内 容
「善意」と「冷笑」の狭間で —— 。人々を社会参加へと枠づける言葉は、どのような政治的・社会的文脈で生まれ、いかなる帰結をもたらしてきたのか。その言葉がまとう形はどのように作動するのか。動員モデルと意味論分析を介して日本におけるボランティア言説の展開をたどり、参加型市民社会のあり方を鋭く問いなおす。シニシズムを脱することはできるのか。
目 次
序 章 「ボランティア」をめぐる語りと〈贈与のパラドックス〉
—— 問題設定と方法
1 問題の所在
2 動員モデル
3 贈与のパラドックス
(1)動員モデルの外へ
(2)〈贈与〉の意味論的構造
4 「ボランティア」的なものを扱う視座と方法
(1)居場所を求めて —— 理念史でも言説分析でも構築主義でもなく
(2)弱い知識社会学
(3)「ボランティア」的なものの同定をめぐって
補論1 「市民社会」に分有される〈贈与〉
補論2 〈贈与〉と権力 ——〈犬〉の政治学
(1)人類学/社会学
(2)ニーチェ/フーコー/マルクス
(3)「私はもう彼等をいい気持ちにさせてあげない」
第Ⅰ部
第1章 「ボランティア」のささやかな誕生
—— 戦前期日本における〈贈与のパラドックス〉解決の諸形式
1 純粋贈与への試行 ——「慈善」の意味論
(1)〈贈与〉の制度的環境
(2)言説化される慈善 ——『人道』誌について
(3)利他の徹底
(4)方法論としての宗教
(5)慈善と犯罪の不分明地帯 —— 隠れ蓑としての宗教
2 社会を経由する贈与-交換
(1)有用/非有用コードの分出
(2)感化救済
(3)経営的健全性と顕彰
3 価値体系の間
(1)越境しないこと
(2)越境すること —— 山師・郵便局・主体変容
(3)「慈善事業家の悲劇」と技術論
4 「社会奉仕」の誕生 —— この平等なるもの
(1)〈社会〉の発見
(2)増殖する「奉仕」
(3)奉仕の過剰と飽和
5 方面委員の意味論 ——〈贈与のパラドックス〉の社会工学的解決
(1)方面委員制度について
(2)「社交」という技術
(3)「成長」の物語
6 「ボランティア」のささやかな誕生 ——〈越境する身体〉の分出
(1)「ボランティア」の〈不在〉をめぐって —— コトバなきモノ
(2)「セツルメント」という〈教育〉空間
(3)越境するボランティア
7 「滅私奉公」という最終解決
(1)〈社会〉の2つの因果性
(2)〈社会〉の一者性と特異点
(3)〈奉公〉のトポロジー
8 小 括 ——〈贈与のパラドックス〉の別の抜け方について
第2章 戦後改革と不分明地帯の再構築
—— 1945~1950年代前半
1 はじめに
2 「社会の民主化」の二要件
①国家に対する社会の自律 / ②国家による社会権の保障
3 再来する「不分明地帯」(1)—— 旧生活保護法・民生委員・社会福祉法人
(1)旧生活保護法の成立 —— 賭金としての「意志」
(2)方面/民生委員について
(3)社会福祉法人
4 再来する「不分明地帯」(2)—— 赤い羽根と終戦直後の「総動員」
(1)共同募金の方へ —— 民主化要件の矛盾を解決するもう1つの方法
(2)「感性」を動員する
(3)道徳的コミュニケーションと相互統治
(4)終戦直後の総動員
5 再来する「不分明地帯」(3)—— 社会福祉協議会をめぐって
(1)復活する町内会
(2)社会福祉協議会の設立 —— 上からの「民主化」という問題
(3)存在証明としての「ボランティア推進」
(4)〈未-主体〉としてのボランティア ——〈教育〉の意味論を介した
民主化要件①との接合
(5)参加を通した政治的主体化 ——〈教育〉の意味論を介した民主化
要件②との接合
(6)伝播する形態/伝達されない意味論
(7)不分明地帯の増殖
6 小 括
第3章 〈政治〉と交錯する自発性と贈与
—— 1950年代前半~1960年
1 はじめに
2 「自主性」の領有戦 ——「国家に対する社会の自律」をめぐって
(1)社会教育と/の「逆コース」
(2)非-政治としての「奉仕」
(3)〈自発性〉の領有戦
3 社会保障削減と共同募金批判 ——「国家による社会権の保障」をめぐって
(1)1950年代の社会保障費削減
(2)「赤い羽根」のポリティクス
4 1950年代の「ボランティア」論の構図
(1)贈与的なものの場所を求めて
(2)「民主主義的なもの」としての「ボランティア」
(3)「専門性=科学性」としてのボランティア
(4)「運動」としての「参加」
(5)「運動」と(しての)「助け合い」——「黒い羽根」のポリティクス
(6)「運動」としてのボランティア —— 疎外論を媒介にして
第4章 分出する「ボランティア」
—— 1959~1970年
1 はじめに
2 社会福祉協議会の「ボランティア」推進 —— 生産されるコトバとモノ
(1)1950年代の社会福祉協議会
(2)「社会福祉のボランティア育成と活動推進のために」
(3)散布される「ボランティア」—— 全国社会福祉大会第七専門委員会
(1962年)
(4)善意銀行 —— ボランティアの転用-生産装置
(5)主体を捕捉せよ ——〈教育〉への欲望
(6)境界問題の発生
(7)特権化される〈身体〉——『ボランティア活動基本要項』(1968年)
3 ボランティアの同定問題 ——〈人間〉と〈政治〉の間
(1)包摂戦略と差異化戦略 ——〈ボランティア/奉仕〉コードの起動
(2)自発的/強制的 —— 行為論と〈社会〉的デモクラシー
(3)自発的/動員的 —— 行為論を超えて
(4)疎外と〈人間〉(1)—— 竹内愛二
(5)疎外と〈人間〉(2)—— 髙島巌
4 誰が「ボランティア」と名指されたのか? ——〈身体〉の検出
第Ⅱ部
第5章 「慰問の兄ちゃん姉ちゃん」たちの《1968》
—— 大阪ボランティア協会とソーシャル・アクション
1 はじめに
2 大阪ボランティア協会の設立と施設訪問グループ
(1)大阪市と「ボランティア」
(2)協会設立の経緯
(3)「慰問の兄ちゃん姉ちゃん」の群像
3 何が伝達され、何が生まれたのか
(1)大阪ボランティア協会のボランティア言説
(2)「ボランティア」という言葉に出会う
(3)意味論はどう変わったか —— 民主主義と民主化要件
(4)ボランティア言説のラディカル化 ——「ソーシャル・アクション」
の構成
(5)ゲバ棒とボランティア ——「ソーシャル・アクション」の背景
(6)浮遊する「ソーシャル・アクション」と自己否定
4 小 括 —— 〈犬〉と「楽しさ」をめぐって
第6章 國士と市民の邂逅
—— 右派の創った参加型市民社会の成立と変容
1 はじめに
2 非-政治としての「奉仕」
3 〈戦友〉の共感共同体
4 〈政治〉への上昇・〈国民〉への拡張
5 陶冶としての〈奉仕〉
(1)身体と実践
(2)アジア・〈奉仕〉・道義国家
(3)陶冶としての〈奉仕〉
6 「國士」と「市民」の交錯 in 1970s
(1)〈奉仕〉と〈運動〉
(2)〈奉仕〉の消滅
(3)「市民」との邂逅
7 小 括
第Ⅲ部
第7章 ボランティア論の自己効用論的転回
—— 転換する「戦後」:1970年代
1 はじめに
2 「民主化要件」のコンテクストの変容
(1)民主化要件①(国家に対する社会の自律)と文部省のボランティア政策
(2)民主化要件①(国家に対する社会の自律)と厚生省のボランティア政策
(3)民主化要件①(国家に対する社会の自律)とコミュニティ政策
(4)民主化要件②(国家による社会権の保障)をめぐる環境の変化
3 〈ボランティア/奉仕〉コードの完成
(1)ボランティア施策への批判 —— 強制と動員
(2)〈ボランティア/奉仕〉コードの完成
(3)行為論の回帰
4 「ボランティア」の自己効用論的転回
(1)生涯教育と自己効用的ボランティア論 ——〈対称的/非対称的〉
をめぐって
(2)教育 vs 福祉
(3)疎外論を共有する教育と福祉
(4)政治的なものと疎外論
5 自己効用的ボランティア論の環境
(1)定義の拡大とカテゴリー使用空間の拡大 —— コンテクストの変化①
(2)身体の変容・言説の変容 —— コンテクストの変化②
6 小 括 —— 〈贈与のパラドックス〉の解決とその外部
第8章 実体化する〈交換〉・忘却される〈政治〉
—— 1980年代
1 はじめに
2 統治性と接合する「ボランティア」
(1)臨調と福祉抑制下のボランティア政策
(2)教育政策とボランティア
(3)越境するボランティア施策
(4)データベースと保険 —— テクノロジーについて
(5)「停滞」するボランティア
3 自己効用の規範化 ——〈楽しさ〉の位置価をめぐって
(1)〈社会〉から「自由」へ —— 継続/反転する民主化要件
(2)「時代精神」としての〈楽しさ〉
(3)「自己志向的ボランティア」の身体化
4 実体化する〈交換〉
(1)有償ボランティア/住民参加型福祉サービス/時間預託制
(2)〈交換〉の射程 ——〈贈与のパラドックス〉との関係で
(3)「人格」に帰属する評価
(4)揺らいでいく定義
(5)「ボランティア」の言表を超えて
5 〈交換〉と他者 —— 自己効用論が見落としたもの
第9章 「ボランティア」の充満と〈終焉〉
—— 互酬性・NPO・経営論的転回:1990~2000年代
1 はじめに
2 民主化要件①とボランティア施策 —— 介入/自律化
(1)民主化要件①の融解 —— 拡散する「ボランティア施策」
(2)民主化要件①の実効化 —— NPO法
3 民主化要件②とボランティア施策 —— 社会保障の拡大/ネオリベラリズム
(1)社会保障の拡充/抑制 ——「失われた10年」の終わりと始まり
(2)ネオリベラリズムとボランティア・NPO施策
4 ボランティアの〈終焉〉(1)—— 充満と融解
(1)金子郁容のボランティア論とは何だったのか?
(2)「互酬性」概念の効用
(3)併呑される「奉仕」
(4)融解する「ボランティア」
(5)〈ボランティア/奉仕〉区分の不具合 ——〈教育〉という生存ルート
5 ボランティアの〈終焉〉(2)—— 経営論的転回とNPO
(1)「企業」と「市民社会」の邂逅 —— 新たな不分明地帯の上昇
(2)「NPO」の上昇 —— 経営主体としての「市民」
6 〈終焉〉後の風景 ——〈贈与〉と〈政治〉の場所
(1)剥落する〈贈与〉と〈政治〉
(2)「新しい公共」
(3)ケア倫理との接続/離脱
終 章 〈贈与〉の居場所
—— まとめと含意
1 〈贈与のパラドックス〉の展開の果て —— 知見の整理
(1)博愛主義者の談話室
(2)〈誕生〉と〈終焉〉
(3)反復される自己肯定
2 動員モデルを再考する
(1)動員モデルの限定的解除 —— 楕円の再構築と複数化
(2)参加所得と消極的動員
(3)時間をかけること
3 シニシズムをくぐり抜ける
(1)シニシズム/転移
(2)排除型社会の《倫理的正しさ》を超えて
注
あとがき
参考文献
図表一覧
索 引
受 賞
書 評
『みすず』(2020年1・2月合併号、読書アンケート特集、評者:石田雄氏)
「academist journal」(2019年4月10日・12日、インタビュー記事)
『社会学評論』(第63巻第1号、2012年、評者:安達智史氏)
『大原社会問題研究所雑誌』(第643号 2012年5月、評者:山岡義典氏)