内 容
「太陽は私に、歴史がすべてではないことを教えてくれた」——。植民地に生まれ地中海を跨いで活躍した『異邦人』の作家は、なぜ、いかにして歴史に抗ったのか。『最初の人間』に至る小説創造と、アルジェリア時代や戦中・戦後に展開された政治的・哲学的思索を合わせ捉えることで、歴史と非‐歴史の境界で思考し続けたカミュの軌跡を鮮やかに照らし出す。「植民地主義者」との断罪を超え、現代にカミュを甦らせる力作。
目 次
凡 例
序 章 境界の作家カミュ
第Ⅰ部 カミュの政治的思索と非−歴史性のモラル
第1章 カミュは植民地主義者か否か
第2章 アルジェリア時代のカミュの政治参加
1 カミュの政治活動の概観
2 「土着の文化、新しい地中海文化」
第3章 ルイ・ベルトランの伝統主義的チパザ像
第4章 植民地主義的言説の解体としての『結婚』
第5章 街の共同体と「男」のモラル
第6章 無関心=無差異のモラル
第Ⅱ部 歴史の不在と小説創造の問題
第1章 小説創造という野望
第2章 瞬間の美学
1 特権的瞬間(1)—— 生の停止
2 特権的瞬間(2)—— 母と息子の関係
第3章 小説創造の失敗
1 「ルイ・ランジャール」と自伝的テクストにおける「過去の現在化」
2 『幸福な死』と因果論の否定
第4章 「反歴史=反物語」としての『異邦人』
第Ⅲ部 歴史への参入
第1章 非−歴史性のモラルの継続と放棄
第2章 対独レジスタンスという選択
第3章 モーリヤックとの論争
—— 対独協力者粛清問題をめぐって
第4章 悔悛から歴史主義批判へ
—— 1945年9月の転換点
第5章 歴史主義批判から共産主義批判へ
第6章 『反抗的人間』と歴史をめぐる論争
第7章 ロラン・バルトとの『ペスト』をめぐる論争
第Ⅳ部 歴史と忘却
—— 反歴史小説としての『最初の人間』
第1章 アルジェリア戦争におけるカミュの立場
第2章 父の探索
—— 忘却された歴史
第3章 アルジェリアの植民者の歴史と歴史記述の問題
第4章 歴史/非−歴史
終 章 無垢性の回復に向けて
あとがき
注
索 引