内 容
これまで「暗黒時代」とされてきたモンゴル時代(元朝)の文化政策と出版活動を、東アジアへの広範な影響も視野にいれ、多領域にわたる一次資料にもとづきながら、書物・言語・挿絵・地図等にそくして再検討、漢文化とイスラームの知識が融合し、かつてない活況を呈した時代の実像を描きだす。
目 次
序 章
「貨郎図」が語るもの
元刊本の過小評価
モンゴルの文化政策
古典学の再生
文学と歴史の間
第Ⅰ部 モンゴル時代の「漢語」資料と絵本の登場
第1章 『孝経直解』の出版とその時代
1 はじめに
2 大元ウルスの一大記念文化事業 —— 激動の大徳十一年
3 『孝経』の伝播 —— カラ・ホト文書から
4 『孝経直解』の挿絵をめぐって
1)『孝経直解』の挿絵
2)趙孟頫と『孝経図』
3)全相本『孝経直解』の後継
5 大元ウルスと全相本
1)上図下文形式
2)『列女伝』の出自
3)『図象孝経』と『列女伝図像』
6 『孝経直解』をめぐる人々
1)趙孟頫と貫雲石
2)なぜ『孝経』なのか
7 おわりに
第2章 鄭鎮孫と『直説通略』
1 はじめに
2 『直説通略』の文体
3 監察御史鄭鎮孫とその周辺
1)鄭鎮孫と交友関係
2)大元ウルス治下の監察御史
3)『直説通略』の出版経緯
4 『歴代史譜』と『歴代蒙求纂註』
1)『歴代史譜』と鄭鎮孫の中国史観
2)『歴代蒙求纂註』と歴代歌
5 モンゴル時代の通史
6 『直説通略』の資料ソースと編纂態度
1)全体の構成
2)『外紀』との比較
3)『資治通鑑』との比較
4)『直説通略』と遼、金、宋史
5)『直説通略』と『十八史略』
7 『直説通略』と平話
8 おわりに
第3章 モンゴル朝廷と『三国志』
1 はじめに
2 祠廟の建設と加封
3 『続後漢書』の出版
4 『蜀漢本末』の出版
5 『関王事蹟』の出版
6 おわりに
附 モンゴル時代の説唱詞話 —— 花関索と楊文広
第4章 モンゴルが遺した「翻訳」言語
—— 旧本『老乞大』の発見によせて
1 はじめに —— 直訳体と漢児言語の研究史
2 金から大元ウルスにかけての口語漢語
1)南宋からみた華北の口語漢語
2)華北からみた口語漢語
3 直訳体の登場
4 高麗における直訳体の受容
5 大明時代の翻訳システム —— モンゴルの遺産Ⅰ
1)明初期の国書
2)四夷館の翻訳
6 李朝の語学教育 —— モンゴルの遺産Ⅱ
1)高昌偰氏と司訳院
2)大明国と朝鮮の冷たい外交 —— モノと言語の断絶
3)モンゴル語教材について
7 旧本『老乞大』—— むすびにかえて
第Ⅱ部 大元ウルスの文化政策と出版活動
第5章 大徳十一年「加封孔子制誥」をめぐって
1 はじめに
2 加号の経緯
3 立石の経緯
4 詔書の日付
5 おわりに
第6章 『廟学典礼』箚記
1 はじめに
2 編纂者について
1)『歴代崇儒廟学典礼本末』
2)『聖朝通制孔子廟祀』
3 『廟学典礼』の挿絵
4 おわりに
第7章 程復心『四書章図』出版始末攷
—— 江南文人の保挙
1 はじめに
2 儒学提挙司と粛政廉訪司 —— 文書その1
3 翰林院の審査 —— 文書その2
4 江南文人の保挙 —— 文書その3
5 趙孟頫の貢献 —— 文書その4
6 程復心とその周辺
7 宮廷文人の対立 —— 李孟の実像
8 出版とその後
第8章 「対策」の対策 —— 科挙と出版
1 はじめに
2 「対策」の王道 —— 江南文人をつくるもの
2-1 まずは読む
1)『分年日程』
2)『学範』ほか諸説
2-2 文体の習得
1)『分年日程』
2)『学範』ほか諸説
3 現実の「対策」—— 模範答案に学ぶ
1)『三場文選』
2)『太平金鏡策』附『答策秘訣』
4 対策の現実 ——『丹墀独対』に見る政書の流通と受容
1)『丹墀独対』簡介
2)呉黼の書架
3)『大元通制』再考
4)受験生の「時務」常識
5 むすびにかえて
第Ⅲ部 地図からみたモンゴル時代
第9章 「混一彊理歴代国都之図」への道
—— 14世紀四明地方の「知」の行方
1 はじめに
2 清濬と李沢民
2-1 「混一彊理図」と清濬
1)『水東日記』の諸版本
2)新発現の「広輪疆理図」
3)清濬とその周辺
2-2 「声教広被図」と李沢民
1)『広輿図』と「大明混一図」にみる原像
2)新出資料「声教被化図」をめぐって
3 四明文人の地理知識 —— 時空を越えて
3-1 大元ウルス治下の地図と地誌
1)モンゴル朝廷の記念事業 —— あらたな「世界」の誇示
2)朱思本「輿地図」の位置
3)私家版『一統志』
4)歴代の地理の沿革を知るために
5)空間と時間の混一
3-2 類書の中の地図と地誌
1)胡三省のネタ本
2)『事林広記』の正体
3)混一直後の地理情報
4)最新情報の導入 ——「混一彊理歴代国都之図」との連動
5)類書の構造と性格
6)『事林広記』の享受者たち
7)明朝廷の哀しき「勘違い」
4 慶元 —— 中国・朝鮮・日本を結ぶ「知」の港
1)朝鮮半島の脅威
2)補陁洛迦信仰の流行
3)出版から見た文化交流
5 「混一彊理歴代国都之図」の誕生とその後
1)四明から朝鮮へ —— 2枚の地図は誰のもの?
2)天と地と
3)なぜ1402年だったのか
4)朝鮮王朝の執念
5)朝鮮から日本へ —— 鍵は本妙寺にあり
終 章
王振鵬のみた大都
王族と絵本
歴史資料としての陶磁器
朱元璋の息子たち
東アジア史の大元
あとがき
初出一覧
人名索引
図書索引
受 賞
書 評
『史林』(第90巻第3号、2007年5月、評者:櫻井智美氏)
『月刊中国図書』(第19巻第1号、2007年1月、評者:二階堂善弘氏)
『東洋史研究』(第65巻第3号、2006年12月、評者:高橋文治氏)