内 容
中国史で清朝とよばれるダイチン・グルンは、マンジュ(満洲)人のつくった国家であった。本書は、ナショナリズムに彩られた漢文中心の歴史叙述を脱し、ポスト・モンゴルのユーラシア史の文脈で、膨大な満洲語史料や地図を読み解き、今日の諸問題にもつながるこの時代と社会の新たな実像を多角的かつ精細に描きだす。
目 次
凡 例
序 章
なぜ、今「ダイチン・グルン」か
生きた遺産
本書のねらいと構成
第Ⅰ部 世界帝国をめざして
第1章 帝国の胎動
—— 起ちあがったジュシェン
はじめに
1 ヌルハチ建国以前の建州三衛
1)3つのジュシェン集団
2)建州衛の人々と多様な生活基盤
3)1520年代のジュシェンと朝鮮辺界
4)建州衛の全体構造
5)建州左衛とその他の展開
6)建州三衛の姻戚関係
2 ジュシェンの戦い方 —— 2つの事例から
1)高山里合戦(1491年)
2)潼関合戦(1583年)
3 加藤清正軍とロトン
1)清正軍の出現とその渦
2)ロトンとその一族・末裔たち
3)ランブルカンの誥命
4 ヌルハチと八旗領地
1)ロシアの東進とヌルハチの権力掌握
2)八旗の編制とそれぞれの領地
5 ダイチン・グルンの成立 —— 伝国の璽とマハーカーラの奉戴
第2章 拡大する帝国
—— ユーラシア国家への道
はじめに
1 中華の併合と西方へのまなざし
1)マンジュ人の北京入城
—— 世祖皇帝フリンと「成宗皇帝」ドルゴン
2)ダイチン・グルンの西域
2 康熙帝とその側近たち
1)モンゴル諸集団への使者派遣
2)旗人ランタン —— ガルダン対策
3)ラマのシャンナン・ドルジ —— フフ・ノールとチベット対策
3 対ジューンガル遠征計画
1)トルファン進攻作戦計画とジューンガル鉄騎の壮挙
2)チンギス・カンの末裔
3)奇妙な道士のエピソード —— 勝利への執念か、あるいは……
4)出撃と不満
4 ジューンガル征服への道程
1)雍正時代のジューンガリア
2)雍正帝みずから語る姿勢・思惑
5 巨大版図とさらなる西方
1)ジューンガル解体
2)カザフの「来到」
3)タラス河畔のヨルゴ山の石碑
第3章 歴史にまなぶ帝国の「かたち」
—— マンジュ語に訳された正史
はじめに
1 ダイチン・グルン初期の文化と歴史編纂
2 満文三史の編訳
3 満文の『遼史』
おわりに
第4章 ネルチンスク条約の幻影
—— マンジュ語で記された『黒龍江流域図』
はじめに
1 台北国立故宮博物院蔵『黒龍江流域図』について
2 『黒龍江流域図』作製の時代背景
3 地図が語る歴史
1)幻の国境碑
2)アイフン城
4 康熙時代からの黒龍江流域の水系視察
おわりに
第5章 描かれる版図
—— 黒龍江流域の「国境」探検
はじめに
1 視察隊派遣の前史
1)ロシアの影のなかで
2)移りいく黒龍江将軍衙門
3)ネルチンスク条約の後
2 九路の視察隊と調査の方法
1)「国境地帯」 探検の提案
2)調査ルート検討の前提
3)9つの調査ルート
4)編成された視察隊の詳細
5)聞き取り調査
3 ランタン図とバハイ図
1)『吉林九河図』をめぐって
2)バハイ図の詳細
4 『大清一統志』と黒龍江地域の現実
1)編纂のための調査報告
2)メルゲン城をめぐる本格的報告
5 再開された調査
1)状況の変化のなかで
2)一統志館から兵部への文書
3)黒龍江将軍からの伝送
6 曲折する経緯、重ねられる報告
1)さらなる返信
2)確認材料としてのランタン図
3)ようやくの報告書
おわりに
第6章 積み上がる地図の山
—— 輿図房と目録編纂
はじめに
1 内務府造辦処輿図房における輿図作製
2 勅編の輿図目録『蘿図薈萃』とその続編
3 民国以降の目録整理と編纂事業
第Ⅱ部 帝国を支えた人々
第7章 八旗社会の根幹
—— ニルの分類と佐領の承襲
はじめに
1 ニルの根源冊・執照について
2 八旗ニルの世襲例とニルの分類
1)入関前の世襲例
2)ニルの分類
3 雍正時代のニル分類
おわりに
第8章 掌握される戸口
—— 戸籍台帳の作成と管理
はじめに
1 八旗における戸口編審制度の成立
2 八旗戸口編審の実態
3 戸口冊に見る八旗ニル
1)『宜珍佐領下戸口冊』
2)『隆鋭佐領下戸口冊』
3)『仲倫佐領下戸口冊』
4)『隆順佐領下戸口冊』
5)『那丹珠佐領下戸口冊』
6)『駐防青州正紅旗晋祥栄芳佐領下点験得別戸男丁数目冊』
おわりに
第9章 編成されるニル
—— ブトハ八圍オロンチョンの場合
はじめに
1 黒龍江遠征とブトハ八圍の設立
1)黒龍江遠征とソロン部のニルへの編制
2)オロンチョン・ニルの編制
2 「ブトハ八圍」から「ブトハ八旗」へ
3 ブトハ・ニル社会の諸側面
1)貢貂の語義と実例
2)アンダ関係
おわりに
第10章 受け継がれる記憶と絆
——「アンダ」がつないだユーラシア
はじめに —— 記憶のなかのアンダ
1 アンダの起源とその広がり
2 ヌルハチのアンダ
3 ブトハ集団とモンゴルとのアンダ関係
1)ブトハ集団のアンダたち
2)ソロンとモンゴル各集団のアンダ関係
おわりに
第11章 尚武のモンゴル
—— 狩猟に生きるブトハ・ニル
はじめに
1 モンゴルの一員たるソロン —— ソロン・サハルチャ集団
2 ブトハ・ニルの集団構成とその拡大
1)ブトハ・ニルの集団構成
2)オンコトとホンゴル集団
3)オイラト、テレングトとウリャンハイ
おわりに
第12章 文雅のモンゴル
——『閑窓録夢』に見る北京の旗人生活
はじめに
1 松筠と『閑窓録夢』について
2 松筠の生活
1)年始
2)元宵節
3)交友関係
3 ジハン・ギールの叛乱に関する記事
4 書家・篆刻家としての松筠
おわりに
附 録 ブトハ・ニルの根源冊
参考文献一覧
あとがき
初出一覧
人名索引
地図・書名索引
地名・事項索引