内 容
物質循環などマクロな現象の統一的把握は、「元素の個性」に基づくミクロからのアプローチにより、初めて可能となり、その理解は地球史解読や将来の環境予測にも適用できる。本書は、XAFS法などの研究手法の基礎と、海底鉱物資源から地球外天体までの最新の成果を、系統的に解説。
執筆者
(執筆順)
高橋嘉夫(序・1・2・4・8・9・11章、コラム1-2・2-1・4-1・9-1)
福士圭介(第3・6・12章)
田中雅人(第5章)
柏原輝彦(第7・10章)
関根康人(第12・13章)
板井啓明(コラム1-1・10-1)
目 次
序 章 分子地球化学とは
—— 原子分子レベルから地球や環境をみるおもしろさ・重要さ
0.1 分子地球化学に向かう動機
0.2 Goldschmidtと分子地球化学
0.3 スペシエーション —— 元素の化学種を知る
0.4 「分子地球化学」の意義と本書の構成
第1章 元素の地球化学的分類と分子地球化学
1.1 揮発性元素と難揮発性元素 —— 元素の宇宙化学的分類
1.2 親鉄元素 —— 金属結合のでき易さと元素の挙動
1.3 親石元素 —— マントル-地殻間の元素分配とイオン結合
1.4 親銅元素 —— イオンのハード性・ソフト性と元素分配
1.5 イオンの水への溶解性と生物への移行
1.6 人為的な元素の再分配 —— 資源の開発や人為的高温燃焼過程
1.7 おわりに
コラム1-1 水銀の環境化学
コラム1-2 Rayleigh分別
第Ⅰ部 分子地球化学の基礎
第2章 化学熱力学
2.1 熱力学三法則と質量作用の法則
2.2 錯生成反応と溶解度
2.3 活量係数
2.4 酸化還元反応
2.5 固液界面の化学
コラム2-1 熱力学を用いたイオンの溶存状態の系統的理解
第3章 表面錯体モデリング
3.1 鉱物表面での吸着の重要性
3.2 表面電荷
3.3 溶質の吸着
3.4 おわりに
第4章 XAFS
—— 元素の化学種を知るツール
4.1 固相中の元素のスペシエーションとXAFS
4.2 XAFSの原理
4.3 XAFSの測定
4.4 標準的な測定例
4.5 応用的XAFS法
4.6 X線顕微鏡
4.7 おわりに
コラム4-1 正しいXAFSを得るために(ホール効果と厚み効果)
第5章 量子化学計算
—— 構造や反応を予測するツール
5.1 量子化学 —— 原子分子の状態を調べる物理化学
5.2 量子化学計算の基礎
5.3 基本的な量子化学計算
5.4 量子化学計算から得られる情報と地球惑星科学との接点
5.5 量子化学計算の地球・環境化学への適用
第Ⅱ部 固液界面と地球史・環境・資源
第6章 塩湖の地球化学
—— 沈殿生成反応の熱力学モデリングから探る
6.1 アルカリ塩湖と水質形成モデル
6.2 アルカリ塩湖の水質レビュー
6.3 モンゴル・アルカリ塩湖にみられるモノハイドロカルサイト
6.4 モノハイドロカルサイトの生成におよぼすマグネシウムの役割
6.5 非晶質炭酸マグネシウムの溶解度
6.6 アルカリ塩湖におけるMHCやAMC生成の意義
6.7 おわりに
第7章 海水/鉄マンガン酸化物界面の分子地球化学
7.1 海洋の鉄マンガン酸化物と分子地球化学
7.2 海水/鉄マンガン酸化物界面でのMoWの地球化学
7.3 他のオキソアニオンにも成り立つ元素の分配-吸着構造-同位体分別の関係性
7.4 吸着構造の規定要因
7.5 陸上の微生物起源鉱物から見出す吸着反応の促進・阻害因子
7.6 固液界面から探る過去の海水組成
7.7 おわりに
第8章 粘土鉱物への金属イオンの吸着と環境・資源
8.1 福島第一原子力発電所事故で放出された放射性セシウムの挙動解析
8.2 イオン吸着型鉱床中のレアアース(REE)の特徴
8.3 粘土鉱物への陽イオンの吸着の系統性
第9章 微量元素の固液分配反応の整理
9.1 陽イオン吸着に対する水酸化鉄と層状ケイ酸塩の比較
9.2 陽イオンおよび陰イオンに対するLFER
9.3 イオンの形状の効果 —— ヒ素とアンチモンを例に
9.4 元素の挙動のおおまかな予測
コラム9-1 バイオマテリアルを利用したレアアースの分離・回収
第Ⅲ部 生物圏・大気圏・地球外天体
第10章 植物体内への元素の移行
—— 重金属蓄積植物の放射光分析
10.1 重金属蓄積植物と分子地球化学
10.2 ヒ素高集積植物モエジマシダ
10.3 植物体地上部の放射光分析 —— 大気中での in vivo 測定
10.4 根の放射光分析 —— 凍結切片法を用いた生きたままの局所分析
10.5 前葉体の放射光分析 —— 組織構造の発達とヒ素の挙動の関係
10.6 おわりに
コラム10-1 生体中の微量元素のスペシエーション
第11章 大気成分の分子地球化学
—— エアロゾルの環境影響解明
11.1 エアロゾルの環境影響と元素のスペシエーション
11.2 黄砂による酸性物質の中和効果
11.3 エアロゾルの化学状態と地球冷却効果
11.4 エアロゾル中の鉄化学種-水溶解性-同位体比と海洋への寄与
11.5 おわりに
第12章 初期火星の水質復元
—— 地球外惑星への分子地球化学の適用
12.1 初期火星の水
12.2 放射性廃棄物地層処分分野で開発された水質復元法
12.3 火星ゲールクレータ
12.4 火星の水質復元
12.5 復元した水質に基づく初期火星古環境の描像
第13章 太陽系氷天体
—— Ocean Worldsにおける分子地球化学
13.1 外側太陽系とOcean Worlds
13.2 サポナイトが明らかにする初期太陽系の大変動
13.3 シリカが明らかにする太陽系における生命生存可能性
あとがき
巻末付表
索 引
書 評
『理学部ニュース』(2021年9月、自著紹介、東京大学大学院理学系研究科・理学部)
『化学』(2021年5月号、第76巻第5号、評者:平田岳史氏)