内 容
龍や狐、海人や童子、神仏や魔王が躍動し、神器や国土の由来を説く物語たち ——。中世の権力は、自らの「正統」を示す数多の縁起説話によって支えられていた。天皇の即位儀礼から、武家の始祖伝承や幸若舞などの芸能、さらには「中世日本紀」の歴史叙述まで、豊かな王権神話の水脈を探る、永年の探究の到達点。
目 次
序 章 中世王権神話テクストの諸位相
1 『旅宿問答』という扉
2 舞の本が物語る神話
3 中世王権神話の輪郭
4 即位灌頂研究の展開と課題
5 本書の構成
第Ⅰ部 儀礼と王権
—— 即位灌頂と即位法
第1章 宝珠と王権
—— 中世王権と密教儀礼
1 花山院の犯し
2 舎利奉請
3 舎利/宝珠/愛染王
4 花園院の王権
5 即位法とダキニ天
6 後醍醐天皇の違乱
第2章 慈円と王権
—— 中世王権神話をうみだす主体
1 『六道釈』の祈りと王権
2 王を護る僧
3 玉体の夢想者
4 陰陽加持の成就
5 もたらされた回心
6 「慈童」の誕生へ
第3章 慈童の誕生
—— 天台即位法の成立をめぐって
1 『天台方御即位法』
2 「即位灌頂」の諸形態
3 穆王説話の展開
4 慈童説話の様相
5 法花経注釈と即位法
6 尊海の『即位法門』
7 恵心流と即位法
8 心賀の即位法
9 心賀の即位法の背景
10 中世天台の世界と慈童説話
結び —— 即位法が語る王権観
第Ⅱ部 芸能と王権
—— 舞曲の世界から
第4章 辰狐と王権
——『入鹿』の成立
1 『入鹿』が投げかける課題
2 鎌足説話の諸相
3 舞曲の創造
第5章 海人と王権
——『大織冠』の成立
1 海人説話の諸相
(1)『允恭記』と彦火火出見尊神話、神功皇后神話
(2)大施太子説話と『元興寺縁起』
(3)『志度道場縁起』と能『海人』
(4)海人入海説話の世界
(5)『華厳縁起』における龍宮・龍神と道成寺縁起
(6)龍界と人界を往還遊戯する珠
2 興福寺縁起と海人説話
(1)『大鏡底容鈔』
(2)『春日秘記』
(3)『西金堂縁起』
3 珠をめぐる藤原氏の宗教伝承
第6章 八幡縁起の系譜
——『百合若大臣』の世界から
1 『百合若大臣』と中世日本紀
2 八幡神の登場
3 八幡縁起の展開と日本紀
4 大江匡房と八幡霊験譚
5 中世八幡縁起の創造
第Ⅲ部 歴史と王権
—— 変貌する日本紀
第7章 中世日本紀と王権
—— 即位法と三種神器説をめぐって
1 慈円の夢
2 即位法と中世日本紀
3 釼の巻
4 宝釼の行方
第8章 日本紀の再創造
——『春秋暦』から『秋津嶋物語』へ
1 中世における「日本紀」
2 『春秋暦』とその作者
3 『秋津嶋物語』の成立と特質
4 『春秋暦』と『秋津嶋物語』の連なり
第9章 魔王との契約
—— 第六天魔王神話の文脈
1 第六天魔王神話の語り口
2 第六天魔王神話の地平
3 魔王との戦い —— 中世太子伝の文脈と王権神話
終 章 中世王権神話の水脈
1 中世王権神話の淵叢
2 二神約諾神話の場
3 中世王権神話の主体
4 縁起における中世王権神話の融合と生成
注
あとがき
初出一覧
図版一覧
事項索引
人名・神仏名索引
書 評
『日本歴史』(2021年7月号、第878号、評者:上川通夫氏)
『週刊佛教タイムス』(2021年1月14日号、第2881号)