有される威信としての書物
4 2つの「ウスマーン本」と信仰共同体にとっての写本クルアーン
おわりに
第5章 イブン・ナディームの『目録』
1 10世紀バグダードの書籍文化
2 『目録』とその構成
3 『目録』にみる歴史情報
第6章 アラビア文字文化圏の広がりと写本文化
1 広大なアラビア文字文化圏
2 アラビア文字文化圏の写本文化
第Ⅱ部 華麗なる写本の世界
第1章 書物の形と制作技術
はじめに
1 書物の形と製本の工程
2 装丁の意匠と書物の体裁
3 写本の制作工房としてのマドラサと書物の普及
—— イル・ハン朝時代
4 ティムール朝の王宮図書館の工房と芸術家たち
5 ティムール朝時代以後の写本制作と芸術家たち
おわりに
第2章 アラビア書道の流派と書家たち
はじめに
1 アッバース朝における書道と巨匠たち
2 書道流派の拡大とその諸相
3 オスマン朝時代における書道芸術の隆盛
第3章 書物挿絵の美術
はじめに
1 見落とされたイスラーム美術の特色
2 書物の挿絵1 —— タズヒーブ=文様絵画
3 書物の挿絵2 —— 物語絵(具象絵画)
おわりに
第4章 イスラーム科学の写本
はじめに
1 科学写本の特徴と広がり
2 ギリシア語からアラビア語に翻訳された科学文献
3 アラビア語で書かれた科学文献
4 アラビア語からギリシア語・ラテン語に翻訳された科学文献
おわりに
第5章 アラブの歴史書と歴史家
—— マムルーク朝時代を中心に
はじめに
1 膨大な写本の山に分け入る
2 複雑な引用関係を解きほぐす
3 歴史書の生成過程に目を向ける
4 写本同士の会話に耳を傾ける
おわりに
第6章 神秘家たちの修行と書物
1 霊魂の浄化としての修行
2 さまざまな古典期修行論
3 教団の修行論から存在論へ
第7章 サファヴィー朝のペルシア語写本
はじめに
1 ペルシアの挿絵入り写本の始まり
2 ティムール朝時代の写本絵画の発展
3 サファヴィー朝初期の挿絵入り写本
4 一枚ものの作品と詩画帳
おわりに
第8章 オスマン朝の写本文化
はじめに
1 オスマン朝写本文化の展開
2 オスマン写本文化の精髄 —— 王書詠みと挿絵付き豪華写本
3 写本文化の転換 —— 17世紀
おわりに
第9章 オスマン朝社会における本
はじめに
1 本のある光景
2 「教科書」としての本
3 ラーグプ・メフメト・パシャ図書館碑文を読む —— おわりにかえて
第10章 ムガル朝インドの写本と絵画
はじめに
1 ムガル朝以前のイスラーム写本と絵画
2 ムガル朝時代の写本と絵画の展開
3 写本・絵画に対する働きかけの歴史
おわりに
第Ⅲ部 現代から未来へ
—— 写本・印刷本・デジタル本
第1章 イスラーム写本の流通と保存
1 写本の所在
2 写本の作成と伝来
3 写本の情報
第2章 写本研究の愉しみ(1)
—— アラブ史の現場から
はじめに —— 写本研究の愉しみとは
1 写本と文書 —— エジプトの場合
2 写本研究の現場 —— 参詣書写本の世界から
3 日本における写本利用
おわりに
第3章 写本研究の愉しみ(2)
—— オスマン朝史の現場から
はじめに
1 ある政治家の伝記的研究から
2 「急がば回れ」—— カラオスマンオウル家との出会い
おわりに
第4章 イスラーム世界と活版印刷
はじめに
1 活版印刷の展開
2 近代化と印刷
3 写本文化の印刷本への影響
おわりに
第5章 聖典の刊本とデジタル化
はじめに
1 刊本時代の幕開けとアズハル・レジーム
2 サウディアラビアによる大量配布と刊本クルアーンの検品
3 現代における刊本の校閲と読誦学者
4 刊本時代の特徴とデジタル化
おわりに
第6章 デジタル時代の古典復興
—— アラビア語メディアを中心に
はじめに
1 アラビア語圏における近代的印刷
2 コンピュータ時代のアラビア語
3 活版文字からフォントへ
4 21世紀の古典復興へ
あとがき
図表一覧
人名索引
書名索引
書名ローマ字転写・邦題対応一覧
書 評
朝日新聞(2019年9月11日付、夕刊、「編集者がつくった本」)
『史学雑誌』(第124編第6号、2015年6月、評者:後藤敦子氏)
『Asahi 中東マガジン』(イスラーム世界は今 第35回、評者:小杉泰氏)
関連書
『イスラーム世界研究マニュアル』 小杉 泰・林 佳世子・東長 靖 編