内 容
作品への途上で言葉に生じた数々の〈事件〉—— 漱石から賢治にいたる日本の近代文学やフローベールをはじめとする西洋の文学・芸術、さらには言語学者ソシュールの草稿を読み解くことを通して、〈書くこと〉とは何かを問い、その深淵に明滅する豊饒な複数性を明るみに出した労作。
目 次
第Ⅰ部 生成論とは何か
第1章 闇のなかの祝祭
—— なぜ草稿を読むのか
1 「これがあれを滅ぼすだろう」
2 草稿への誘い
3 近代的草稿の誕生
4 作者・本文・草稿
5 闇のなかの祝祭
6 生成論とは何か
7 テクスト概念をめぐって
第2章 草稿の類型
1 前=テクストとは
2 オートグラフとアログラフ
3 外的生成・内的生成・自己生成
4 構造的生成と文体的生成
5 即興的な書法と方法的な書法
6 前推敲段階
7 推敲段階
8 前刊行段階
9 編集・刊行段階
第3章 生成論の方法
1 草稿の蒐集と類別
2 分類・判読・転写
3 『感情教育』草稿の静態的分類と動態的分類
4 生成批評版の作成
第4章 生成論の歴史
1 本文校訂と近代的テクスト概念
2 草稿の蒐集と保管の始まり —— 19世紀フランスの場合
3 創作の詩学
4 文学作品における〈書く〉ことの主題化
5 草稿研究の進展と生成論の興隆
第Ⅱ部 生成論的読解の試み
第1章 『こゝろ』論(1)
—— 沈黙するK
1 二重の〈沈黙〉
2 忘却された秘密 —— 主と食客
3 Kの「切ない恋」
4 「思ひがけぬ心」
5 遺書から「私」の手記へ
6 観点の複数性
第2章 『こゝろ』論(2)
——〈自由な死〉をめぐって
1 〈自由な死〉の幻想
2 イロニーの誕生 —— 註釈から批評へ
3 〈自由な死〉の不可能性
4 父親の死
5 編集する「私」/変貌するテクスト
第3章 『こゝろ』論(3)
—— 虚構化する手記
1 本名・先生・頭文字
2 遺書公表と著作権の侵害
3 プライバシーの侵害と本名の回避
4 自己検閲と手記の虚構化
5 アポリアの生成と起源の廃棄
第4章 「舞姫」論
—— 忘却のメモワール
1 戦略としてのメモワール
2 〈ロマンティック・ラブ〉とエリスの欲望
3 あはれなる狂女
4 他者の言葉の影
5 〈書く〉ことと鏡の誘惑
第5章 「鼻」論
—— 鏡の物語
1 草稿の整理と分類
2 語り手の変貌
3 結末をめぐって —— 円環構造の誕生
4 鏡の物語
第6章 『銀河鉄道の夜』論
—— 未完の草稿とは何か
1 エチュードとしての『銀河鉄道の夜』
2 初期形二と初期形三
3 初期形三と最終形 ——「ぼんやりと白いもの」
4 幻想世界と銀河宇宙論
5 最終形における銀河・他者・死
6 揺らぐ初期形三の本文
7 未完の草稿としての『銀河鉄道の夜』
第7章 『ボヴァリー夫人』論
—— ベルトーの挿話の変貌をめぐって
1 「無の上に築かれた書物」
2 『ボヴァリー夫人』の草稿
3 ベルトーの挿話の筋書き
4 ベルトーの方へ
5 なぜシャルルはベルトー通いをするのか
6 ルオー爺さんの訪問の案出
7 ベルトーへの回帰
8 匿名的な〈人〉の宰領
9 二人の誘惑者 —— ルオー爺さんとオメー
第8章 『感情教育』論
—— 恋愛の物語と金銭の物語の〈間〉
1 『感情教育』の草稿と本文
2 「手帖十九」——「最後の出会い」の構想と金銭問題の浮上
3 筋書きにおける小説の構想
4 アルヌー夫人の招待(第二部一章・二章)
5 第二部三章・四章の筋書き
6 アルヌー夫人の訪問(第二部三章)
7 アルヌー夫妻の謎の沈黙(第二部三章)
8 アルヌー夫妻の失踪と「最後の訪問」—— 結末の筋書きを読む
9 アルヌー夫妻の失踪と「最後の訪問」—— 下書きから最終稿へ
10 未完の詩学
第9章 ソシュールと『一般言語学講義』の間
1 ソシュールの沈黙と未完の草稿
2 『講義』の成立過程
3 第三回講義の順序
4 「初歩的な真理」の削除
5 「支離滅裂」に陥ったソシュール
6 恣意性の深淵
7 循環の迷宮
8 言語という深淵
第Ⅲ部 生成論の地平
第1章 〈未完〉のプロブレマチック
1 〈前=テクスト〉概念の再考と〈未完〉のプロブレマチック
2 〈未完〉の類型
3 〈未完〉の美学
第2章 エクリチュールの生成の論理
1 近代以前の草稿と推敲
2 推敲の機制
3 改変の操作とその機能
4 推敲の条件としての「記号の意味の無限定の伸延性」
5 作家論と生成論
6 二重の〈学〉としての生成論
あとがき
初出一覧
引用図版出典一覧
索 引
受 賞
書 評
『みすず』(2022年1・2月合併号、読書アンケート特集、評者:郷原佳以氏)
【朝日新聞書評】