内 容
レギュラシオン理論、ポスト・ケインジアン、進化経済学など、非新古典派経済学の諸理論を統合し、資本主義経済の多様性とダイナミズムを、制度の観点から鋭く分析した好評テキスト。諸理論の最新の成果を幅広く盛り込んだ本書は、新古典派経済学へのオルタナティヴを提起する。
目 次
序 章 社会経済システムへの制度論的アプローチ
1 マルクスとケインズを超えて
(1) 21世紀のマルクスとケインズ
—— なぜ、マルクスとケインズなのか?
(2) マルクスとケインズの遺産
(3) 社会経済システムの制度分析に向けて —— 貨幣と 「賃労働関係」
2 制度分析の基礎概念
(1) 「制度の経済学」 の現在と制度論の構想
(2) 「制度」 をどのように理解するか
(3) 制度分析への接合論的アプローチ
3 社会経済システムのなかの資本主義と本書の構成
コラム 「制度の経済学」 の諸潮流
第1章 貨幣・市場・資本主義
1 貨幣と市場
(1) マルクス理論における貨幣と市場
(2) 貨幣の存在論
(3) 若干のインプリケーション
(4) 貨幣の資本への転化
2 市場システム
(1) 制度としての 「貨幣」 と 「市場」
(2) 市場メカニズムの貨幣論的解釈
(3) 市場システムの制度論的解釈
3 資本主義システム —— 市場・賃金関係・賃労働関係
(1) 「利潤」 と 「資本主義システム」 —— マルクスの問題提起
(2) 「貨幣的従属」 と 「賃金関係」
(3) 「利潤の源泉」 論と 「賃労働関係」
コラム Circulation Approaches
第2章 資本循環と貨幣的生産理論
1 貨幣システムと資本循環
(1) フローとしての貨幣とストックとしての貨幣
(2) 資本循環
(3) 資本価値の減価と増価
(4) 資本循環と経済制度
2 ケインズの 「企業家経済」 と有効需要論の貨幣的基礎
(1) 企業家経済と共同経済 —— ケインズとマルクスの一接点
(2) 有効需要の原理と貨幣的生産理論
(3) 「貨幣数量説」 批判
3 信用創造と所得形成
(1) 貨幣循環と信用創造
(2) 所得形成と 「費用の二重性」
(3) 企業と労働者の貨幣的非対称性
4 信用貨幣と現代金融システム
(1) 資本循環と金融システム
(2) 内生的貨幣供給と金融システム
(3) 利子率の決定と 「流動性選好論」
(4) ミンスキーの金融不安定性仮説
(5) 金融システムの制度的多様性と不安定性
補論 現代金融政策の制度分析
コラム ポスト・ケインジアンの理論的課題
第3章 企業組織と雇用システム
1 労働力の 「商品化」 と 「賃労働関係」
(1) 労働力 「商品」 の特殊性
(2) 「賃労働関係」 —— ミクロとマクロをつなぐ媒介概念
(3) 「賃労働関係」 と消費 —— 社会経済的な含意
2 労働市場と賃金構造
(1) 2つの労働市場像
(2) 労働市場の不完全性
(3) 内部労働市場と労働市場の分断化
(4) 賃金と雇用
(5) 雇用システムの多様性
3 企業組織の制度分析
(1) 企業の本質 —— その多面性
(2) 企業組織への契約論アプローチ
(3) 企業組織への能力論アプローチ
(4) 企業組織への2つのアプローチに関する要約
(5) 株式会社制度とコーポレート・ガバナンス
4 ビッグ・ビジネスの体制と寡占企業の理論
(1) 株式会社時代の経済学と 「マーシャルのディレンマ」
(2) 不完全競争の理論
(3) 寡占的市場構造の成立と価格決定
(4) 寡占的産業組織、企業成長、そして投資
補論 日本企業のコーポレート・ガバナンス改革の行方を考える
コラム 「企業の経済学」 前史
—— 「点」 としての企業から 「組織」 としての企業へ
第4章 資本蓄積の理論
1 動態的調整の制度分析
(1) 市場的調整と制度的調整の重層的連関
(2) 「賃労働関係」 の制度化による 「調整」 とその構造効果
(3) 制度の補完性と調整の構造的両立性
2 資本蓄積モデル (構造的カレツキ=カルドア・モデル)
(1) 利潤率の決定要因と稼働率-利潤率関係
(2) 設備投資の決定
(3) 労働生産性上昇の重層的規定要因
—— 労働保蔵効果、産業予備軍効果、カルドア=ヴェルドーン法則
(4) 貨幣賃金率の決定要因と実質賃金の変動
(5) 基本モデルの方程式体系
3 資本蓄積の動態 —— 資本蓄積のレジームアプローチ
(1) 資本蓄積と所得分配
(2) 資本蓄積レジームの多様性と比較成長体制分析
(3) 諸制度の 「構造的両立性」 と累積的因果連関
(4) 景気循環の諸要因と諸類型
4 戦後資本主義の 「黄金時代」 とマクロ経済構造
(1) 戦後資本主義の制度的特徴と利潤率の長期的変動
(2) 「黄金時代」 の成長パターン
(3) 「黄金時代」 の行きづまり
5 失業とインフレーション
(1) ケインズ型失業とマルクス型失業
(2) インフレーション
(3) スタグフレーションとコンフリクト理論
(4) マクロ経済変動が経済主体の期待や行動へ与える影響
—— 「制度論的ミクロ・マクロ・ループ」 再論
補論 景気循環と成長の基礎理論
コラム レギュラシオン理論と SSA 理論
第5章 所得分配と社会的再生産
1 剰余アプローチと再生産
(1) 2つの経済把握
(2) 投入産出表
(3) ケネー・マルクス・スラッファ —— 再生産論の系譜
(4) 「剰余アプローチ」 の制度論的解釈
2 所得分配論の基礎
(1) 限界生産力説 vs. 労働価値説
(2) マルクスの所得分配モデル
(3) ポスト・ケインジアン (ネオ・ケインジアン) の所得分配モデル
(4) 3つの所得分配モデルに関する総括
3 市場・所有・分配
(1) 市場経済と所有制度
(2) 所有と権力
補論 分配の公正・平等化をめぐって : ロールズとセン
コラム 経済格差の拡大を考える
第6章 資本蓄積の構造変化と国際経済関係
1 資本蓄積の構造変化
(1) 技術体系の変化 —— 技術パラダイムと SSI
(2) 賃労働関係の変化 —— 労使コンフリクト
(3) 生産組織と労働市場のフレキシビリティ
(4) 脱工業化と産業構造の進化
2 国際貿易と資本蓄積
(1) 国際収支
(2) 為替レートの決定
(3) 国際競争力
(4) 開放体系における成長パターン
—— 輸出主導型成長と内需主導型成長
(5) 国際経済関係と為替レート・産業構造・価格体系
3 「グローバリゼーション」 のなかの貨幣・資本と労働
(1) 対外直接投資と多国籍企業
(2) 多国籍企業と 「労働の国際化」
(3) 「グローバリゼーション」 のもとでの金融システムと賃労働関係との構造的両立性
(4) グローバリゼーションのもとでの制度変化と社会経済システムのガバナンス
おわりに —— 社会経済システムの制度分析の発展にむけて
関連書
『ケインズ経済学の再生』 P. デビッドソン 著/永井 進 訳
『現代制度派経済学宣言』 G.M. ホジソン 著/八木紀一郎・橋本昭一・家本博一・中矢俊博 訳
『新版 経済思想史』 大田一廣・鈴木信雄・高 哲男・八木紀一郎 編