内 容
〈土地〉との絆/切断は思想や芸術にとって何を意味するのか? ——〈土地〉に結びついた美を称揚するラスキンの思想を出発点に、「祖国」や「大地」をめぐる同時代の政治的・社会的文脈を背景としながらも、『失われた時を求めて』に結実する独創的な小説美学をつくりあげていったプルースト。その思考の足どりを、美術館やモニュメント、書物などの主題のうちにたどり、新たな言葉の生成に立ち会う。
目 次
凡 例
序
第Ⅰ部 美術館と〈土地〉をめぐる芸術論
第1章 プルーストと美術館というトポス
1 プルーストが描いた「美術館の一室」
2 「黄金の聖母」像と〈土地〉の絆
3 「モナ・リザ」と芸術作品の普遍性
4 芸術と〈土地〉—— 2つのベクトルの萌芽
第2章 鉄道駅と美術館とのプルースト的交錯
1 テオフィル・ゴーチエと鉄道駅
2 プルーストとサン=ラザール駅
3 広告ポスターと〈土地〉の夢想
4 鉄道駅と美術館との交錯 —— 絆の切断を志向する美学
第3章 プルーストと〈展覧会〉をめぐる問題
1 2つの潮流の拮抗
2 〈展覧会〉という中心点
3 作品の移動 鑑賞者の移動
4 芸術家の使命 —— 作品の場所についての思考
第Ⅱ部 〈土地〉の記憶に注がれた視線
第4章 批評家アンドレ・アレーとの距離
1 プルーストと「そぞろ歩き」
2 大聖堂の「死」をめぐる思索
3 「アレー主義」からの乖離
4 アレーとネルヴァル ——〈土地〉への視線の差異
第5章 古典復興運動とプルーストのネルヴァル観
1 起源への回帰 —— 20世紀初頭の古典復興運動
2 歪められたネルヴァル像
3 古典復興運動に抗して
第Ⅲ部 〈土地〉の破壊と芸術創造
第6章 崩れ去るヴェネツィアと〈土地〉の記憶
1 モニュメントという記憶装置
2 ヴェネツィアをめぐる熱狂と対立
3 〈無国籍者〉アルベルチーヌの肖像
4 「ヴェネツィアの廃墟」に秘められた意味
第7章 第一次世界大戦と〈土地〉の破壊
1 プルーストと第一次世界大戦
2 ランス大聖堂とサン=チレール教会
3 コンブレーの破壊 ——〈土地〉の記憶との訣別
終 章 書物について ——「個」と「普遍」
あとがき
注
文献一覧
図版出典一覧
索 引
書 評
『みすず』(2010年1・2月合併号、評者:柿沼敏江氏、野崎歓氏)