内 容
切実な問いにこたえる ——。科学哲学の思考を応用して精神医学の世界をつぶさに分析、精神医学批判の様々な疑念に答えつつ、医療現場の実践に即した提言を行う待望の書。精神疾患の実在から、心と脳の関係、臨床試験の妥当性まで、複雑化する問題にいかに向き合うのか。
著者紹介
レイチェル・クーパー
(Rachel Cooper)
ケンブリッジ大学で博士号(科学史・科学哲学)を取得。現在、ランカスター大学上級講師。精神疾患の分類をめぐる概念的問題を主な研究テーマとする。著書に Classifying Madness(2005)、Diagnosing the Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(2014、邦訳『DSM-5を診断する』)など。
(所属などは本邦訳発行時のものです。)
目 次
第1章 はじめに
—— 精神医学と科学哲学
1 用語と概念について
2 精神医学は科学だろうか?…… なんて、どうでもいいことだろうか?
3 本書の概要
第2章 精神疾患の本性1
—— 精神疾患は神話なのか?
1 精神科医に精神疾患がわかるのだろうか?
2 精神疾患は歴史的に不安定なカテゴリーなのか?
3 精神疾患は医学というより道徳の問題だろうか?
4 精神疾患の症状は社会的文脈へあまりにも依存しすぎか?
5 精神疾患を良いものとみなすことはできるか?
6 まとめ
第3章 精神疾患の本性2
—— 精神疾患が実在するのなら、それは何なのか?
1 身体疾患と精神疾患との区別
2 生物学的学説
3 フルフォードの行為に基づく学説
4 障害についてのアリストテレス的学説
5 込み入った学説
6 ロッシュ的概念としての障害
7 まとめ
第4章 精神医学における説明1
—— 自然誌に基づく説明
1 自然種についての補足
2 精神疾患は自然種であるという見解への反論
3 精神疾患の類型は自然種なのか?
4 帰 結
5 まとめ
第5章 精神医学における説明2
—— 個別の個人誌
1 素朴心理学的な理解についてのシミュレーション説
2 シミュレーションと個人誌
3 シミュレーションの限界
4 伝統への回帰
—— 他の説と比較したときの個人誌のシミュレーション説
5 倫理と個人誌
6 まとめ
第6章 理論と理論との関係1
—— 異なるパラダイムが出会うとき
1 パラダイムと通常科学についてのクーンの考え
2 通約不可能性についてのクーンの考え
3 精神医学におけるパラダイム
4 クーンが論じなかったもう一つの問題 —— 専門職間の競合関係
5 十全なコミュニケーションをともなわない協働関係
6 パラダイム間を横断する十全なコミュニケーションを目指して
7 まとめ
第7章 理論と理論との関係2
—— 還元主義
1 三種類の還元主義
2 心とは何か? 心についての理論は脳についての理論に還元できるか?
3 方法論的還元主義
4 まとめ
第8章 価値と利害関心の取り扱い1
—— 価値負荷的な科学としての精神医学
1 事例研究にあたって
2 様々な価値負荷性
3 他の科学との比較
4 何ができるだろうか?
5 まとめ
第9章 価値と利害関心の取り扱い2
—— 大企業と治療の評価
1 ランダム化比較試験(RCT)について
2 治療効果の評価にともなう問題
3 精神医学における社会認識論と信頼の崩壊
4 問題の診断
5 精神医学に立ち返って
6 まとめ
第10章 おわりに
謝 辞
監訳者解説
注
文献案内
文献一覧
索 引
訳者一覧
訳者の既刊書
『科学技術をよく考える』 伊勢田哲治・戸田山和久・調 麻佐志・村上祐子 編
『誇り高い技術者になろう [第2版]』 黒田光太郎・戸田山和久・伊勢田哲治 編