内 容
近世の仮名遣い論の核心には古代日本語音声の発見があった。抽象的な音声中心主義批判とは一線を画す、実証的な学説史の視点から、契沖・宣長などの巨人のみならず、知られざる音韻家や国学者たちの拓いた学理の地形を周到かつスリリングに辿る。未紹介資料『喉音仮名三異弁』『同弁正』の影印収録。
目 次
序 章
第1章 日本語学説史における「音韻」の問題
1 何故「音韻」を問題にするか
2 古代の「音韻」
3 中世の「音韻」
4 『韻鏡』の輸入と韻鏡注釈の自立
5 世俗的学問としての「音韻之学」の成立
6 近世後期の音韻学の展開
7 本居宣長と日本音韻学の完成
第2章 いろは歌から五十音図への交替
—— 契沖『和字正濫鈔』の意義
1 「歴史的仮名遣い」への疑問
2 契沖『和字正濫鈔』「漢文序」の意図
3 巻一の理論構成
4 自筆稿本『和字正濫鈔』と『和字正濫通妨抄』に見る契沖の意図
5 『和歌童翫抄』の仮名遣い論
6 楫取魚彦『古言梯』の方法論
7 五十音図と古代音声の自覚へ
第3章 日本語音声の自覚へ
—— 文雄『和字大観鈔』の意義
1 韻鏡注釈の自立と世俗化
2 仮名遣いの本質規定と日本語音声の自覚
第4章 「喉音三行弁」と近世仮名遣い論の展開
1 いろは歌から五十音図へ ——「喉音三行弁」と仮名遣い
2 三内説から五音へ —— 音図解釈の転換
3 「喉音三行弁」の観念の成立と展開
4 本居宣長「おを所属弁」の歴史的必然性
第5章 「おを」の行所属と本居宣長『字音仮字用格』
1 喉音三行弁と『字音仮字用格』
2 宣長以前の「おを」の行所属の観念
3 「喉音三行弁」の論構成
4 古代母音「お(o)」の発見と行所属の是正
第6章 「喉音三行弁」論争史
1 学説史における「喉音三行弁」論争の意義
2 契沖の苦悩と栄光
3 文雄による喉音三行弁の規定
4 田中大観『喉音仮名三異弁』の批判
5 文雄『喉音三異弁弁正』の反批判
6 宣長『字音仮字用格』「喉音三行弁」の独創性
7 忘れられた学者礪波今道と『喉音用字考』
8 太田全斎『漢呉音図』の学説史的意義
9 東条義門『於乎軽重義』の「開合」論
10 奥村栄実『古言衣延弁』と喉音三行弁
11 平田篤胤『古史本辞経』の「喉音三行弁論」
12 その後の仮名遣い論
第7章 礪波今道『喉音用字考』と『呵刈葭』論争
1 礪波今道とは何者か
2 『韻鏡』図に基づいた「喉音三行弁」の規定
3 上代における舌内撥韻尾と唇内撥韻尾の区別の発見
4 『呵刈葭』論争における上田秋成をどう評価するか
第8章 五十音図の学理の完成
—— 東条義門『於乎軽重義』の意義
1 『於乎軽重義』再評価の可能性
2 義門以前の喉音三行弁論の経緯
3 『於乎軽重義』上巻の内容
4 『於乎軽重義』下巻の内容
第9章 五十音図上代実在説と神世文字
—— 平田篤胤の論理
1 喉音三行弁と日本音声学
2 神世文字説の提案
3 五十音図上代実在説の登場
4 『古史本辞経』の五十音図説
5 平田篤胤の考証方法について
終 章 古代人のこゑ(声)を聞く
—— 音声研究と民族主義
1 すべてが仮名遣いから始まった
2 音声言語研究と近世の仮名遣い論
3 音声学の誕生と民族主義
4 その後の喉音三行弁と五十音図
資料編 『喉音仮名三異弁』『同弁正』東京大学文学部国語研究室蔵(影印)
注
あとがき
初出一覧
図版一覧
索 引