内 容
わが国の現代イスラーム研究をリードする著者が、中東をはじめとする現代イスラーム世界の成立と展開、激動の現在と今後の展望を、国際環境の中に位置づけつつ、思想と政治・社会・経済の動態的連関を軸に捉え、イスラーム復興が今日の世界にもたらした巨大な運動の全体像を描ききった画期的労作。
目 次
はじめに
序 章 21世紀のイスラーム世界研究へ
はじめに —— 激動の世紀の始まり
1 イスラーム世界にとっての20世紀
2 イスラーム復興
3 研究のパラダイム
4 冷戦の終焉と国際システムの揺らぎ
5 地球的問題群
6 ソフト・パワーとしてのイスラーム
Ⅰ イスラーム世界の原像と現代
第1章 イスラーム国家と統治の目的
はじめに
1 イスラーム国家の原像
2 統治の基本問題
3 理念と現実のダイナミズム
4 政治理論の展開
5 現代の新地平へ
第2章 法学派の史的展開とウラマーの機能
はじめに ——「知の宗教」
1 イスラーム法と法学者
2 ウラマーのはじまり ——「回廊の人々」
3 法学派の成立
4 権力者との関係
5 ウラマーの仕事
6 法学派の広がり
7 ウンマと国家
8 「思想の市場」メカニズム
9 スンナ派とシーア派
10 現代のウラマー
第3章 イスラームの「教経統合論」
はじめに —— イスラームと経済
1 政教一元論の構図
2 イスラームにおける宗教倫理と経済
3 教経統合論の意義
第4章 イスラーム共同体の原型
—— マディーナ憲章
はじめに —— 宗教の共存
1 「テクスト」としての初期イスラーム
2 マディーナ憲章 —— 史料および研究史的背景
3 規範性に着目した立論
4 新生都市国家と安全保障
付録 マディーナ憲章
第5章 アラブ化と「中東」地域の形成
1 創られる歴史
2 国民国家という仕組み
3 イスラーム文明とアラビア語
4 近現代における地域の生成
第6章 現代における宗教と政治
—— イスラーム世界から見た位相
はじめに —— 革命のパラダイム転換
1 守勢に立つ世俗主義
2 政教関係の変容
3 基本概念の組みかえ
4 宗教と政治が「民族」に溶けこむとき
終わりに —— ビン・ラーディンを考える
Ⅱ 「西洋の衝撃」からイスラーム復興運動へ
第7章 「西洋の衝撃」とイスラーム思想
はじめに —— 転換点としての19世紀
1 自立の希望と帝国主義
2 フランス革命の影響
3 二重陣形の戦い
4 中庸の道
5 『マッカ会議』
第8章 アフガーニーのイスラーム改革とその遺産
1 革命思想家アフガーニー —— その出自をめぐって
2 諸国遍歴
3 汎イスラーム主義
4 イスラーム的近代
5 アフガーニーの遺産
第9章 スンナ派中道潮流の確立とその貢献
1 世紀末の師弟たち
2 マナール派の苦闘
3 中道の改革派
4 スンナ派のイスラーム復興の源流
5 マナール派の貢献
第10章 イスラーム大衆運動の誕生と展開
1 新世代の登場
2 ムスリム同胞団の創設と拡大
3 同胞団の呼びかけ(ダアワ)
4 共和革命と同胞団の危機
5 「冬の時代」と秘密機関の問題
6 クトゥブの死から同胞団の復活へ
第11章 シリアにおける未完のイスラーム復興
1 シリアにおける同胞団
2 ハウワーの生い立ちと同胞団入団
3 同胞団の発展と闘争
4 シリアとイラクの比較
5 地縁・血縁・宗教と文化資産の動員
6 武装闘争の失敗
7 思想家ハウワーの著作
8 ハウワーのイスラーム運動論
第12章 中道派の発展と急進派との相克
1 イスラーム復興とアラブ民族主義
2 急進派の「ジャーヒリーヤ」論
3 中道勢力としてのムスリム同胞団
4 カラダーウィーの思想
Ⅲ 現代における中東政治の動態
第13章 中東における国家統合と地域主義
1 中東諸国体制の成立とアラブ・システム
2 国家統合の理念
3 アラブ統合の試行と政治ブロックの展開
4 イラン革命以降の状況
5 湾岸危機とアラブ統一の挫折
6 アラブ統合論の遺産
第14章 アラブ民族主義とイエメン内戦
1 中東の戦争と内戦
2 イエメン革命と内戦 —— 概観
3 イエメン革命の成立
4 内戦の展開
5 イエメン革命とイスラーム
6 アラブ民族主義へのイエメン内戦の影響
第15章 ミッラ的政治意識とレバノン内戦
はじめに —— 国家解体の危機
1 ミッラ的意識の実相
2 社会化過程における氏名の表象
3 「国家協約」体制下でのターイファ (宗派)
4 「ターイファ制」
5 内戦の進行と国家の解体状況
6 「多数派-少数派」の枠組
7 内戦の終焉と国家再建
8 第二共和国のターイファ制
第16章 アラブ・シーア派とイスラーム革命運動
1 現代中東におけるシーア派
2 レバノンのシーア派
3 レバノンのイスラーム革命思想
終わりに —— アラブ・シーア派の眺望
第17章 イスラーム政治とパレスチナ問題の展開
はじめに —— 終わらぬパレスチナ問題
1 国際的なイスラーム復興とパレスチナ問題
2 パレスチナ解放闘争におけるイスラームの意味
3 オスロ合意以降の展開 —— 対立と協調の模索
終わりに —— 世紀末の首脳会談
第18章 イラン革命から湾岸戦争、「9・11」事件へ
はじめに —— イスラーム急進派の「国際テロ」
1 イラン革命と「原理主義」
2 分水嶺としての1979年
3 湾岸戦争と「ねじれた対立構造」
4 反米路線の誕生
5 「ビン・ラーディン」現象
6 脅威のパーセプション
Ⅳ イスラーム復興の新地平
第19章 ウンマを構想する思想家たち
はじめに ——「ウンマ」の磁力
1 人間と共同体
2 アラブ民族意識と憲法の規定
3 イスラームとウンマ復興
4 2つのウンマの間で
第20章 イスラーム市民社会と国家
1 オリエンタリズムの問題
2 イスラームにおける社会と国家
3 イスラーム的市民社会
4 現代中東における市民社会と国家
5 自由化とイスラーム復興
6 新たな市民社会のビジョン
7 国家主義の問題
第21章 イスラーム政党と民主化
はじめに —— 比較政治学と地域研究の視座から
1 政治学と地域研究は連携しうるか
2 「イスラーム政党」というカテゴリー
3 イスラーム政党をめぐる6つの視点
4 イスラーム政治論の新しい試み
第22章 イスラーム的近代化の論理と倫理
はじめに —— モロッコの風景から
1 イスラーム共同体(ウンマ)の分裂と公益
2 イスラーム的近代の構想
3 近代文明とテクノロジー
4 再解釈と再構築
5 イスラーム的近代の倫理
6 イスラーム経済論への批判
7 「自己との闘い」
第23章 イスラーム福祉国家論の現在
はじめに —— イスラームと福祉
1 イスラーム共同体と諸制度
2 ザカート(喜捨)
3 現代中東の福祉国家とイスラーム
4 現代の福祉国家論
5 「イスラーム的」とは?
6 イスラーム市民社会
第24章 イスラーム諸国会議機構とイスラーム連帯
はじめに —— 急進派と保守派の和解
1 イスラーム世界の隆盛
2 イスラーム諸国会議機構
3 イスラーム外交
4 OICの現状と評価
Ⅴ 今日のイスラーム世界の眺望
第25章 イスラーム世界の東西
—— 地域間比較のために
はじめに —— メタ地域としてのイスラーム世界
1 「中東」が中心的・模範的と考えられる理由
2 アラブ的なるもの(ウルーバ)とイスラーム
3 イスラーム改革派の理念
4 名付けえぬ「イスラーム」の思想
5 イスラーム化と現地化
6 再イスラーム化とイスラーム復興
7 地域間比較の課題
第26章 21世紀の中東政治
—— イラク戦争後の眺望へ
はじめに —— 中東の政治変動
1 3つのベクトル
2 イラク戦争とその後
3 世紀末からのパレスチナ問題
4 国家の揺らぎ
5 中東の変容とイスラーム世界
第27章 解釈の革新とコンセンサス形成
はじめに —— 現代イスラーム世界の形成と変容
1 イスラーム世界とは何か —— 再論
2 スンナ派とシーア派 —— 現代的評価
3 急進派の伸張と「ウンマ主義」の高まり
4 コンセンサス形成と解釈の革新
終わりに —— 21世紀の国際社会とイスラーム世界
注
「知の実験場」 としての現代イスラーム世界論 —— あとがきにかえて
初出一覧
図表一覧
参考文献
人名・書名索引
事項索引
書 評
【毎日新聞書評】
【朝日新聞書評】
【日本経済新聞書評】
著者の既刊書
『イスラーム世界研究マニュアル』 小杉 泰・林 佳世子・東長 靖 編