内 容
支払い・貸借・契約・裁判・差押えなど、市場が果たした多様な役割を明らかにするとともに、債権取立てを軸に中世日本の展開を描き出したライフワーク。神人・悪僧に発し金融を担う「公界」と公権力とは、慣習法と制定法、文書とその破棄、暴力と秩序等をめぐり、いかに切り結ぶのか。
目 次
凡 例
第Ⅰ部 市場の機能 —— 公界再考
第1章 市場は裁判の場である
1 市場には監督官がいる
2 裁判官の登場
3 雑務沙汰とその研究史
4 網野善彦の市場論
第2章 市場は裏切りの場である
1 「売る」の言語分析
2 市場の暴力支配
3 商人と武装
第3章 市場は支払いの場である
1 市場在家での支払い
2 『庭訓往来』四月返状の分析
3 撰銭の舞台
第4章 市場は文書作成の場である
1 筆師の登場
2 売券の分析
3 笠松宏至論文を見直す
第5章 市場は身曳きの場である
1 「孫三郎身曳状」
2 「礼 文」
3 「安芸文書」の身曳状
4 人勾引人は下人となる
5 債務奴隷への身曳状
第6章 戦国家法の中の「公界」
1 『結城氏新法度』の中の「公界」
2 『相良氏法度』の中の「公界」
3 神奈川湊の「蔵衆談合」
4 網野善彦の「公界」
第Ⅱ部 債権取立てに見る市場と国家(1)
—— 寄沙汰考
第7章 寄沙汰前史 —— 僧と金融
1 2つの法
2 保延2年の明法博士勘文
3 勘文の研究史
4 対内道徳と対外道徳
第8章 平氏政権下での寄沙汰の登場
1 「寄沙汰」の研究史
2 神人・悪僧の濫行
3 神人・悪僧の訴訟決断
4 土地差押えの作法
第9章 承久の乱前後の寄沙汰の拡大
1 「公家法」の寄沙汰禁止令
2 六波羅と寄沙汰
3 山僧・神人の武家社会への浸透
4 寄沙汰のさらなる拡大・変質
第10章 公武の寄沙汰対策
1 鎌倉幕府の公家法継受
2 寛喜3年6月9日・宣旨事
3 寄沙汰の軍事化
4 東国における差押え
第11章 証文を破る利倍法
1 文書か法か
2 追加法の寄沙汰禁止令
3 秩序維持権力の一元化
4 寄沙汰の終焉
5 永仁の徳政令=追加法第663条
第12章 弘安の徳政
1 後嵯峨院と北条長時の蜜月期
2 亀山院と安達泰盛の〈徳政〉
3 正応5年、神社に「公家法」を遵行させる
4 寄沙汰から高質へ
5 「正直」倫理の登場
第Ⅲ部 債権取立てに見る市場と国家(2)
—— 国質・所質・郷質考
第13章 日本史上の大断層
—— 寄沙汰から付沙汰・請取沙汰へ
1 経済の停滞期・転換期
2 第Ⅰ期の市場と市場法
3 『建武式目』と『太平記』
4 第Ⅱ期 —— 室町幕府追加法の中の譴責・催促
5 第Ⅲ期 —— 歳市の法と細川政元の法
第14章 付沙汰・請取沙汰
1 寺領内での請取沙汰
2 西国市場での付沙汰・請取沙汰
3 足軽による請取沙汰
4 絹屋後家の一件
第15章 国質・郷質・所質
1 質取りの成立
2 所 質
3 国質・郷質
4 信長禁令の中の「国質・郷質・所質」
5 町共同体による「所質」の代行
第16章 楽市令
1 石寺新市楽市令
2 富士大宮楽市令
3 金森楽市令
4 安土楽市令
5 小山新市楽市令
結 語
註
あとがき
索 引
書 評
『歴史と経済』(第251号、2021年4月、評者:中西聡氏)
『経済研究』(第70巻第4号、2019年10月、評者:横山和輝氏)
『日本歴史』(2019年9月号、第856号、評者:長澤伸樹氏)