内 容
陸水学・生態学・土木工学・環境科学などを総合した視点から、下流河川や周辺植生を含めた環境にダムが与える影響をトータルに把握し、その緩和策を探る初の成書。新規ダム建設の可否の議論のためにも、また既存ダムの運用やダム河川の管理のためにも、有用な知見を与えよう。
執筆者
(執筆順)
村上哲生 (序章・2章・13章) 福島路生 (8章)
岩田智也 (1章) 谷田一三 (9章)
伊佐治知明(2章) 中村智幸 (10章)
広谷博史 (3章) 青木伸一 (11章)
高村典子 (4章) 吉村千洋 (12章)
浅見和弘 (5章・15章) 程木義邦 (13章)
梅原 徹 (6章) 竹門康弘 (14章)
林 義雄 (7章)
目 次
序 章 日本のダム湖とダム河川
1 ダム湖と天然湖との相違
2 ダム湖の分類
3 日本のダム陸水学研究の歴史
—— 特に、世間の注目を集めた話題を中心に
4 本書の構成
第Ⅰ部 ダム湖内の物質循環
第1章 ダム湖における温室効果気体の生成・循環過程
1 はじめに
2 陸水域の炭素循環
3 ダム湖の温室効果気体(GHG)
4 ダム湖におけるGHG生成・循環過程
5 今後の課題と展望
第2章 ダム湖内の栄養塩と一次生産
1 はじめに
2 ダム湖の形態、ダムの運用と一次生産
3 栄養塩の形態分別とダム湖での挙動
4 ダム湖の人為的富栄養化と水道の浄水処理への影響
第3章 ダム湖内のアルカリ性ホスファターゼ活性の分布と変動
1 はじめに
2 水圏のアルカリ性ホスファターゼ
3 流入河川水とダム湖水中のAPAの季節変動
4 サイズ分画中のAPA
5 河川水のAPA
6 ダム湖内APA鉛直分布の季節変動
7 細菌のAPAと培養温度
8 今後の課題と展望
第4章 ダム湖に出現するプランクトンの動態
1 はじめに
2 プランクトンを構成する生物
3 沖帯の食物網構造
4 プランクトンの量の応答
5 プランクトンの分類群の応答
6 プランクトンのサイズ構造の応答
7 プランクトンの多様性の応答
8 今後の課題と展望
第Ⅱ部 ダム湖周辺の生態系
第5章 試験湛水ならびにダム運用後におけるダム湖周辺の植生の動態
1 はじめに
2 ダムのタイプと運用法
3 日本のダム周辺と河川の植生
4 湖畔の変化の様相
5 貯水池上流端(ダムの流入部)の変化の様相
6 今後の課題と展望
第6章 ダム湖周辺植生の保全・回復とモニタリング
1 はじめに
2 箕面川ダムと箕面の自然
3 ダム計画から調査研究までの経緯
4 調査研究と目標
5 課題解決型実験の方法と結果
6 実用化への道
7 貯水池の植生モニタリングと結果
8 今後の課題と展望
第Ⅲ部 ダムによる生物の移動分断
第7章 ダムによる河川昆虫の個体群分断
1 ヒゲナガカワトビケラの生活環
2 ダムによる個体群の分断
3 河川昆虫の遺伝的集団構造
4 分子マーカーの選択
5 三保ダムにおける河川昆虫の個体群分断効果検出の事例
6 今後の課題と展望
第8章 ダムの分断による淡水魚類の多様性低下
1 はじめに
2 ダムと魚道、カルバート
3 北海道でのダムによる淡水魚類の多様性低下
4 ダムと外来魚
5 今後の課題と展望
第9章 底面穴あきダムの生態学的可能性
1 はじめに —— 穴あきダムとは
2 益田川ダムの地理と背景
3 ダムの上流側の実態
4 ダムの下流側の実態
5 穴あきダムの課題
第10章 渓流魚のための河川管理
—— 繁殖促進と在来個体群保全
1 はじめに
2 堰堤やダムのある川でのサケ科魚類の生態
3 自然繁殖促進のための河川管理 —— 堰堤・ダムの空間配置法
4 在来個体群保全のための河川管理 —— 絶滅回避法
5 今後の課題と展望
第Ⅳ部 ダムの下流への影響
第11章 河川・海岸の土砂動態と土砂管理
1 はじめに
2 遠州灘海岸と天竜川
3 海岸構造物の影響
4 天竜川のダム再編とその影響の予測
5 今後の土砂管理の課題
第12章 河川の有機物動態とダムの関係
1 はじめに
2 河川の有機物動態
3 有機物動態からみた河川生態系
4 ダムが有機物動態に与える影響 —— 揖斐川における事例
5 今後の課題と展望
第13章 ダム下流河川における栄養塩・一次生産者の様相
1 はじめに
2 ダムの流出物による河川環境の変化
3 河川の一次生産者への影響
4 一次生産者の変化と魚類、水生昆虫
5 今後の課題と展望
第14章 河床地形の生態機能とダム影響の軽減対策のあり方
1 はじめに
2 河床地形の生態機能
3 貯水ダムによる河川の地形変化の影響と生態的変化
4 貯水ダムの生態系影響を軽減する方途
第15章 ダム下流河川の植生の動態
1 はじめに
2 試験湛水後まもなくの影響
3 ダム建設40年後の様相
4 今後の課題と展望
おわりに
索 引
書 評
関連書
『生態系サービスという挑戦』 グレッチェン・C・デイリー、キャサリン・エリソン 著
『東アジアモンスーン域の湖沼と流域』 坂本 充・熊谷道夫 編