内 容
肖像画とは、見たままの対象の描写なのか。院政期に雰囲気を一変させる絵巻物との連続性から、似絵や「明恵上人樹上坐禅像」など鎌倉時代の肖像画をとらえることで、その深層に形成された思想の言葉の次元を明るみに出す。中世へと向けて大きく転換していく社会にあって、絵画は何を語り出そうとしたのか。
目 次
緒 言 —— 鎌倉時代肖像画研究序説
はじめに
1 「明恵上人樹上座禅像」の研究史の反省
2 政治哲学としての似絵
3 絵巻物との言説内容の類似
4 鎌倉時代肖像画の精神的基盤
5 言葉と隔絶した表現世界
6 研究の要点
序 章 絵巻物から肖像画へ
—— 変革期の日本美術
1 絵巻物研究における文化覇権論
2 絵巻物研究における「秘められた政治」論
3 院政期絵巻物研究の問題点
4 絵巻物に映る社会の情態
5 「信貴山縁起絵巻」の特質
6 自己意識の形象化としての似絵
7 「明恵上人樹上座禅像」の特質
8 思想的実践としての肖像画
第Ⅰ部 絵巻物に見る転換の諸相
—— 院政期美術の背景
第1章 神仙山水としての「信貴山縁起絵巻」
1 絵巻の時代背景
2 説話の構造
3 視覚形式における神仙山水的性格
4 「信貴山縁起絵巻」から「伴大納言絵巻」へ —— 神から人へ
第2章 絵画との対面の感覚
——「信貴山縁起絵巻・延喜加持巻」剣の護法の場について
1 現状について
2 時空間の構造
3 掛幅画を見るときの経験
4 錯簡説について
5 造形の論理
6 常の世界と超の世界
第3章 国家の神話としての「伴大納言絵巻」
1 御霊絵巻論について
2 文化覇権論について
3 説話構造の分析
4 超越的存在の出現
5 徳治と法治の提示
6 神話としての絵巻
7 公正の理念の提示
第Ⅱ部 似絵考
—— 徳治理念の表象としての肖像
第4章 似絵以前の平安貴族の肖像観
—— 呪詛論をこえて
はじめに
1 上位貴族の肖像作例
2 上位貴族の肖像観
おわりに
第5章 生身性と肖似性
—— 肖像画の基礎概念と院政期の肖像表現
1 肖像の起源説話
2 生身性と肖似性
3 平安貴族の肖像観
4 九条兼実の似絵忌避
5 個体差の否定的価値
6 肖似性への忌避感
7 外形描写の意味
8 行事絵の公的性格
9 藤原隆信の活動の場
第6章 似絵と尚歯会図
—— 似絵の起源
はじめに
1 尚歯会図との関係
2 尚歯会図の実相
3 隆信様式の復元
第7章 「似絵詞」に見る似絵
—— 源流・名付け・概念
はじめに
1 「似絵詞」について
2 「似絵詞」と尚歯会図
3 似絵という名付け
おわりに
第8章 似絵の時期区分
——「似絵詞」を中心に
はじめに
1 「似絵詞」の意義
2 「似絵詞」の思想
3 「似絵詞」の創作主体
4 似絵の後先
おわりに
第9章 初期似絵から中期似絵へ
——「中殿御会図」について
1 九条良平の位置の問題
2 異時同図法と「中殿御会図」
3 音声のテーマ
4 コンテクストの問題
第10章 後期の似絵
——「天皇摂関御影」について
はじめに
1 現状と研究史
2 第一段階の成立過程
3 後嵯峨による画巻制作の意図
4 第二段階の成立過程
5 九名の法体影の比定
6 仁和寺御室歴代画像の付加の理由
おわりに
補 論 東アジア肖像画の標準
——「元人名賢四像図巻」について
第Ⅲ部「明恵上人樹上座禅像」考
—— 華厳思想の表象としての肖像
第11章 造形の特徴と宋画の摂取(1)
—– 構図法を中心に
1 研究史の問題
2 画面構成について
おわりに
第12章 造形の特徴と宋画の摂取(2)
—— 空間の組み立て・彩色・筆線などを中心に
はじめに
1 「明恵上人樹上座禅像」の画面の成り立ち
—— 特に空間の組み立てについて
2 彩色と筆線
3 山水人物表現と筆線の関係
おわりに
第13章 東アジア的な図像の伝統
—— 主題を巡る考察(1)
はじめに
1 樹下に坐禅する僧侶の図像の伝統について
2 遁世僧の図像の系譜
3 もう一つの遁世僧の図像
おわりに
第14章 華厳の思想的実践としての肖像画
—— 主題を巡る考察(2)
はじめに
1 羅漢図説の論拠の検討
2 「明恵上人樹上坐禅像」の主題の検討
3 事的世界観のシンボリズム
4 言葉以前ゆえの映像世界
5 羅漢図説発生の背景の検討
おわりに —— 思想的実践としての肖像画
補 論 多様な肖像世界
——「明恵上人像(披講像)」について
結 語
註
あとがき
初出一覧
図表一覧
作品名索引
人名索引