内 容
日本の発展を導いたのは、日銀中心の銀行システムだけではなかった。現代の郵便貯金や農協に連なる系譜をもつ「大衆資金ネットワーク」が地方経済の安定と成長に果たした役割を、資金供給の実例や制度設計から解明。見過ごされてきた半身に光を当て、経済成長の条件を問い直す意欲作。
目 次
序 章 個人少額貯蓄と日本の経済発展
1 近代化を支えた大衆資金ネットワークとは
2 分析対象と研究史上の位置づけ
3 構成と手法
第Ⅰ部 集める・回す
第1章 農村在来経済の発展を支えたもの
—— 忘れられた金融インフラ
1 はじめに
2 日本の近代化とその基盤
3 個人貯蓄による資金形成
4 日本経済における大衆資金の規模
5 小 括
第2章 郵便貯金の誕生
—— 個人少額貯蓄収集システムの形成
1 はじめに
2 個人向け貯蓄機関の登場 —— 郵便貯金制度の成立
3 貯蓄習慣の広がり —— 郵便貯金の普及過程
4 小 括
第3章 産業組合の形成と発展
—— 自己循環するマイクロクレジット
1 はじめに
2 新たな少額金融の担い手 —— 産業組合と地域社会
3 和産業組合の設立
4 和産業組合の経営発展
5 その後の展開と小括
第4章 郵便貯金の地方還元
—— 再分配機構としての大蔵省預金部
1 はじめに
2 預金部とは何か —— 制度的起源と運用方針
3 1914年の緊急融資 —— 重要輸出産業救済融資の概観
4 救済融資の発動過程と機能 —— 長野県の事例から
5 小 括
補 論 大蔵省預金部改革
—— 巨額資金運用の諸問題と諮問委員会
1 はじめに
2 改革以前の預金部の姿
3 大蔵省預金部資金運用委員会の役割
4 小 括
第Ⅱ部 分かち合う
第5章 恐慌・災害救済融資の拡大へ
—— 戦間期の産業組合と中央金庫の成立
1 はじめに
2 恐慌下農村への救済資金供給 —— 大規模霜害への対応
3 長野県内における融資状況 —— 個別事例の検討
4 小 括
第6章 セーフティネットとしての産業組合
—— 産業構造的不況を越えて
1 はじめに
2 戦間期の和産業組合をめぐる背景
3 産業組合間の連携に向けて —— ネットワーク形成の模索
4 長期不況下の和産業組合
5 小 括
第7章 産業組合不在の影響
—— 満洲移民の背景
1 はじめに
2 清内路村という事例
3 恐慌からの救済に向けて —— 中央の政策と地域社会
4 セーフティネット提供の限界と満洲移民政策
5 その後の状況と小括
第8章 戦後日本へ
——「もう一つの金融システム」としての郵便貯金と農協
1 はじめに
2 統計的概観
3 制度的連続性と断絶性 —— 大蔵省預金部から資金運用部へ
4 協同組合系金融機関の展開 —— 産業組合から農協・信組へ
5 その後の展開 —— 大衆資金ネットワークと現代日本経済
終 章 近代化の淵源としてのもう一つの金融システム
—— 市場経済の荒波への防波堤
1 社会基盤としての大衆資金ネットワークの力
2 「もう一つの金融システム」と現代日本経済
注
参考文献
あとがき
初出一覧
図表一覧
索 引
書 評
『農業経済研究』(春季号、2020年3月、第91巻第4号、評者:泉田洋一氏)
『経済研究』(第70巻第4号、2019年10月、評者:寺西重郎氏)
『経済セミナー』(2019年6・7月号、通巻708号、評者:小島庸平氏)