内 容
市民社会と国家を媒介する概念と見なされる「信頼」—— 良好な政治のミクロな指標として注目を集める一方、従来の信頼論が前提とする認識論やアプローチは深刻な問題を抱えている。ソーシャル・キャピタル論へ至る学説を乗り越えた先に、革新的な政治理論を導き出す気鋭の力作。
目 次
はじめに
凡 例
序 章 予備的考察
第1節 政治学における信頼論の現状と課題
1 信頼論の学際性と政治学
2 既存の枠組みを「補完」するもの?
3 政治学の有意性と規範的な政策論
第2節 1960年代の政治文化論
1 アーモンドによる政治理論としての政治文化論
2 政治文化論と信頼論の連続性と差異
第3節 本書における政治理論の地位
1 科学としての政治学をめぐる論争
—— フライヴァーグとレイテンの事例
2 世界観としての政治理論
3 政治理論における妥当性の問題
第4節 本書における分析の進め方
第Ⅰ部 政治文化論の再検討
第1章 学説史上の政治文化論とその問題構成
第1節 政治文化論における問題構成の原基的な形態
1 トクヴィルの習俗論
2 バンフィールドのエートス論
第2節 60年代型政治文化論の背景としての行動論政治学
第3節 比較政治学の確立期における機能主義および文化論的アプローチ
第2章 初期・中期パーソンズの社会理論と文化概念
第1節 パーソンズ理論の基本的モティーフ
—— 主意主義的行為の理論へ
第2節 中期パーソンズの社会理論
—— 構造‐機能主義的システム理論と文化概念
1 主意主義的行為の理論からシステム理論へ
2 構造‐機能主義
3 分析カテゴリーとしての文化概念と「中期」パーソンズ理論の性質
第3章 政治文化論の成立と衰退
第1節 60年代型政治文化論の成立過程
1 政治文化概念の誕生
——「比較政治システム」(1956年)論文
2 機能主義的政治システム論
——「比較政治に向けた機能主義アプローチ」(1960年)
3 政治文化論研究の金字塔
—— アーモンドとヴァーバによる『市民文化』(1963年)
第2節 60年代型政治文化論の衰退と理論的性格
第4章 新たな理論構築に向けた内在的契機と展望
第1節 「意味」としての政治文化
1 政治文化論における分岐と接合
—— 合理的選択理論と解釈主義
2 『市民文化』以降のアーモンド学派
3 パーソンズ理論における「意味」と文化
第2節 権力としての政治文化
小括 第Ⅰ部の意義と第Ⅱ部での課題
第Ⅱ部 信頼論の問題構成と理論的基礎
第5章 信頼論における問題構成の形成とその背景
第1節 パットナムの『民主主義を機能させる』
第2節 学説史のなかのパットナム
1 『民主主義を機能させる』の方法論上の性格
2 政治文化論から信頼論へ
—— トクヴィル的な伝統の再解釈
第3節 パットナムへの批判と国家/市民社会論
1 パットナムの信頼論における “国家の不在”
2 国家/市民社会論という問題構成の性質
第6章 信頼論の理論的基礎とその展開
第1節 ソーシャル・キャピタル概念
1 ソーシャル・キャピタル概念以前の『民主主義を機能させる』
2 コールマンのソーシャル・キャピタル論
3 ソーシャル・キャピタル論の構成要素
第2節 1990年代以降の信頼論の諸形態
1 対人間での信頼について
2 信頼と信任の相互規定的な性質について
3 ソーシャル・キャピタルが政治のあり方を左右する
4 ソーシャル・キャピタルが経済成長を可能にする
5 国家・制度に対する信任について
6 政治制度への信任が経済成長を可能にする
7 政治制度が対人間での信頼を可能にする
第3節 ロスステインの信頼論と政治理論上の課題
1 福祉国家と対人間での信頼
2 パットナム批判と信頼を政治学的に説明すること
3 「集合的記憶」—— 合理主義と文化主義のあいだ
4 ロスステインにおける政治理論上の課題
小括 第Ⅱ部の結論と第Ⅲ部に向けて
第Ⅲ部 信頼研究のためのあらたな政治理論
第7章 理論的基礎に関するオルタナティヴ
第1節 政治学内部でのあらたな潮流
1 国家/市民社会論から日常性の政治へ
2 制度論の変化と構成主義
第2節 「意味」の系譜① ——- 現象学的社会理論
1 現象学的社会学とその特徴
2 現象学的社会理論から信頼論への知見
第3節 「意味」の系譜② —— エスノメソドロジー
1 現象学的社会理論からエスノメソドロジーへ
2 エスノメソドロジーの方針
3 エスノメソドロジーへの批判と応答
第4節 日常言語学派と心の哲学
1 ライルによる心身二元論への批判
2 心の哲学と経験的な研究への指針
3 社会科学研究における概念分析の地位――ウィンチを中心に
第8章 問題構成の再定式化
第1節 第Ⅰ部および第Ⅱ部からの検討課題の引き継ぎ
1 第Ⅰ部からの検討課題
2 第Ⅱ部からの検討課題
第2節 政治学における信頼論の展望と応用例
1 ルーマン理論の利用について
2 エスノグラフィーと政治学
3 『支配のあいまいさ』
終 章 本書のまとめと意義
あとがき
註
参考文献
図表一覧
索 引
書 評
『社会と倫理』(第35号、2020年12月、評者:小山虎氏)
『図書新聞』(2019年12月21日号、第3428号、特集「19年下半期読書アンケート」、評者:山本圭氏)
関連書
『真理・政治・道徳』 C・ミサック 著/加藤隆文・嘉目道人・谷川嘉浩 訳
『自我の源泉』 チャールズ・テイラー 著/下川 潔・桜井 徹・田中智彦 訳