書籍の内容
製造業を中心とする経済発展とその危機を、タイの事例を導きの糸に日本との比較も行いながら、工業化の担い手、イデオロギー、制度・組織を焦点として、「まるごと」捉えたアジア経済論。経済のグローバル化・自由化・IT化が喧伝される中、「モノ作り」と「ひと」の問題を見つめ直す。
書籍の目次
序 章 「キャッチアップ型工業化」とは何か
1 アジア経済論と日本経済論
2 「キャッチアップ型工業化」の2つの特徴
3 4つの前提と4つの批判
4 本書の狙い
コラム0-1 地域研究とアジア研究
コラム0-2 開発経済学を学びたい人のために
コラム0-3 アジア経済論を学びたい人のために
第Ⅰ部 視角と方法
第1章 視角: 政府、市場、制度・組織
1 NICs(ニックス)の衝撃
2 従属論、多国籍企業支配論、儒教資本主義論
3 新古典派経済学の復権と国家主義論の台頭
4 制度・組織論と企業システム論
5 アジア経済論と世界銀行報告
コラム1-1 NICsとアジアNIES
コラム1-2 アジアNICs・NIES論のアプローチ
コラム1-3 政治学の「制度・組織論」と経済学の「比較制度分析」
第2章 後発国モデル・雁行形態論・国の競争優位
1 後発国モデルの原型
2 後発性の利益と不利益
3 雁行形態論とプロダクトサイクル・モデル
4 「キャッチアップ型工業化」 モデル
5 「国の競争優位」 論
コラム2-1 宇野経済学と「後発国モデル」
コラム2-2 一橋大学グループと「後発国モデル」
第3章 工業化の社会的能力と「革新的結合」
1 工業化の社会的能力
2 政府、企業、職場の能力
3 シュムペーターの「新結合」と「創造的反応」
4 「革新」の発展段階論
5 アジアにおける企業家の「革新的結合」
6 「キャッチアップ型工業化」論の課題
コラム3-1 政府の能力とは何か
コラム3-2 日本の「革新」を描いたルポルタージュ
第4章 アジア経済:「奇跡」から「危機」へ
1 「世界の成長軸のアジア」と「東アジアの奇跡」
2 通貨・経済危機のプロセス
3 経済危機の説明: 3つの要因
4 IMF・世界銀行の方針と制度改革
5 タイ政府の経済社会再構築計画
6 通貨・経済危機と「キャッチアップ型工業化」
コラム4-1 バブル経済とは何か
コラム4-2 アジア通貨・経済危機論の文献案内
第Ⅱ部 イデオロギー、担い手、制度・組織
第5章 開発主義と「開発独裁」
1 開発主義とは何か
2 開発主義と政治体制
3 開発政策の展開と制度化
4 冷戦体制と経済開発
5 国民主義と成長イデオロギー
6 開発主義のゆらぎ
コラム5-1 アジア開発独裁論
コラム5-2 「ポスト開発論」と「開発と文化論」
第6章 輸入代替・輸出振興・産業政策
1 ミントの問題提起
2 一次産品輸出・輸入代替・輸出振興
3 もうひとつの輸出代替: NAIC型工業化
4 輸入代替の局面転換と産業政策
5 アジア諸国の産業政策
6 自由化政策と危機後の産業構造調整
コラム6-1 「二重経済モデル」とルイスについて
コラム6-2 アジア諸国の工業化戦略の文献案内
コラム6-3 アジア諸国の産業政策について
第7章 支配的資本の「鼎構造」と国営・公企業
1 後発国の企業の分類
2 アジア諸国の大企業と支配的資本
3 「三者同盟論」と「鼎構造論」
4 国営・公企業の発展
5 国営・公企業の産業基盤と設立背景
6 国営・公企業の民営化問題
コラム7-1 東南アジアの華人系企業と華人社会
コラム7-2 東南アジアの国営・公企業と軍・政治指導者
第8章 多国籍企業の役割と経済支配
1 多国籍企業とは何か
2 多国籍企業の産業基盤と独占的優位
3 企業国際化論と企業進化論
4 多国籍企業の経済支配とその制約
5 経済ブーム・経済危機と多国籍企業
コラム8-1 ハイマーの多国籍企業論の衝撃
コラム8-2 なぜ人々は多国籍企業の製品を買うのか?
第9章 ファミリービジネスとコーポレート・ガバナンス
1 ファミリービジネスと財閥
2 関係ネットワーク論と企業間関係の類型
3 ファミリービジネスと後発国工業化論
4 ファミリービジネスの所有と経営
5 CPグループの経営改革
6 ファミリービジネスの事業多角化
7 経済危機と「コーポレート・ガバナンス」
コラム9-1 家族資本主義と反工業的性格
コラム9-2 2つの「コーポレート・ガバナンス論」
第10章 技術移転と技術形成の能力
1 モノを作る技術: 3つの分類
2 技能形成の3類型
3 技術移転の発展段階論
4 技術形成の組織的能力
5 日本的生産システムのアジアへの波及
6 日本的生産システムの適用と適応
コラム10-1 日本的生産システムの文献案内
コラム10-2 トラック組立にみる多品種少量生産
コラム10-3 マレーシア・プロトン社のモデルチェンジ
第11章 労働市場と「管理と競争」
1 ドーアの「イギリスの工場・日本の工場」
2 労働市場の4つの特質
3 「働きやすい職場」と「管理と競走」
4 労働運動の抑圧と包摂
5 通貨・経済危機と労働問題
コラム11-1 工業化とインフォーマルセクター
コラム11-2 アジア労働問題・労働運動の文献案内
第12章 教育制度と学歴競争社会
1 教育制度と経済発展
2 「教育の経済学」から「経済の教育社会学」へ
3 資格制度教育と普通教育の大衆化
4 学歴と選抜・昇進の競争社会
5 受験競争と過労死社会
コラム12-1 教育社会学の文献案内
コラム12-2 タイの小説にみる教育と出世
終 章 「国の競争優位」論を超えて
1 2つの報告書
2 ポーターの「国の競争優位」の再検討
3 「キャッチアップ型工業化」の存続
4 「国の競争優位」を超えて
付 録 統計の探し方・読み方・作り方
1 国際機関の経済統計
2 統計を自分で探す
3 探した統計を読む
4 統計を自分で作る