内 容
良心の警告、良心の呵責、そして後悔 ——。良心とは何か? 良心はなぜわれわれを動かすのか? 正義論の手前にあるこの問いを、「共に知る」という言葉の原義から出発して、プラトン以降の哲学的良心論を参照しつつ解き明かし、欲望と方位喪失の時代に提示した注目の論考。
目 次
はじめに
第1章 「良心」の原義
日本語の「良心」の由来
「共に知る」
「共に知る」というキーワードを確保する理由
だれと共に知るのか
第2章 「世間と共に知る」と「神と共に知る」
1 「世間と共に知る」
2 「神と共に知る」
「神と共に知る」長い歴史
「神と共に知る」という意味の根強さ
カール・バルトによる「神と共に知る」良心の復興
第3章 「自己自身と共に知る」
1 ソクラテスの「自己自身と共に知る」
「ダイモニオン」?
無知の知
徹底して「自己自身と共に知る」
愛知者は死を恐れない
「世間と共に知る」ことの拒絶
2 ストア派の良心論
キケロ、セネカ
マルクス・アウレーリウス
反省作用としての良心
3 「自己自身と共に知る」良心の近世における端緒 —— デカルト
『情念論』?
暫定的道徳にひそむ良心論
決定的道徳における良心の樹立
「コーギトー(われ思う)」の射程
精神の能動としての良心
「かつて……一人もいません」の真意
第一道徳律とデカルト哲学のふくよかさ
4 合理主義の良心論とその体系
ヴォルフら
ルソーの良心論
良心の体系
5 良心法廷説 —— カント
その典拠
良心法廷は虚構か
「自己自身」とは何か —— どのようにして可能か
内なる他者
いわゆる「自己原因」の不合理性
二重の自己
良心法廷の特殊性 —— 立法・司法は未分立である
自律の真の意味
6 「呼び声」としての良心 —— ハイデガー、ヤスパースとの関連で
「呼び声」説の長い歴史
「呼びかけ」とは何か
何ゆえに鐘は鳴る?
「呼びかけ」から「声」へ —— 道徳法則と良心の声
法廷としての良心と声としての良心
良心を中立性
7 良心に対する反逆者の良心 —— ニーチェ
良心の発生論
知的良心
知的良心の発生
美的良心、趣味としての良心
「良心の自由」とその試練
責罪ということ
第4章 良心の三法則
1 不知不可能性の法則(良心の第一法則)
良心は「知らない」ということができない
共に知ることからの逃亡 —— ペテロの場合
ユダの良心
ペテロの自己回復
2 絶対不謬性の法則(良心の第二法則)
良心は「間違うことができない」
形式的良心性 —— ヨブの場合
因果応報?
良心と心
疚しさのない良心
疚しい良心の知も真である
間違う良心?
3 時間性の法則(良心の第三法則)
良心の作用は時間の流れと共に強くなる
警告する良心
良心時間の未来性
後悔は未来性の上に成り立つ —— 沈殿する未来性
警告する良心はあらゆる良心現象の公分母である
「償い」も未来性の上に成り立つ
「べし」は沈殿するだけでなく、醸成する
「未完の過去」とその救済
時間の治癒作用と覚醒作用
『マクベス』の場合
『復活』の場合
4 良心の超時間性
超時間から時間への作用
良心に時効はない
良心の超時間性の法則 —— 第一、第二法則を回顧する
あらかじめ考える —— プロメーテウス
第5章 共同体としての自己
共同体としての自己
伝統的な意味での個人と共同体
「共同体としての自己」の拡大
二人称「汝」の成立
ブーバーの根源語 ——「我-汝」
コーヘンにおける自我の根源
「世間と共に知る」への頽落
共同体に必須な不協和音 ——「~べし」の衝突
非共同体的共同体としての良心
「スキエンティア」から「コンスキエンティア」へ
——「コンスキエンティア」としての哲学
おわりに
未だないものの現在
希望という刑 —— 希望の逆説
あとがき
注
事項索引
人名索引
著者の既刊書
関連書
『人間本性考』 A.O.ラヴジョイ 著/鈴木信雄・市岡義章・佐々木光俊 訳
『自我の源泉』 チャールズ・テイラー 著/下川 潔・桜井 徹・田中智彦 訳
『ロボットからの倫理学入門』 久木田水生・神崎宣次・佐々木 拓 著