内 容
何が技術への適応化の成否を分けるのか —— 産業革命を経てアジアに「里帰り」した近代製糸技術が、日本・中国・インドで定着してゆく過程を、文献史料や統計データ、現地調査などに基づき総合的に比較分析。市場や企業家精神など技術への適応化を規定する要因を明晰に抽出した労作。
目 次
はしがき
第Ⅰ部 分析枠組みと分析対象
序 章 技術導入に対する分析視点
1 分析の対象と課題
2 「西欧の衝撃」と技術導入
3 「技術格差仮説」と技術の適応化
4 本書の構成と展開
第1章 近代製糸技術の成立とその「里帰り」
はじめに
1 ヨーロッパにおける近代製糸技術の成立
2 蚕糸技術の発展を支えた科学の進歩
3 製糸技術の「里帰り」
4 再びアジアから世界へ
むすびに
補節 蚕糸技術に関する主な専門用語の解説
第2章 世界の蚕糸業:その多様性
1 蚕の種類とその特性
2 蚕の起源と養蚕の西漸
3 野蚕:もう1つの世界
4 世界の家蚕糸生産
第Ⅱ部 日本における製糸技術の近代化
第3章 西欧技術の日本化とその後の独自な発展
はじめに
1 西欧製糸技術の導入:2つの型
2 折衷技術の開発と糸質の改良
3 夏秋蚕の発達と1代交雑種の開発
4 多條繰糸機の完成から自働化の時代へ
むすびに
第3章補遺 初期外国人製糸技術者の人名とブリューナおよびミューラー
第4章 適正技術を支えた労働力と労務管理
はじめに
1 製糸労働力およびその生産物の特質
2 製糸工場における労務管理
3 結論と含意
第5章 典型的な農村工業たる組合製糸の意義
はじめに
1 組合製糸の特質とその発展経緯
2 小幡村(群馬県北甘楽郡)の経済構造と組合製糸
3 農村立地型の営業製糸と組合製糸
4 結論と含意
第6章 適正技術の競争力の源泉:監督者層の近代化
1 問題への視角: 市場適応力と技術教育
2 製糸教婦の役割とその養成機関
3 需要構造の変化とそれへの適応
4 結論と含意
第Ⅲ部 中国蚕糸技術の展開
第7章 西欧製糸技術の導入と在来技術との共存
1 問題提起:生糸輸出の停滞
2 広東および上海における器械製糸技術
3 R&D 活動と日本技術の導入
4 結びに:技術的停滞の要因
第8章 野蚕製糸技術の共存と展開
1 分析の視角
2 柞蚕繭の移出から柞蚕糸の生産へ
3 製糸技術の改良
4 安東製糸業の発展と停滞
5 結論と含意
補節 戦後の柞蚕糸生産
第9章 蚕糸業の基盤整備と改良技術の普及
はじめに
1 器械製糸技術の普及
2 世界恐慌と基盤整備への着手
3 技術改良と普及体制の確立へ
むすびに
補節 留日教育の意義と評価
第9章補遺 茅盾の『春蚕』にみる在来蚕糸部門の停滞
第10章 現代中国製糸業の発展と技術水準の吟味
はじめに
1 製糸業全体の発展動向
2 製糸技術水準の検討
むすびに
第11章 工業調査にみる製糸技術の水準と労務管理
はじめに
1 調査の対象と方法
2 調査結果の概要
むすびに
第Ⅳ部 インドにおける蚕糸技術導入の困難性
第12章 西欧技術の導入と在来技術への同化
はじめに
1 ベンガル:西欧技術の同化と1化蚕の衰退
2 野蚕糸の生産とその影響
3 カシュミールおよびマイソールにおける技術導入の試み
4 結びに:適応化を左右する条件
第13章 インドの蚕糸技術水準の現状
はじめに
1 インドにおける生糸生産の現状とその技術的背景
2 製糸工場調査結果にみる繰糸技術の水準と労働力の質
3 高格糸生産の必要条件としての生産管理
むすびに
補節 熱帯蚕糸業の挑戦:2化性養蚕への転換
第Ⅴ部 技術導入と社会的適応力
終 章 技術導入の適応化とその規定要因
1 導入技術の定着をめぐって
2 適応力の規定要因
附録1 工場調査ならびに聞き取り調査の解説
附録2 聞き取り調査票および工場調査原票
参考文献
あとがき
索 引