内 容
中国のめざましい経済発展とともに、あらためて海外華人の世界に注目が集っている。本書は、国内政治ばかりか国際関係をも規定する、華人移民と国家とのせめぎあいのポリティックスを、シンガポールとマレーシアを中心に、政治的アイデンティティの変容と国民統合の過程に焦点をあてて描き出すとともに、華人をめぐる東南アジア諸国と中国との関係を眼光鋭く分析した労作である。
目 次
序 章
第Ⅰ部 東南アジア華人世界の変容
第1章 英領マラヤ、シンガポールの華人移民
はじめに
1 19世紀以前の華人移民
2 複合社会の形成
3 移民コミュニティの形成
4 華人コミュニティの発展
5 日本占領下の華人コミュニティ
第2章 マラヤ、シンガポールの国家形成と華人
—— 移民の国籍問題
はじめに
1 歴史的背景
2 華人の排除 —— マラヤ連合からマラヤ連邦へ
3 市民権資格の緩和
4 中国側の対応
5 マラヤ連邦の独立
6 シンガポール市民権
7 マレーシア連邦とその後
おわりに
第3章 マラヤの華文文学
—— 移民のアイデンティティ変容
はじめに
1 社会的背景
2 馬華文学の独自性
3 新文学の誕生 —— 1919~25年
4 現地化の始まり —— 1925~35年
5 抗戦文学 —— 1935~42年
6 「独自性」論争 —— 1947~48年
7 「反黄」運動 —— 1953~55年
8 1960年代以降の華文文学
おわりに
第4章 シンガポールの言語統合
はじめに
1 多言語社会の形成
2 独立へ向けての言語統合
3 四言語の平等
4 英語を共通語とする国民統合
5 二言語教育の強化
6 「華語を話そう」運動
7 1980年の多言語状況
8 1990年の言語状況と90年代の変化
おわりに
第5章 シンガポールの儒教教育
—— 1984~89年
はじめに
1 中国的伝統への回帰
2 「日本に学ぶ」
3 儒教教育の導入に向けて
4 儒教キャンペーン
5 儒教教育の内容
6 儒教教育の廃止
おわりに
第6章 シンガポールの中国政策
—— 1970年代の転換
はじめに
1 シンガポールの「中国性」と外交政策
2 ラジャラトナム外相の訪中
3 リー・クアンユー首相の訪中
4 鄧小平副首相のシンガポール訪問
おわりに
第7章 シンガポール華人の中国観
—— リー・クアンユーの場合
はじめに
1 安定の優先
2 アジアにおける民主と人権
3 香港の将来
4 「海峡華人」
5 政治的「中国化」
6 中国的伝統への回帰
おわりに
第Ⅱ部 中国の華僑華人政策
第8章 中国の対外関係と東南アジア華人
はじめに
1 歴史的背景
2 中国の華僑政策
3 東南アジアにおける華人
4 中国の「改革開放」と華人ネットワーク
おわりに
第9章 カンボジア紛争
—— 中国・東南アジア関係の転換
はじめに
1 歴史的背景
2 カンボジア紛争と中国の立場 —— 1979~88年
3 中国とベトナム
4 中国と ASEAN 諸国
5 中国とカンボジア問題
おわりに
第10章 華僑農場の変容
はじめに
1 「国内華僑」の存在意義
2 華僑農場の沿革
3 華僑農場の現状
4 現地調査による事例研究
5 華僑農場の構造的問題
おわりに
終 章
注
あとがき
参考文献
索 引
受 賞
関連書
『国際移民の時代[第4版]』 S.カースルズ,M.J.ミラー 著/関根政美・関根 薫 監訳