内 容
和漢の複線の詩学を基底に、かな文字の誕生から和歌や初期物語を経て源氏物語に至るかな文芸の生成をたどるとともに、同化と異化が複合する語りの心的遠近法の視座から、言葉のあやが織りなす源氏物語の世界を音楽や絵などの多様なテーマを包み込んで色彩豊かに読み解いた渾身の論考。
目 次
引用本文について
序 章
1 〈物語の詩学〉にむけて —— 言の葉としてのテクスト
2 貴種流離譚と物語の話型
3 物語の〈文法〉と心的遠近法
第Ⅰ部 かな物語の生成と和漢の心的遠近法
第1章 かな文字の生成と和漢複線の詩学
1 漢字と仮名・かな文字で書くこと
2 漢字と万葉仮名の修得
3 難波律の手習歌
4 「かな」の成立と和歌と和文
5 書体と文芸ジャンル
6 和漢の複線の詩学
第2章 掛詞と語源譚
—— 歌と物語の声と文字
1 掛詞の成立
2 漢字と声の混成表現
3 袖と涙の起源譚
4 地名起源譚と掛詞的発想
5 語源譚パロディと歌
6 詩的言語の異化作用
第3章 漢詩文と月
—— 竹取物語における引用と変換
1 漢武帝内伝と竹取物語
2 神仙譚から羽衣型の物語へ
3 八月十五夜の月と漢文世界
4 異界と決別する「あはれ」の主題
第4章 〈昔〉と〈今〉の心的遠近法
—— 初期物語における同化と異化
1 冒頭と結末の初期性
2 古伝承のムカシ
3 かぐやひめの物語・からもり・はこやのとじ
4 初期物語の修辞的変換
5 トコヨと蓬萊山
6 竹取物語の蓬萊と不死の薬
7 喩としての蓬萊・不死薬・優曇華
8 〈昔〉と〈今〉の心的遠近法
第5章 うつほ物語の〈琴〉と王権
1 隠喩としての〈琴〉
2 俊䕃一族と〈琴〉と貴族社会
3 王権と夢と祝祭
第6章 歳時と類聚
—— かな文芸の詩学の基底
1 類聚の時代の歳時
2 うつほ物語の歳時意識
3 古今集歌の類聚世界
4 節日と暦月と年中行事
5 うつほ物語の引き歌と古今六帖
第7章 〈もどき〉の文芸としての枕草子
1 「もどき」の用語例と折口学
2 枕草子の特性と「跋文」
3 異化と戯れの言説
4 他者の言語への異和
5 日記的現実における表現のタブー意識
6 言語連想の表層化
第8章 物語を生成する「涙川」
—— 歌ことばと語りの連関
1 抒情的散文の表現史とジャンルの交錯
2 歌の技法としての「涙川」
3 物語を生成する「涙川」
4 「涙川」とうつほ物語の求婚譚
5 「涙川」と落窪物語の継子譚
6 源氏物語における「涙川」と歌ことばによる異化
第Ⅱ部 源氏物語の詩学と語りの心的遠近法
第1章 謎かけの文芸としての源氏物語
1 作者と読者、語り手と聞き手、作中人物
2 謎かけの手法の類型と時代准拠
3 謎かけとしての占いによる予言と「源氏」
4 若紫巻の夢解きと澪標巻の宿曜
5 内在化した謎かけと可能態の物語
6 光源氏の宿世と物のけの視点
第2章 〈ゆかり〉と〈形代〉
—— 源氏物語の統辞法
1 物語の語りと意味の統辞法
2 桐壺更衣と長恨歌絵の楊貴妃そして藤壺
3 〈紫のゆかり〉
4 絵と雛遊びと「紫のゆかり」
5 女三宮と「紫のゆかり」幻想の破綻
6 浮舟と人形
7 〈ゆかり〉と〈形代〉の統辞法と主題性の展開
第3章 光源氏の物語と呼称の心的遠近法
1 主人公の機能と物語の生成
2 恋と王権の物語の序章
3 「ひかる君」の物語の生成
4 帚木三帖の表層と深層
5 外的な呼称と内的な呼称と無呼称
6 無位無官の無呼称と復権
7 光源氏の栄華と宿世
8 呼称の心的遠近法と継起性と因果性との結合
第4章 明石入道の「夢」と心的遠近法
1 明石入道の「夢」
2 「前の守新発意」の外部性
3 異界としての〈明石〉の内部化
4 明石入道の物語の多声法
5 光源氏の物語における明石一族
6 明石入道の始祖神話と現実
第5章 源氏物語の〈琴〉の音
1 語りと声と音楽
2 歴史語りの知の遠近法
3 〈琴〉と幻想〈王権〉
4 末の世の〈琴〉
5 調和の幻想
第6章 源氏物語における横笛の時空
1 音楽と「あそび」
2 琴と言
3 和琴から横笛へ
4 嫉妬と亡霊の歌
5 柏木の笛の行方
6 詩的言語の同化と異化
第7章 源氏物語の歳時意識
1 六条院の四季
2 古今集とことばの秩序の自立
3 「をり」の意識
4 〈異化〉の物語と「をり」の美学
5 花と紅葉
6 「かり」の物語の詩学
7 「かり」の物語の詩学(続)
第8章 〈反悲劇〉としての薫の物語
1 薫の理想化と悲恋の享受
2 反悲劇としての源氏物語
3 薫の反オイディプス性
4 香の境界性
5 語りのパロディ性と〈反悲劇〉
第9章 愛執の罪
—— 源氏物語の仏教
1 横川僧都の手紙
2 罪と出家
3 僧都の「あはれ」
4 〈中有〉の思想
第Ⅲ部 物語論の生成と〈女〉文化の行方
第1章 物語論の生成としての源氏物語
1 「もののあはれ」論の位相
2 蛍巻の物語論の表現構造
3 蛍巻の物語論の基底
4 物語言語の虚構論
5 物語の修辞論と史書と仏典
6 物語の思想へ
第2章 物語作者のテクストとしての紫式部日記
1 〈紫式部〉論の可能性
2 紫式部日記における栄華と憂愁
3 物語作者〈紫式部〉の栄光と異和
4 「ものいひさがな」さと自己表出
5 日記と物語のインターテクスト
6 〈紫式部〉における「身」と「心」の転移
第3章 物語と絵巻物
—— 源氏物語の時空
1 物語と絵巻物の〈文法〉
2 語り手と視点人物
3 物語絵と雛と女君たち
4 物語の男にとっての絵と人形
5 中心と周縁の〈文法〉と物のけ
6 源氏絵の正典化と王朝〈女〉文化の伝統
7 源氏物語の内なる絵画史
第4章 王朝〈女〉文化と無名草子
1 「草子」の系譜をなす枕草子と無名草子
2 無名草子における源氏物語の詩学
3 『源氏』以後の物語
4 同時代の男性作品と〈男〉文化との差異
5 歌集の論・王朝女性の論と「末の世」意識
第5章 「世継」と無名草子の系譜
—— 語りの場の表現史
1 「世継」物語の系譜と語りの場
2 「世継」語りと場の物語
3 論議と懺悔の物語
4 仏教から物語への反転
5 「打聞」と「世継」と「草子」
6 狂言綺語観からの自由と末世観
結 章
1 王朝かな文芸の詩学
2 かな文字による表現と和漢の複線の詩学
3 初期物語の語りと話型から源氏物語へ
4 語りの心的遠近法と源氏物語
5 意味生成の物語の詩学と開かれたテクスト学
注
あとがき
初出素稿一覧
引用歌初句索引
書名(巻名)・人名索引
英文要旨