内 容
幕末の開港はアジアへの開港でもあった。—— 本書は、華僑や印僑らが織りなす、非公式的かつ脱領域的なアジア通商網の存在と、それへの日本の対抗と依存を通じて、近代アジアのダイナミズムを析出するとともに、19世紀後半から戦前期までの日本の近代史を新たに捉え直した労作である。
目 次
緒 論 アジア通商網と日本近代史研究
1 本書の課題 —— 非公式的な経済主体と近代日本
2 日本近代史研究とアジア通商網
3 華僑、印僑を可視化する視角と「地域」
4 戦前期日本における「通商政策」の不在
5 日本近代史研究における「地域」
6 本書の構成
7 展 望
前編 近代における日本人通商網の形成と華僑
第1章 1880年代の華僑商人の台頭と日本の反応
—— 寒天小生産者の同業組合を事例に
はじめに
1 1880年代の日本における華僑の勢力拡大
2 日本の反応
3 寒天小生産者の同業組合結成
まとめにかえて
第2章 華僑通商網への対抗と対アジア直輸出態勢の模索
—— 昆布直輸出会社を事例に
はじめに
1 広業商会の挫折
2 日本昆布株式会社の限界
まとめにかえて
第3章 産業革命期日本の華僑通商網からの離脱
—— 中国棉花からインド棉花への移行に即して
はじめに
1 1890年代の神戸華僑の通商網
2 外国棉花輸入をめぐる新しい通商網の形成
3 日本製品輸出をめぐる華僑間競争
まとめにかえて
第4章 戦前期の日本人貿易商によるインド棉花の奥地買付活動
—— 東洋棉花ボンベイ支店を事例にして
はじめに
1 ボンベイ支店の重要性
2 「直買」の意義
3 1920年代後半からのインド人棉花商の台頭と「直買」の後退
4 1930年代の再編 —— まとめにかえて
後編 綿業国際通商摩擦とアジア通商網
第5章 1930年代のアジア通商網と日本
はじめに
1 1930年代のアジア国際通商秩序の概観
2 イギリス本国の対植民地輸入割当制の実施とアジア通商網
—— 英領マラヤの事例
3 アジア通商網の多様化と日本人織布業者の回復
4 印度輸出組合の輸出統制
まとめにかえて
第6章 第一次日印会商(1933~34年)の歴史的意義
—— 1930年代前半の日本綿業と政府
はじめに
1 対英領インド綿布輸出拡大の条件
2 通商摩擦の発生と対外協調路線
3 会商の経過
まとめにかえて
第7章 第二次日印会商(1936~37年)の歴史的意義
—— 日中戦争前の日本の経済外交
はじめに
1 日本綿業関係者と政府の距離
2 日本綿業関係者内の足並みの乱れ
3 日本の外交方針の転換 —— 日中「提携」論の台頭
4 イギリスの帝国主義的秩序とインド棉花輸出問題
5 日緬会商 —— 対イギリス協調の復活
まとめにかえて
第8章 日蘭会商(1936~38年初頭)の歴史的意義
—— オランダの帝国主義的アジア秩序と日本の協調外交
はじめに
1 オランダ本国と蘭領東インドとの利害の差
2 オランダ政府と綿業との距離
3 オランダ本国と蘭領東インドの接近
4 オランダ本国と蘭領東インド間の帝国経済秩序
5 日本の外交政策と民間
6 会商の経過
7 会商の「休止」
8 会商の再開
まとめにかえて
第9章 日中全面戦争後の華僑通商網
—— 神戸と東南アジアとの通商関係を事例に
はじめに
1 日中戦争後の神戸華僑と東南アジア
2 シンガポールの福建系華僑ルート
3 フィリピン華僑の経済力と安定性
4 タイ華僑の土着化と対日本開放性
5 蘭領東インドの消費財市場と華僑の対日本開放性
まとめにかえて
第10章 1940年代初頭の日本綿布取引をめぐるアジア通商網
—— 日本綿糸布輸出組合『南方地域向取引調』の検討
はじめに
1 1940年代初頭の日本綿布輸出
2 『南方地域向取引調』の概観
3 蘭領東インド
4 英領マラヤ
5 英領南アジア
まとめにかえて
あとがき
初出一覧
図表一覧
事項索引
人名索引